第4話

「月が2つあっただってぇ⁈」

 

 結果から言うと俺は割とすぐに告白したゲロッた

 光弥がどうやってか知らないが捕ってきた魚を焼いて食った後に。


「………本当に2つあった」

「プロのクライマーもびっくりの木登りの速度」

 

 俺の話に驚いた次の瞬間には近くの木をよじ登り始め、数秒後には月を確認できる高さまで登り切った光弥は、月を見て叫び、落下するみたいに降りてきた。

 

 しばらく、戻ってきてからもぼんやりと光弥は重なる木の葉で地上からは殆ど見えない夜空を見上げていたが、ハッと何か閃いたような顔で俺に顔を向けた。


「これは、アレだな」

「言うな」

 

 何を言うかなんて分かりきってた。

 だから聞きたくなかった。


「異世界だ」

「言うなって言ってんだろ!!」

 

 パニックになっていて騒いでいたのとは違う、怒気の混じった声が思わず出た。


「明………」

 

 俺を見つめる表情から、光弥がやっぱり俺とは違い、この状況を楽しんでいること確信する。


「………おかしいだろ、これからって時に。謎の渦に吸い込まれたと思ったら森の中で、空を見上げたら月が2つあって。………そんなのネットか小説で十分なんだよ」

「でも現実に起こっちまった事は仕方がないし………」

「んなこたぁ分かってんだよっ!! だから何だってんだ⁈ 魔王でも倒せってか!! 世界救えってか!! それともなんだチートでスローライフでもしろってか⁈ 不遇スキルで恋人寝取られてパーティ追放されたけど覚醒したら実はチートスキルで魔神倒して女神たちとハーレムでもすんのか⁈」

「設定盛り込み過ぎて何言ってるか分からないうえにお前の趣味と性癖が垣間見えて辛い。あと理不尽に怒鳴られて辛い」

「辛いだと⁈ 嘘をつくな!! だってお前は楽しんでるじゃねえかっ」

 

 言ってから、しまったと思った

 これは、言うつもりは無かった。

 知ってても、気づいても、言ってしまったら、返事を聞いてしまったら。


 俺はこの何処かもわからない場所で、一人ぼっちになってしまう。


「………んな訳ねぇだろ。俺はただ、今どうやって二人で生き残るか必死で考えてただけだよ」

 

 すぐに嘘だと見抜けてしまう、コイツとの付き合いの長さを呪った。

 光弥は嘘つくときに左手の親指と人差し指をこすり合わせるのだ。


「………………そーか、すまん、急に怒鳴ったり、変なこと言ったりして」

「おう」

「そりゃ、光弥だって、帰りたいに決まってるよな」

「………おう」 

 

 さらに嘘を重ねさせてしまった。 

 でも嘘だとしても、その言葉に縋らせてほしかった。

 

 こんなにも味方にいて心強いやつなどなかなかいないのだから、と俺の中の打算的な性格がささやいた気がした。





 この嘘はこの先ずっと光弥を苦しめることになるだろう。

 もうしばらくすれば背負うであろう重い運命と一緒に。

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