8-7 大切なもの
那楽華のソファーで目覚めた笑太は、そのまま家に帰った。
「ただいま」
玄関に立った笑太は、妙な感覚に囚われた。
「俺、今なに言うた?ただいま?一人暮らしやのに……」
不思議な感覚に囚われながら、テレビの前の座卓にカバンを置き、シャワーを浴びた。
(風呂入って帰ってきたのに、いつもの癖でシャワー浴びてもうた)
シャワーから出た笑太は、バスタオルを肩にかけ、冷蔵庫に直行した。
「あれ?麦茶きれ……て、る……ぞ?」
(いかんいかん、また
笑太はビールとコップを座卓に置いた。
(今日は、もう、飲んで早よ寝よ。なんか頭がおかしくなりそうや)
ビールのプルタブを持ちながら、明日のスケジュールが気になった笑太は、座卓に置いたカバンを開けた。
「なんや?これ」
カバンの中に、リングケース、そしてその中にエンゲージリングが入っていた。
笑太は、動けなくなり、涙があふれてきた。何か心に大きな穴が空いたような、大切な何かを失ったような強い悲しみが湧いてきた。
「なんや、これ。なんや、これ」
自問するが、答えの出せない自分に苛立ちながら、それでも自分の頭をほじくり返すように、記憶を掘り起こした。
「誰かいたんや、……その人を俺は、自分で消した……」
笑太は、浴びるように酒を飲んで気を失うようにして寝た。その横に置かれていたリングケースは、砂のように崩れるように消え、笑太の記憶と同様、跡形もなく消えていった。
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