2-2 こずめ

 十分も歩いただろうか。成美は那楽華ならかの湯の前にいた。


かと思ったら、まるで昭和の銭湯だね。汚いと嫌だな」


 那智楽華の湯と書かれた暖簾のれんくぐるとロビーが現れた。


 外から見たのとは違い、内装は成美の予想を良い意味で裏切る現代風のしつらえだった。


 成美は靴箱の鍵を受け付けに預け、浴室に向かった。




(やっぱ広いお風呂はいいわあ)


 露天風呂から空を見上げると、いつのまにか夕焼け空になっていた。


 夕焼け空はヤケに人を陰鬱な気分にさせる。


 丈瑠のことを忘れようとすればするほどこれまでのことが思い出されてきて、悲しみがこみ上げてきた。


「お客様、いらっしゃいませ」


 ふいに後ろから声をかけられた成美は、一瞬ビクッとして振り向いた。

 そこにいたのは黒い服を着た店員だった。年は成美と同じくらいで、目線を成美に合わせるため、しゃがんで話しかけていた。


「私、お客様を担当することになりました。梢女こずめと申します」



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