ドラゴンスレイヤーだと? 竜なき世界では無用じゃ! と国王から追放されたけど、実は全ての存在に特攻効果をもたらす最強スキルでした! どうやら竜は生きていて、祖国が攻め込まれているらしい……
コータ
第1話 第一王子と儀式
青々とした空を見上げつつ、庭で座り込んで休んでいる少年がいた。
彼の名前はロラン。ここレシア国の第一王子である。
「あらあら、ロラン様。そのような所でお休みなされるより、城内で涼まれたほうが宜しいのではないですか?」
彼がふと視線を向けた先には、一人のメイド長がいた。背筋を伸ばして直立しその頬を緩めている。赤髪を綺麗に後ろで編んでおり、背はすらりと高い。おまけに胸部の膨らみにおいては、ロランは彼女以上を見たことがない。
「もうちょっと剣の練習をしたら戻るよ。いや、魔法の練習もしなくちゃいけなかったんだ! ベラ、今日は光魔法の先生は来てくれるのかな?」
ベラと呼ばれた女性は呆れたようにため息をついた。
「今日はお休みですよ。ロラン様は熱心が過ぎますわ。お身体を壊してしまいますよ」
「僕には力が足りないんだ。もっと強くならないといけない。休んでる暇なんかないよ」
ロランは立ち上がり、腰に差していた剣を抜いて稽古を再開する。既に早朝から昼までずっと剣を振っていた。なぜここまで努力をするのかといえば、凡人と変わらぬ強さを持つ存在は次期国王に相応しくない、と父から常々教えられていたことが理由である。
彼には弟と妹がいて、みな幼くして剣術や魔術の才能を見出している。しかしロラン自身は今のところ凡人であり、特出した才能は何も見出せていない。
しかし、才能に乏しいとされる男にもチャンスがくる。明日、十五歳の誕生日にスキル授与の儀式を受けることが決まったのだ。
スキル授与の儀式とは、人生でただ一度だけ特殊技能を与えられる場であり、人によっては運命すら変わると言われている。
この日まで、確かにロランは自らの未来に希望を抱いていた。
◇
次の日の朝。
とうとう儀式当日になり、興奮のあまり夜遅くまで寝つけなかったロランは、多少ではあったが寝坊気味になっている。
「ロラン様。起きてくださいまし。もうすぐ儀式のお時間ですよー」
ベラのふんわりとした声が耳に届き、はっと目を覚まして飛び起きた。
「むぐぐぐぐぐ……んぐ!?」
「おはようございます! ちゃんと起きれましたねえ。偉いですよ。それではお着替えをして、式場に行きましょうねえ」
微笑を浮かべるメイドは何事もなく話を進めようとするが、ロランは口元にある物を外して抗議の目つきをした。
「おはよう。っていうかベラ。これは何かな? 僕はもう、とっくにこんなものを付ける年齢ではないけど?」
「あらあら! 私としたことが、ロラン様の寝顔が可愛かったので、つい! うふふふふ」
どういうわけかおしゃぶりを咥えさせられていたロランは、またか……と少しばかり苛立った。ベラは何故かたまに、まるで自分を赤子のように扱おうとするのである。少しの油断もあったものではない。長い付き合いのせいか、不敬だぞ! と怒る気にもなれず、とにかく儀式の会場へと急いだ。
レシア城内に設けられた大聖堂の中で、国王と貴族達が集まって談笑している。神父も祭壇の前に待機しており、いよいよ準備は万端といったところ。身支度を整え、大聖堂扉前で入場の合図を待っていたロランは、緊張と興奮で落ち着かなかった。
召使い達や騎士達は、口々に白い鎧に身を包んだロランを褒め称える。彼はまだ国王ではなかったが、国内では既に民衆からの高い支持を得ているほど人気があった。優しく真面目で、誰も見下すことのない性格を愛されている。
ほんの少し待った後、二人の騎士が静かに扉を開き、儀式の主役にお辞儀をする。赤い絨毯の上を王子はただ無心で歩き、そして祭壇前で足を止めた。神父もまた緊張を隠せなかったが、できる限り明るく接してくる。
「ようこそおいで下さいました、ロラン様。これより、あなた様にスキル授与の儀式を行わせていただきます」
「はい。宜しくお願い致します」
いよいよだ、と聖堂内にいた百人近くの関係者が息を呑む。誰よりも目を爛々とさせているのは、父であり国王でもあるギルだった。武芸を尊ぶレシア国において、長男ロランは物足りなかった。しかし、優秀なスキルさえ授与できれば話は変わる。
「いよいよだな。頼んだぞ、ロランよ」
「はい。父上」
祭壇のすぐ近くで固唾を飲んで見守る父に、息子は笑顔で返す。やがて神父の指示により瞳を閉じ、辺りは静寂に支配される。聖堂の天井付近から、まるで太陽の輝きを思わせる光が舞い降りてきた。
丸く煌めく光が、静かに少年の頭上に降り、やがて消え去った。神父は詠唱をやめ瞼をあけ、目前にいる少年が何を与えられたのかを確認する。
国王は思う。【大賢者の至宝】を得たのではないかと。
ロランは祈る。【剣心の極意】を習得したいと。とはいえ、戦いに役立つスキルであれば充分だとも考えていた。
神父は少しの間無表情で立ち尽くしていた。次第に額には汗が浮かび、口元は震え、誰から見ても動揺しているのが分かる。
「ど、どうしたのじゃ! 神父よ。我が息子ロランは一体何を授かったのだ? さっさと申せ!」
「はっ! も、申し訳ございません。その……ロラン様が授かったスキルは、ドラゴンスレイヤーでございます」
周囲の時が止まったようだった。ロランもまた、何を言われたのか解らない。
「ドラゴン……なんじゃって?」
「ドラゴンスレイヤーです。説明は不要かと存じますが、かつて世界を滅ぼす寸前まで追い詰めた竜。その竜達をも圧倒することができる、ただ一つのスキルにして、」
「も、もうよい。分かっておる。そんな話は、もはや耳がむず痒くなるほど幼少より知っておるわ!」
国王の態度が豹変した。ロランは驚きと、恐れていた微かな不安が現実になりつつあることに恐怖が湧いた。
「ロランよ。ワシはのう。お前の努力については、認めてきたつもりじゃ」
「は、はい」とかろうじて返事はできた。しかし、その後の言葉が続かない。
「お前ほど真っ直ぐに、幼い時から努力を怠らなかった子を、ワシは知らぬ。それは評価に値する……値する……が」
体を前傾にして、ワナワナと震えている国王の態度に、貴族達は恐怖している。やがて彼は顔を上げると、目を血走らせて叫んだ。
「無意味なスキルを覚えおってぇ! 竜のない世界で、そんなもん覚えてどうするつもりだ! 貴様は本当に無能な奴じゃ!」
ロランは返す言葉がなかった。以降数日間、彼は国王と会うことさえ許されない日々が続くことになる。
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