第四章:迷宮区【ディープブルー】
第1話【放置された迷宮区】
今日も今日とて数多くの
やたら黄ばんだ紙が貼られており、どうやら相当長いこと放置されていた迷宮区のようだ。
試しに紙を掲示板から引き剥がして、フェイは内容を確認する。報酬内容もよく、迷宮区の内容もやることはその他の迷宮区と変わらないものだ。
「マスター、これは?」
「何だい?」
フェイはご主人様のユーリに
「なるほどねェ、これほど好条件な
「だよね」
アルゲード王国の迷宮区案内所は世界最大級と謳われており、こう言った掘り出し物も多い。中堅の
地雷の迷宮区か、本当にただ見つからなかっただけの迷宮区か。
「よし、フェイ」
ユーリは黄ばんだ紙をひらりと揺らし、
「この
「了解」
そんな訳で、早速手続きである。
申請の区画は驚くほど探索者がおらず、珍しく並ばずに受付嬢へ黄ばんだ紙を提出することが出来た。受付嬢も退屈そうにしていたので、ようやく仕事が来たと言わんばかりの素早い仕事の腕を見せた。
ところが、黄ばんだ紙に記された内容の迷宮区を確認してから、受付を待つフェイとユーリの元へ受付嬢が深刻な表情を浮かべて戻ってくる。
「あの、本当にこちらへ行かれるんですか?」
「何だい、迷惑だとでも言いたげだねェ」
「いえ、迷惑だなんてとんでもない。出来ればすぐに片付いてほしいと思っている案件なのですが……」
受付嬢は悩ましげに「うーん」と唸ってから、小声でコソコソとフェイとユーリに耳打ちする。
「実はこの
なるほど、とフェイは納得する。
基本的に迷宮区は早い者勝ちを掲げているので、予約という制度はない。どれほど探索者組合が「予約していた」と主張しても、他の探索者が踏破してしまえば知ったこっちゃないで済まされる話だ。
ところがどっこい、今回予約を主張している探索者組合は、現在最も大きいとされる探索者組合だ。まず組合の首魁がSSS級探索者なので、案内所も強く出れないようだ。
結果的に『銀獅子調査団』という探索者組合の言いなりになってしまい、この迷宮区が忘れ去られてしまったという訳である。
その話を聞いて納得したユーリは、
「SSS級
「性格悪いな、その『銀獅子調査団』っての」
フェイが本音を漏らせば、それを最も近くで聞いていたユーリが「そうだねェ」と言う。
「まあいい、ここはアタシらが踏破するよ。申請しな」
「ですが、予約が」
「その件は『銀獅子調査団』の連中にこう言っておきな」
ユーリは受付から身を乗り出し、受付嬢に悪い笑顔を見せながら告げた。
「ユーリ・エストハイム様がいただいたよ、てねェ。そうすりゃ『銀獅子調査団』の連中の怒りの矛先はアタシに向くさ」
「マスター、それはマスターに負担が」
「いいのさ」
フンと形のいい鼻を鳴らしたユーリは、
「『銀獅子調査団』ってのは、アタシの元仕事仲間が
ユーリは「紙とペンを持ってきな」と受付嬢に要求する。
受付嬢は慌てた様子で紙と羽根ペンを持ってくると、インク瓶を受付に置いて「どうぞ」とユーリに手渡した。
羽根ペンを受け取ったご主人様は、インク瓶にペン先を浸すと紙にサラサラと何かを書き込んでいく。全く詰まることなく文章をしたためてから、丁寧に折り畳んで受付嬢に手渡す。
何の文章を書いたのか気になるフェイだが、ご主人様が満面の笑みだったので聞けなかった。だけど絶対に
「これを『銀獅子調査団』が殴り込んできたら渡しな」
「えと、これは……?」
「絶対に中身を見るんじゃないよ。見たらアンタがやったものと思われるからねェ。一応アタシの名前は記したけれど、相手は自分の思い通りにならない奴がいるとなりふり構わず八つ当たりするからねェ」
ユーリからの文書を受け取った受付嬢は、青褪めた表情で「わ、分かりました」と応じる。
「それでは手続きをいたしますね。少々お待ちください」
「頼んだよ」
ユーリは上機嫌な様子で受付嬢を送り出す。
いつも受付嬢に食ってかかっているご主人様と比べて、態度がえらい違いだ。一体どういう風の吹き回しだろう。
それに、普段なら奴隷待機所で待つように言われるはずなのだが、今日は一度も言われていないのだ。受付嬢からも睨まれていない。
フェイは奴隷がいても気にした様子を見せない探索者が行き交う案内所内を見渡し、
「マスター」
「何だい、フェイ」
「俺、今日何も言われてないんだけど」
「何をだい」
「いや、いつもなら奴隷は奴隷待機所にとか言われるのに……俺、今日は何も言われないなって思って」
「そういえばそうだねェ」
ユーリもフェイの扱いが改善されたことに気づき、申請の手続きが終わって戻ってきた受付嬢に質問をする。
「奴隷の扱いがよくなったのかい? なんかアタシに対する態度も変わったしねェ」
「最近、
受付嬢もほとほと困り果てたとばかりに愚痴を漏らし、
「踏破報酬は多くて、でも死にたくないから危険の少ない
「随分と甘ったれた
ユーリが眉根を寄せると、受付嬢は「そうなんですよ」と頷いた。
「ですのでユーリ様には何も言いませんし、フェイ様も奴隷と申す割には身綺麗になさって礼儀正しいので特に注意することはありません」
「なるほどねェ。ウチのフェイの良さがようやく世間も理解したようだねェ?」
ご主人様のユーリは大変満足そうにしていた。自慢の奴隷が身綺麗で礼儀正しいと言われたのが嬉しいのだろう。
受付嬢はユーリの言葉に適当な相槌を打ちながら仕事をこなし、あっという間に申請の手続きを済ませてくれた。
申請書を手渡しながら、受付嬢は清々しいほどの笑顔で言う。
「それではお気をつけて行ってらっしゃいませ」
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