記録 手紙(東野宮家)
この風習は東野宮家初代当主チヨから始まる。
当時、この辺りでは男尊女卑の風潮が非道なまでに強く、女性当主とはあり得ないこと。
なので、当主とはいえど実質の当主だった。
では、なぜ彼女が当主たり得たのか。
彼女の持つ力である。
千里眼や未来予知。中でも彼女を畏れとして敬わせたのは呪殺だ。
金、また当時のそれに類するものを貢げば誰であろうと殺してみせたとのこと。
現状、その力を検証することは不可能だが、
その名残りをあの大穴から見て取れる。
大穴に住まう神の伝承は村と我々の間では、大きく異なる。
当時、この辺り一帯を支配していたのは一重家であるが、
その力を持って参入したのが東野宮家である。
チヨの力を以って、掌握することは簡単だった。
しかし、次第に東野宮家の政策は横暴を極める。
常に支配体制を作り上げるために、最も裕福な家を
捧げものとして大穴に突き落とした。
こうすれば村の存続は確かであると。
作物など収穫物、それがチヨの力であったのか示すものは分からないが良くなったのもまた確かである。
しかし、それをよく思わないものはいる。
一重家を筆頭とし、力を持っていた家々が力を削げ落とし、
隠し続け、一揆を引き起こす。
遂にチヨは、村人たちによって大穴へと落とされてしまった。
それで、その騒ぎは終わったように思えたのだが、
終わりはしなかった。
米は採れず、川の魚も死に絶え、動物たちは生き長らえず、
人々は望まずとも飢餓に陥ってしまう。
チヨの呪いであるという噂も当然、広がっていく。
そして不可思議な出来事が起こる。
馳走が家の前に並んだのだ。
それほど奇妙な出来事が故に食べたものは少ないが一重家もそれを食べた家の一つであった。
それからは儀式が再開し、食べなかったものが捧げものとして選ばられるようになり、食べたものは常に支配する立場へと立つこととなる。
その馳走が何であったのか、判明することはなかったがよもつへぐいではないかと言われている。
現代、我々の現状へと話は繋がるが、これを書き残そうと思った原因である。
これは東野宮家の存続に繋がる事態である。
東野宮家はこれまでチヨの血筋によって安泰であると思われていた。
事実、これまで他の家々とは違い、問題なく安住を続けていた。
しかし、この三ヶ月の間。たった三ヶ月の間で兄は病死し、弟は事故で死んだ。姉と娘は行方不明となった。
残りは私一人である。
何が起こっているのか私でももう理解の範疇を超えてしまっている。
せめて理由さえ分かれば少しは安心するのだろう。
追伸
一重家の様子が変だ。
やはり一重家と東野宮家の繋がりは絶たなければならない。
なにか起ころうとしているのは違いない。
これを読んでいる方へ。
姉の佳子と娘の美智子には気を付けてください。
もう私の手の届かないところに行ってしまったようです。
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