10-3 再会
梨穂がお風呂から出ると、先ほどのテーブルに梢女が待っていた。
「お客様のご希望通りという訳には参りませんが、なんとか考えてみました。スマホを出していただけますか?」
梨穂は、警戒心を解いたわけではなかったが、断るわけにもいかず、再びテーブルについた。そして、レモンサワーを注文した後、梢女の言う通りスマホを開いた。
「犬の絵のアプリありますか?」
見ると入れたはずのないアプリが画面
「ありますが……」
「それを開いてください」
梨穂は警戒しつつも、言われる通りにした。アプリを開くと、画面に梨穂の目の前にある景色が映し出された。
「カメラですか?」
「そのまま少しお待ちください」
梢女が言うので、カメラを動かさないでいると、
「わん!」
という犬の鳴き声がした。梨穂が鳴き声のする方向にスマホを向けると、そこには現実にはいないペロの姿が映っていた。
「ペロー!」
梨穂が満面の笑みを浮かべると、吸い寄せられるように、スマホが梨穂顔の近くまで移動した。
画面の中のペロが梨穂の鼻を舐めまわした。……ように梨穂には感じられた。
「やめて、ペロ……ウフフフフ……くすぐったい」
梨穂は梢女の顔を見た。
「これは?……」
「お客様の中にあるペロについてのデーターをアプリにしました。匂いや感触はお客様の脳で感じているものでございます。ご満足いただけましたか?」
梨穂はスマホの中のペロに魅入った。仕草の一つ一つがペロそのものだった。久しぶりの再会に、感動で言葉も出なかった。
その様子を見て、梢女は席を立った。
「お客様、ペロは、お客様の意識そのものです。それを忘れないでください」
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