第30話 国王陛下の招待状

 スタートゲートに逃げ込んでいたが、久方振りに王都の家に跳ぶと伝言受付箱に、ゲルアトさんからの書簡が入っていた。

 王家から夕食のお誘いと、報告したい事があるとの事だ。

 取り合えずゲルアト商会に行ってみると、即座に2階に通された。

 

 「ユーヤさんお待ちしていました。国王陛下から夕食の招待状を預かっていましてね、何時貴方に渡せるのかヒヤヒヤしましたよ」

 

 「すいませんねゲルアトさん、面倒事を片付けたら森の空気を吸いたくなって森で遊んでました」

 

 「もう少し広い家を借りて、連絡を受け付けて貰える人を配置した方が宜しいですよ」

 

 「ゲルアトさんには随分御迷惑を御掛けしていますからね。考えておきます」

 

 「いえいえ、それよりも夕食の御招待となっていますが、例の騒動の後始末の事でしょう。ユーヤ様に御相談が有るそうなので、早めに返事をした方が宜しいでしょう」

 

 「いえ書状でのやり取りは面倒なので、今から王城に行って片付けて来ます。連絡用の家と要員は近々手配しますので、それ迄御迷惑を御掛けしますが宜しくお願いします」

 

 早速王城に出かける事にしたが、ゲルアトさんが馬車を用意して王城迄送ってくれた。

 乗り心地は悪いがこの世界では上質な部類だろう馬車は、テクテク歩くより遥かに早いし便利である。

 

 衛兵に招待状を見せて取り次ぎを頼む。

 待つこと暫し近衛騎士二人に案内されて着いたのは、ベイオスと名乗る宰相閣下の執務室だった。

 

 「陛下の招待状を、お持ちだそうですが」

 

 「あれ、確認したから呼びに来たのでは無かったのかな」

 

 「そうだが、18日も前に出されたもので、王家の招待状を受け取り3週間も何をしていたのか知りたくてな」

 

 「3週間と言われても、森で遊んでいて王都には居なかったのですよ。俺の家には誰も居ないので、取り次ぎも連絡もゲルアト商会を介してですので、責められる謂われはないのだが。遅かったのが御不満かな」

 

 「あれ程の騒ぎを起こしておいて、森へ遊びに行っていただと」

 

 「お気に召さないのなら、その招待状は無効って事で帰らせてもらうよ」

 

 「君、帰るから案内を頼むよ」

 

 「冒険者でプラチナランカーと聞いたが、傍若無人だな」

 

 「あっ冒険者辞めちゃったので、プラチナ関係ないよ」

 

 「君、さっさと案内して。出来ないなら勝手に帰るよ」

 

 「送ってやれ」

 

 「面倒な世界だねぇ。序でに言っておくけど、ゲルアト商会には今後一切連絡をしないでね。連絡をすれば、阿保な貴族と同じ目に合わせてやるからな」

 

 近衛騎士の案内で城門に送ってもったが、何やら揉めているよ。

 面倒事は御免なので、横をそっとすり抜ける。

 

 「お待ち下さい、ユーヤ様に御座いましょうか?」

 

 「あー、そうですが何か」

 

 「陛下がお待ちです、御案内致します」

 

 「あれれ、ベイオス宰相閣下のお眼鏡に敵わない様なので、招待はお断りして来ましたので失礼します」

 

 声を掛けてきた身なりの良い従者が、俺と近衛騎士を交互に見て言葉も出ない様子だが知らないよ。

 そのまま帰らせてもった。


 * * * * * * *


 テレンザ国王は従者の話を聞き、即座に宰相を呼び出した。

 

 「ベイオス、誰がお前にユーヤの身分の確認をしろと命じた! ユーヤを案内した騎士を呼べ!」

 

 「陛下、身分賎しき者を、何の調べもせずに陛下の御前に参上させる訳には参りません。然も、彼の者は冒険者を辞めてプラチナランカーですらない。只の流民崩れですぞ」

 

 呼ばれた騎士二人が陛下の前に跪く、ユーヤと宰相の一部始終を話せと命じたが宰相を慮んばかって言葉を濁す。

 

 「ベイオス、暫し席を外せ!」

 

