第8話 自身


 クロエさんが仲間になってから数日間が経ち狐獣国の観光をしているとまた、狐獣人に話しかけられた。


「お嬢様にメイソンさん、ルーナさん! これどうぞ!」

「あ、ありがとうございます」


 俺は狐獣人からリンゴをもらう。ここ最近なぜか、狐獣人に会うと食べ物などをもらうことが増えた。あまつさえ、俺たちのことを英雄と言う人すら出始めたぐらいだ。


(英雄なんかじゃないんだけどな)


 俺やルーナはレッドウルフの討伐と言うクエストを受けて、結果としてレッドウルフ討伐がクロエさんを助けることになっただけで、英雄なんて言われるほどの人じゃない。つい、ひとけが居ないところでため息をついてしまった。


「はぁ~」

「どうしたの?」

「どうかしましたか」


 ルーナとクロエさんは、首を傾げながら心配そうに話しかけてきた。


「いや、英雄って言われるほどのことはしてないと思うんだよね。なのにみんな英雄とか言ってくれるからさ」


 すると、ルーナは笑顔になりながら言った。


「いいことじゃん! 私たちはこの国を救ったんだから」

「そうですよ。少なからず私やエークを助けられたのですから、私たちからしたら、メイソンやルーナは英雄ですよ」

「......。そっか」


 まあクロエ様が言う通り、少なからずそう思ってくれている人はいるってことだと思う。でも俺の思う英雄は、勇者と同列のイメージであった。


 すると、クロエ様は俺とルーナを連れて、ある場所に連れていかれた。広場から十分ほど経ったところで、クロエさんは立ち止まり、指をさして俺たちに言った。


「ここを見たら、メイソンも少しは勇気が着くと思うよ」

「......」


 クロエ様に続くように俺とルーナも中へ入ると、そこには小さな狐獣人の子供がたくさんいた。そして、子供たちはクロエ様に近づいて行った。


「あ! クロエ姉ちゃん!」

「うん! 今日は紹介したい人が居てね」


 クロエ様がそう言うと、子供たちは俺とルーナの方を向き、ハッとした顔をして指をさしながら話しかけてくる。


「あ~英雄だ!」

「英雄だ、英雄だ!」

「みんな、メイソンさんとルーナさんって名前だから、きちんと挨拶するように」

「うん!」


 子供たちが続々と俺たちの前に立って、お辞儀をしながら挨拶をしてきた。すると、その中の一人が俺に向かって頭を下げてきた。


「本当に助けてくれてありがとうございます」

「え?」


(俺はこの子を助けていないぞ?)


 首を傾げながら呆然としていると、クロエ様が俺の耳元で言った。


「この子は、メイソンさんたちと一緒に戦った親衛隊の子供なのですよ」

「......」


 その子供は俺に続くように言う。


「お父さんが言ってた。英雄さんがいなければ、お姉ちゃんは助からなかったかもだし、もしかしたらお父さんも死んでいたかもって」

「......」

「だからありがとうございます」

「うん」


 その後も子供が続々とお礼を言ってきて、俺たちは少し子供と遊んだ後、屋敷を後にした。


 俺たちは少し歩いたところで、クロエ様が真剣そうな顔で問いかけてきた。


「あそこは学校みたいなものです。もしメイソンさんにルーナさんがいなければ、ウルフに攻め込まれて、この国は壊滅の危機であったでしょう。だから自信をもってください」

「は、はい」

「だから言ったでしょ! メイソンは自己評価が低すぎるんだよ!」


 クロエさんとルーナに言われた通りだ。俺やルーナが居なければ、この国は危険な状況に陥っていたかもしれないし、最悪さっき会った子供たちが死んでいたかもしれない。


 そう考えると、少しは自分がやってきたことに自信がついてきた。


「二人とも、本当にありがとな」


 二人は笑顔になりながら頷き、屋敷に戻った。そして等々、狐獣国から出る日がやってきた。


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