第20話 プールに行こう

「あづいー。もう太陽が消えればいいのに」


 やっぱり暑い今日この頃。

 太陽にすら悪態をつきたくなる。


「太陽が消えたらきっと極寒になると思うな」

「マジツッコミはやめてくれ」

「冗談はともかく。今日で終業式だから、ガンバ!」


 エイエイオーと何やら元気な百合ゆり


「百合もちょっと前は暑い暑い言ってたのに……」

「だいぶ慣れたよ。しゅうちゃんは暑さに弱いんだから」

「そこを言われるとなんともいえないな」


 しかしだ。今日が終われば夏休み。

 もちろん、受験勉強はしないといけない。

 でも、登下校の時や教室移動の時など。

 凄まじい暑さに晒されることは少なくなる。


「夏休み、息抜きにどっか行くか?」

「む?ひょっとして、プールへ行こうってお誘い?」


 ニシシと笑いながら見つめてくる。


「とか言って、防御力の高い水着着てくるんだろ?」


 百合は水着としてはセパレートタイプをあまり好まない。

 セパレートタイプは泳ぎにくいとのこと。


「今年は修ちゃんのために防御力低いの着てもいいよ?」

「具体的には?」

「ビキニタイプのとか?あんまり露出高いのはやだけど」

「わかってるって」

「ところで、修ちゃんは私にどんな水着着て欲しい?」

「黙秘権を行使する。だいたい、俺の本棚見たらわかるだろ」

「そだねー。修ちゃんは清楚系な水着が好きだよねー」

「とりあえず、水着の話題はその辺にして。どこのプール行く?」


 一番近場だと市民プールだけど、しかし。


「あ、市民プールとかは勘弁な」

「そだね。「見ろ!ゴミが人のようだ!」な有様だしね」

「逆だろ、逆」

「そのツッコミを待ってました」


 どうでもいい漫才をしている俺たち。

 でも、プールは確かにいいかもしれない。


「ウォータースライダーとかあるところはどうだ?」


 泳ぐだけだと少々退屈だ。


「カップルで滑る?」


 まーた、百合の奴は何を考えているのやら。


「ま、まあ。そういうのもありかもな。で、ゆうも誘わないか?」


 百合と同じく小学校の頃からの付き合い。

 そして、偶然にも宗吾の彼女になった娘でもある。


宗吾そうご君も一緒に誘わない?ダブルデートってやってみたかったの!」

「いいな。ダブルデート。よし、早速誘おう!」


 考えてみれば、そもそも優とは別高に行ったせいか遊ぶのが久しぶりだ。

 さらに言うと、宗吾とどんな恋人関係を築いているかも知らない。

 意外に優が初心だったりしたら、楽しいかもしれない。


「修ちゃん、修ちゃん」

「ん?」

「なんか、悪い笑顔してるよ?」

「いや。初心な優が見られるかなーと思うとな」

「確かに、優ちゃん、宗吾君にどんな風に接してるんだろ」


 そんな事を話しながら、ダブルデートの結果を練る俺たちだった。

 体育館でお決まりの挨拶やら何やらがあって終業式はあっけなく終了。


 教室では夏休みの諸注意。

 今年の夏は受験の夏だから羽目を外しすぎないように。

 でも、時には息抜きも重要であること。

 夏場は暑いから熱中症に注意などがあって解散となった。


「おーい、宗吾。ちょっと話があるんだけど」


 百合と二人揃って、帰ろうとしていた宗吾の席に駆け寄る。


「ん?どうしたんだ?」

「いや、今年の夏の過ごし方で相談があるんだ」

「夏の過ごし方?」

「受験勉強ばっかだとしんどいだろ。どっか遊びに行こうって話」

「そうそう。四人でどう?」

「悪くないんだけど、カップルの中に男一人ってのもなあ……」


 息抜きにプールは悪くない。

 でも、カップル+1という微妙な状況に引け目を感じているらしい。

 しかし、既に朝の内に優には百合が話をつけているのだ。


「そこはだいじょーぶ。優ちゃんも誘ってあるから」


 ニヤリと笑みを浮かべる百合。


「ゆ、優さんが?いつ……って、優さんとは幼馴染だったか」

「そういうことだ。ダブルデートってのも良くないか?」

「そうそう。優ちゃんの水着姿も拝めるよ?」


 二人揃って畳み掛ける。

 宗吾は常識的な奴だが、彼女と夏を謳歌したいともきっと思っているはず。

 ダブルデートという形を取れば、きっと来る……と思うんだが。


「わかった。行くよ。でも、あんまりからかわないでくれよ」


 諦めたように頷いた宗吾は、からかわれるのを心配しているらしい。


「しないって。生暖かい目で見守るだけだから」

「そうそう。生暖かい目で、二人がイチャイチャしてるのを見守るだけ」

「お前らに、そういう悪ノリする部分があるのは意外だな」


 確かに、これまでの俺たちなら人の恋路にどうこう言ったりはしなかった。

 しかし、恋人として関係が安定して来ると、他のカップルの生態が気になるのだ。


「とにかく、からかったりはしないから」

「そうそう。一緒に楽しもう?」

「わかったよ。しかし、優さんには俺が来る事伝えてあるのか?」

「たぶん、宗吾君も来るよーって言ってあるよ」

「根回しが早い事で」


 こうして、俺と百合、宗吾と優のダブルデートが決まったのだった。


「そういえば、私の水着選んでよ。修ちゃん」

「自分の趣味丸出しみたいで気が引けるんだけど」

「そんなの今更でしょ。修ちゃんは彼女たる私に好きな水着を着てほしくないの?」

「欲しい」

「じゃあ、行こ?修ちゃんがどんな水着選んでくれるのか楽しみだなー」


 二人でいつものように話していると。


「本当に息ぴったりなことで」


 宗吾がいつものようにため息をついていたのだった。

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