7-7 待って

「ナルケンの大.霊.界」


 隣の住人、成田賢三のユーチューブ動画を佳奈は見つけた。チャンネル登録三万二千で、一年くらい前から配信を始めていた。


「はあー」


 佳奈は画面に映る賢三を見て、大きなため息をついた。


「あーあ、せっかくお茶出してくれたのに、もっと話せば良かった」


 二十七にして恋心に目覚めた佳奈は、気持ちを伝えたいのに、なかなかその一歩を踏み出せないでいた。


 動画は十分程度で終わり、カメラを設置したことや、これからの意気込み、物件について語られたところで終わった。


 それからも動画は配信されていたが、「音が聞こえた」「白い煙が見えた」といった内容のものばかりで、コメントに、「隙間風がどこかの雑音だろ」「外の光と埃や煙だろ」と突っ込みが書き込まれていた。


 こうして一ヶ月が過ぎた頃、賢三が佳奈の部屋を訪ねてきた。


 佳奈は嬉々として、ドアを開けた。


「今日、何も出なかったら、引っ越すんで、挨拶に来ました。ちょっと期待してたんだけど、諦めて、次探します」


 突然の引っ越し宣言に佳奈は慌てた。あれからも何度か顔を合わせ、自分の本心を話す機会があったのに、何も言えてなかったからだ。


「も、もし幽霊が出たら、もう少し居てもらえますか?」


 佳奈の変な問いかけにも賢三は笑顔で答えた。


「んー、どうだろう。撮れた映像にもよるかなあ」


 自分の本心が出てしまったことに気づいた佳奈は、顔を真っ赤にした。


(居てもらえる。……なんて……私、何を言ってるんだろ)



 賢三が帰った後、佳奈は声に出して呪いさんを呼んだ。何としてでも今夜、隣の部屋に出てもらわないと、賢三が行ってしまうのだ。


「どうして出てこないの。あの時は突然玄関に立っていたのに……」


 そこまで言って、佳奈は気づいた。


(あの時は、……そう、隣の部屋で呼びかけた後だった。つまり、向こうに行って呼びかけたから私の部屋に来たんだ。隣で呼ばなきゃ)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る