第43話 私はちょっと欲求不満気味
「ふわー」
すっきりした気分で伸びをすると隣にはすやすやと眠る
そして、いつの間にか布団に入って来てた
修ちゃん……旦那様の寝顔を見ていると妙にあどけない感じがして、可愛いと思ってしまう。そして、ついでに……
(ちょっと襲っちゃいたい)
そんな事を思ってしまった自分に愕然とする。
朝からこんなことを考えているなんてはしたないにも程がある。
奔放なところがあると言われる私でも節度はある。
(それもこれも修ちゃんが悪い)
責任転嫁だって言われそうだけど、嬉しい事をいっぱい言ってくれる。
新婚旅行では私のために色々考えてくれるのがわかるし、お金や手間をかけさせたくないから国内にしようかと思っていた事まで見抜かれて、色々準備されていた。
私の旦那様はこんなにいい人だぞ、って自慢したいくらい。
優ちゃんも最近
高校の頃からの友達に話すと「うらやましいなー」とか「良い旦那さんだね」なんてよく言われるけど、私たちの事を小学校の頃から見知っている優ちゃんとそうじゃない友達の差かもしれない。
とにかく、嬉しいことを最近特にいっぱいしてくれるし言ってくれるから、その……性欲だって湧き上がってしまう。
(はあ……気分変えよう)
朝からこんな爛れた思考をしているなんてみっともない。
珍しく修ちゃんより早起きしたし、顔を洗って身だしなみを整えたら食事の準備でもしよう。
◇◇◇◇
食事の準備をしている内にようやく頭がしゃっきりとしてほっと一息。
ただ、この悩みは誰かに聞いてもらいたい。
修ちゃんが悪いわけじゃないのもわかってるから、私自身が解決しなきゃだし。
でも、優ちゃんだとこの悩みはピンと来ないだろう。
嗅覚でわかる。優ちゃんはまだ未経験だと。
他の友達は私と修ちゃんの特殊な関係性を理解してくれないから、悩みがうまく伝わるか自信がない。とすると……お母さん?
相談相手としては多少微妙だけど、性の悩みだったら一番わかってくれそう。
「おはよう、百合。なんか珍しいな」
私がやけに早起きして既に配膳まで済ませているからだろう。
両親はさらに早くて既にお父さんはお仕事で、お母さんは何やら家事を適当に片づけたりママ友さんとお話していたりすることが多い。
「ちょっとたまには、ね」
気分転換が半分。もう半分はいつも私のために色々してくれる旦那様へのささやかなねぎらい。
「百合。ありがとうな」
ぎゅっと優しく抱きしめられて、少し色々まずい。
ときめいてしまう。
「ううん……私も修ちゃんのために何かしたいだけだし」
「そっか」
「うん」
しばらく何も言わずに二人で抱き合っていた。
その後、静々と食事を終えた後、洗い物や部屋の掃除を終えて。
私はお母さんの部屋の前に立っていた。
やっぱり暑さに弱い修ちゃんは既に自室だ。
「お母さん、ちょっと相談があるんだけどいい?」
「いいわよ」
ちょっと久しぶりにお母さんの自室にお邪魔だ。
主婦向け雑誌や健康関係の雑誌、ラインの使い方の雑誌。
10代の女性向け雑誌まである。
お母さんなりに、私との接し方を考えた時期もあったのかな。
投資の本やライフプランに関する本もあるのは今後を見据えて?
(ちょっと見直したかも)
なんて思ったけど、
『孫ができたらまず読む本』
『孫育ての新常識』
なんてのもあって愕然とする。
お母さんは本気で私たちの子どもをお世話する気だ。
子育てに協力的なのは嬉しいけど先走り過ぎ。
「お母さん、冗談じゃなく孫が出来た時のこと考えてるね」
何この母親、という目線を向けてみる。
「半分は冗談だけどね。子どもが近いうちに出来る可能性も低くはないでしょ」
「だから避妊はちゃんとしてる」
「でも、出来ちゃう可能性はあるでしょ?それに、百合自身の気持ちはどうなの?」
「私の……気持ち?それはいずれは欲しいけど、まだ大学生だし」
子どもは欲しいけど大学生活だって謳歌したい。
就職を考えると大学生の内に出来ちゃうと色々諦めないといけないかもだし。
もちろん、出来たらきっと嬉しいんだろうなあっていう気持ちはある。
「いずれとかじゃなくて、今どう思ってるかの話よ」
「今……」
言われてハッとする。
確かに、学歴がどうとか修ちゃんにも負担をかけちゃうかなとか。
そういう事を考えて、
「私はどっちでもいいけどね」
真剣に考えようと思っていた矢先に流されてしまった。
調子が少し狂ってしまう。
「ちなみに百合が今作ってくれるなら私が全面的にバックアップするわよ?」
「考えておく」
なんかお母さんは私が子どもが欲しい気持ちを刺激するために誘導尋問している気すらする。気が付いたら乗せられて本当に妊娠してるなんてこともありえそうでちょっと怖い。
「ところで相談なんだけど」
「百合が本気で相談なんて珍しいわね。大体自己解決しちゃうのに」
「そんなに相談しなかった?」
とこれまでの生活を振り返って、確かに両親に深い悩みを話したことはあんまりなかったことに気づく。初潮が来た頃とかはさすがに色々話したけど、それ以外はどっちかというと修ちゃんに色々聞いてもらっていたのだ。
「驚くくらいね。一人で抱え込んでるのかと思ったこともあるけど……」
ああ、それでなのかと少し納得した。
お母さんにしてみれば悩みがあるのが普通な年頃なのに全然相談してこないと不安にもなるだろう。
「ごめん。実は大体修ちゃんに聞いてもらってた」
