5-5 襖の向こう

「いらっしゃいませ、早希様。お待ちしておりました」


 那楽華に行くと、梢女が迎えてくれた。


「梢女さん、私が来るのを知ってたみたいですね」


「ええ、……と言っても数分前ですけどね。タバコ屋のじいさんが知らせてくれるんですよ」


 早希は(なぜタバコ屋のじいさんが)と思ったが、気にしないことにした。


「そんなことより、早希様、あなたを待っていました。一つ引き受けてほしい仕事があるのです。お時間よろしいですか?」


「ええ、娘はしばらく帰ってきませんし……梢女さんの願いであれば、できるだけのことをしますよ」


 梢女は早希が持ってきたお風呂セットを見た。


「あっ、お風呂はその仕事の後がいいと思います。汗を掻くと思いますから」


 話をしているうちに、早希は梢女に先導されて、ロビーの端に来た。


「ここに襖がありますよね」


 梢女が指差す先には、周りの雰囲気とはミスマッチな襖があった。


「この襖の奥に行ってほしいんです」


「それだけ……ですか?」


 妙な依頼に、早希の声は裏返った。


「そうです。まずは行ってみてもらえますか?行けば私のねらいも分かるはずなので……。けっして危険なことではありません。むしろ早希様にとっては有益なことでございます。ここは私を信じて、どうかーー」


「いいですよ」


 早希はあっさりと承諾し、襖を開けた。人の家の匂いがして、奥から声も聞こえた。早希が立ち止まっていると、梢女が軽く背中を押した。


「では閉めますね。頑張ってください。あと、戻る時はこの襖からどうぞ」


 襖が閉められ、早希は声が聞こえる方に歩いて行った。

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