 渋々出ていくベイオス宰相。

 ユーヤとベイオス宰相のやり取りの一部始終を聞き、国王の顔色が完全に変わっていた。

 詳細を伝えた騎士も、護衛の騎士も震えあがった。

 護衛の騎士に命じて、ベイオス宰相を呼び出した。

 

 「お前は最近のユーヤに関する一連の出来事が、何を意味するのかも知らぬのか! 宰相の任に相応しくない者を、その職につけておく訳にはいかん。控えの間で謹慎しておれ」

 

 近衛騎士に命じて、ベイオス宰相を控えの間に連行し謹慎させた。

 ゲルアト商会に連絡する訳にもいかなくなった、連絡すればユーヤの怒りを煽るだけだ。

 一番ユーヤを理解しているナンセン団長を呼び、ユーヤとベイオス宰相の一連の遣り取りを騎士に説明させる。

 

 「あれだけの情報が有るのに、ベイオス様は何んて馬鹿な事を仕出かしたのですか」

 

 ナンセン団長も思わずぼやくが、連絡はユーヤの家に直接出向いて会えるのをひたすら待つか、手紙の返事を待つかだけだ。

 手紙の返事は、ベイオス宰相のせいで相手にして貰えない確率が高い。

 先ず無視されるだろう。

 ナンセン団長は、陛下直筆の事情を記した書状を使者に持たせ、ユーヤに会えるまで彼の家の前で待つしかないと思った。

 

 国王もゲルアト商会を宛に出来なくなり、冒険者ギルドも使えないので他に方法はないと、ナンセン団長の言葉に頷くしか無かった。

 国王は、ナンセン団長に昼間はユーヤの家に張り付く事を命じた、多分一番ユーヤを理解し扱える人物なので適任である。


 * * * * * * *


 翌日ユーヤの家に出向くナンセン団長とは別に、ベイオス宰相が国王陛下に呼び出された。

 円卓に座る陛下の周囲を近衛騎士団長,国軍司令官,魔法師団団長,他外政内政を司る重職の面々が待ち受けていた。

 最後に室内に入ったベイオス宰相には、陛下の正面、円卓より少し離れた席が用意されていて、査問会議の様相だ。

 ベイオス宰相は、何故この様な事態に為ったのか理解出来なかったが、陛下に釈明して納得させなければ失脚する事は理解出来た。

 

 始まった会議は完全な弾劾裁判となった。

 ベイオス宰相は自身の無理解が王国を危険に晒し、ユーヤが他国に移れば一国を凌駕する戦力が敵に回る事を漸く理解したが、遅かった。

 ユーヤはこの国に執着が無い。

 王都ではゲルアト商会のみが彼の知り合いで付き合いがあり、他に友人知人の居る気配はない。

 サランガの街に居る、数名の冒険者と付き合いが有るのが解っているがそれだけだ。

 

 森を一人彷徨い、ワイバーンやアースドラゴンのレッドアイを気軽に討伐し、尚且つ自身と同等の力を有すると称する猫を従えている。

 あれは見掛けは猫だが膨大な魔力を有するもので、誰も知らない魔獣なのは間違いない。

 ユーヤと共に歩む猫を見た、魔法師団の高官が震えあがってそう報告した。

 

 ユーヤが同等の力を有すると言い、魔法師団の高官が魔法師団が束に為っても猫一匹に勝てる見込は無いと震えている。

 その猫を同等の力を有すると言ったが、従魔と同等など有り得ない。

 それ以上の力が無ければ、従える事など不可能だ。

 ユーヤが敵に回ればどうなるのかは火を見るよりも明らかで、現に一度は城門の前に立ち破壊する寸前だったのだから。

 

 ベイオス宰相はユーヤに対する数々の評価を過大評価と見做し、冒険者風情を恐れる国王をも侮っていたことを後悔したが遅かった。

 円卓に座る近衛騎士団長、国軍司令官、魔法師団団長、他外政内政を司る重職達の厳しい視線に晒され、如何なる弁明も無駄だと悟った。

 

 「ベイオスお前の宰相の任を解く。屋敷に戻って謹慎しておれ」

 

 国王の冷たい声に、静かに頭を下げて引き下がるしかなかった。

 テレンザ国王は、ナンセン団長に全てを委ねて待つしか無かった。

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