こういうところも私たちの関係が少し特殊なところなのかもしれない。修ちゃんとの間柄は昔からある意味家族よりも家族らしい。
「そんな事だろうと思ったけどね。とにかく、それでどうしたの?修二君関係?」
「やっぱりわかっちゃう?」
「だって、百合がそれ以外の事で相談してくるなんてなさそうだもの」
お母さんやお父さんは私のことをどういう目で見ていたのだろう。
しかも当たっているのがなんとも悔しい。
「エッチなことの悩みなんだけど。お母さん、若い頃欲求不満になったことある?」
言っててこういうことを親に相談するのもどうなのだろうという気がしてきた。
「若い頃っていうか今の方が深刻ね」
「そ、そうなんだ……」
考えてみればお父さんとお母さんだって昔は恋人同士で、それから結婚して。
愛し合って私が産まれたわけだ。当然、同じように男女の悩みだってあるだろう。
そんな当然のことを今更気づいた。
「あの人も最近、欲求が出てこないって言って相手してくれないこと多いし」
「その……お父さんとはどこでしてるの?」
つい興味が湧いてしまった。
生活していてお父さんとお母さんの声が聞こえて来たなんてことはなかった。
「それは色々ね。百合が居ない時とか、ラブホテルに行ったり」
「お母さんも普通の女性なんだね」
「それはそうよ。今更何言ってるのよ」
なら、正直に話してしまってもいいのかもしれない。
「修ちゃんがね。たぶん夏バテだと思うんだけど、先に寝ちゃうことが多いの」
「それで百合は欲求不満なのね?」
「認めるのは嫌だけど……たぶん」
求められるのに対して応えてあげている。
そんな形じゃないとはしたない感じがしてしまう。
「修ちゃんが悪くないのはわかってるの。新婚旅行の件でもそれ以外でも色々してくれてるのはわかるし。だからその……どうしたらもっとムラムラしてくれるかなって」
こういう悩みって普通のことなんだろうか。
聞き耳を立てても彼氏の方が性欲が旺盛で逆に困るというのをよく耳にする。
たまに逆の話もあるにはあるけど。
「そういうのはさすがに親の手には余るけどね。すぐ寝ちゃうっていうのは、疲れてるってことじゃないかしら」
「たぶん。修ちゃん、昔から自分で気づかない内に無理しちゃうことあるから」
修ちゃん的には別に無理しているつもりもないんだろう。
ただ、時々無理をしてるなって感じることがある。
「そうね……修二君、家のこととかかなり色々やってくれてるわよ」
「それはわかってるつもり。気が付いたら食器が下げられてたり」
「主夫っていうのかしらね。なんだかんだで疲れる事もそれはあるわよね」
「修ちゃんに負担押し付け過ぎてたんだね」
甘え過ぎないようにはしていたけど、私の方がもうちょっと負担を減らした方がよさそう。
「そこまで気負わなくてもいいけど、疲れが原因なら、少し修二君が負担しているのを代わりにしてあげたら?」
「うん。そうする。なんだかんだでお母さんはお母さんだね」
「それはあなたたちの倍以上は生きてるもの」
なんかやけに嬉しそうなお母さんの笑顔が印象的だった。
というわけで有言実行。
部屋に戻ってまずはマッサージだ。
「気持ちいい?」
うつ伏せになった修ちゃんを後ろからマッサージ。
マッサージは素人だけど最近はコツを掴みつつある。
どこが特に凝っているかとか。
「ああ。すごく気持ちい。でも、なんで急にマッサージ?」
「ちょっとしてあげたくなったの」
今、お疲れ様の意味を込めてとかいうのは少し恥ずかしいし。
「お義母さんと何か話してただろ。なんかあったか?」
鋭い。もう、修ちゃんには全て見透かされてる気がする。
「ちょっと修ちゃんの負担を減らしてあげようって。ただそれだけ」
「別に気負わなくてもいいんだけど。なら、お言葉に甘えて」
だんだんと身体が柔らかくなっていくのを感じる。
考えてみると家でゲームをするとき、姿勢が悪いかもしれない。
今度、その辺りも勉強しておかなくちゃ。
ああ。こういう、色々してあげたいっていう気持ち。
時々凄い湧き出て来る。こうなると色々困る。
「修ちゃんの事大好きかも」
つい、あふれ出た気持ちを口にしてしまっていた。
「照れくさいんだけど。俺も百合のこと大好きだぞ」
そういうのやめて欲しい。私が抑えられなくなりそうだし。
と思っていたら、急に姿勢を変えて座り込む修ちゃん。
「あのさ……唐突で悪いんだけど」
微妙に落ち着かない様子でこちらを見据えてくる。
表情は……何故か恥ずかしそうで、息も心なしか荒いような。
「ムードなさすぎだと思うんだけど」
あ。次に来る言葉が何かわかってしまった。
「ひょっとして……したくなった?」
さっきの「大好き」だろう。シンクロしちゃったのがわかる。
「まあ……そういうこと」
夫婦の営みっていうのは案外こういうのが普通なんだろうか。
なんてことを思いつつ、いつもより色々してしまったのだった。
こういう時はいつもより凄く気持ちいいのが少し気恥ずかしい。
☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆
夏らしいイベントなんかも盛り込んだ初夏のお話でした。
次は新婚旅行のお話の予定です!
☆☆☆☆☆☆☆☆
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