【世界異次元旅行記】ミスターロコモーティヴと砂の精

サトウ サコ

プロローグ『砂の精の夢』

 丸い月がぽっかり浮かぶ街の中。

 子供はベッドに潜り込む。

 重たいまぶたがぐうっと下がって、次の時には夢の中。すうすう 優しい寝息を立てる。


 すると子供の体から、夢が飛び出てきた。壁をすり抜け、家の外へ。

 そこには他の子たくさんいて、みんなと一緒に歩いてく。

 先頭には、青い服着たお兄さん。海の色したお兄さん。

 お兄さんは楽しく歌う。


『 砂の精とは手をつなぎ 丘を目指して歩こうか

 赤毛の道化は橋のもと 母親のろわれ汽車の中

 どんなに足掻あが藻掻もがこうと 僕の夢からでられない

 僕は輝く砂の精

あしたは誰と遊ぼうか つぎはどこへと歩こうか 』


 とっても綺麗なお兄さんのうた。とっても奇妙なお兄さんの詩。

 お兄さんは何度もその詩を歌うから、子供たちも一緒に歌いだす。


『 あしたは誰と遊ぼうか つぎはどこへと歩こうか 』


 みんなで楽しく歩いていると、急にお兄さんは立ち止まった。

 子供の首にさげられた輪っかのネックレスを指差して、「これはどうしたんだい? 」と聞いた。

 すると子供はにっかり笑って、「ママから貰った、お守りだよ」と。

 しかしお兄さんは笑わなかった。

 その時、お兄さんの頭の上から、赤い雨が降ってきた。

 それに驚いた子供たちは、一目散に駆けて行く。


 輪っかの首飾りの子供だけが、その場に留まり固まっていた。

 だって青いお兄さんが、首飾りに吸い込まれちゃったのだから。





  長いトンネルを真っ逆さまに落ちていく様な感覚に襲われ、男はベッドの上でね起きた。


 丸いステンドガラスから、月明りのみが差し込む薄暗い部屋。

 がたん がたん と振動するのは、ここが汽車の中だからだ。

 暗い部屋で、丸く縁取られた時計が、午前2時を指し示した。枕代わりにされている丸いクッションは、男の汗でびっしょりと濡れている。丸い地球儀は クルリ とまわり、丸い鏡が部屋の主を映し出した。

「くそっ──また“アレ”の夢か……」

 鏡に映し出されたのは、赤い髪の男だった。

 男は額から大粒の汗を垂れ流し、丸いガラスのボトルから、水を一気に飲み干した。

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