第34話 空の支配者

 リリスが不死ノーライフキング・炎竜王フレアドラゴンを倒すべく帝都の北西へ向かった直後。

 まるでそのタイミングを見計らったように……いや、見計らったのだろう。

 一匹の魔物が帝都の上空に現れた。


 全身に黒い炎をまとった巨大な鳥が。



「姉貴が危惧してた通りですね」


「うん。アリアたちでなんとかしないと」


 アリアとクララの二人がその魔物の存在に気づいた時。

 その魔物もまた標的を捕らえるべく、大通りに向かって急降下を開始した。


 炎の鳥が向かう先は、大通りの真ん中で止まっている馬車。

 皇帝たちが乗っている馬車だ。


「ピュー!」


 炎の鳥に気づいた護衛の騎士たちが剣を向けようとするが。

 炎の鳥が放った攻撃が着弾するほうが先だった。


 黒い炎の矢が騎士たちに突き刺さる。

 炎の矢がボッと燃え上がり、騎士たちの体を包み込んで一瞬で燃やし尽くした。


「……ッ!」


「ひぃっ!?」


 皇帝が目を見開き、アホ面皇太子が悲鳴を上げながらしりもちをつく。

 怯えた表情で空を見上げた皇女と炎の鳥の視線が交差した。


 炎の鳥がその鋭いかぎづめで皇女を鷲掴みにしようとするが。



「させませんよ!」


「ドラゴンパーンチ!」



 ギリギリ滑り込んだクララが皇女を抱きかかえて、炎の鳥のかぎづめから皇女を逃がす。

 カバーに入ったアリアが、【龍装】状態で炎の鳥を殴り飛ばした。


「ピギャァァア!」


 炎の鳥が吹き飛んでいく。

 炎の鳥は近くの建物に激突してめり込んだものの、すぐに建物を燃やし尽くして上空に逃げた。


「あっつい! あっつい! 手が燃えちゃう! フーフー」


 腕をブンブンしてから、フーフーと必死に息を吹きかけるアリア。


『クソが。邪魔をするんじゃねぇよ』


 炎の鳥は忌々しげな眼でアリアたちを見下ろした。




「た、助かりました……。ありがとう……ございます?」


 クララに優しく地面に降ろされた皇女が礼を言う。


「姉貴があなたのことを高く評価してたから助けただけですよ。私たちはあの鳥の魔物を倒すから、あなたは隠れててください」


 クララは皇女にそれだけ告げてから、戦場に戻った。




 一方アリアたちのほうは……。


「なんだよあの化け物は!? それになんで薄汚い亜人風情がこんなところにいるんだよ!?」


 皇帝は炎の鳥との力の差を感じ取って黙り込んでしまい、アホ面皇太子はパニックになって喚き散らかしていた。


『雑魚の分際でピーピー騒ぐんじゃねぇよ。目障りだ』


 地上十メートルほどの高さで滞空する炎の鳥が、鬱陶しそうに言い放つ。

 その殺気にあてられて、アホ面皇太子は泡を吹いて気絶してしまった。


 炎の鳥がアリアを睨む。


『お前は何者だ? 俺の邪魔をしたらどうなんのか、覚悟はできてんだろうな?』


「邪魔をしてきたのはお前もだよ。せっかくお姉様たちとお祭りを楽しんでたのに! 焼き鳥にしてやるから覚悟しろ!」


 炎の鳥に向かって宣戦布告するアリア。

 そこへ皇女を助けたクララが戻ってきた。


「お待たせしました。ここからは私が援護しますよ!」


 相手は空を飛ぶ鳥の魔物。

 くわえて強力な炎で身を包んでいるため、物理攻撃は相性が悪い。

 だから、クララは天月弓を構えた。



『わかったよ。テメェら全員焼き殺す!』



 “空の支配者”不死デス黒炎鳥フレアフェニックス

 レベル250の化け物が、二人を敵と認識した。



「十五連狙撃!」


 クララが矢を射る。

 神速の勢いで射られた十五本の矢が、デスフレアフェニックスめがけて突き進む。


 が、空の支配者たるデスフレアフェニックスには当たらない。

 矢の間をすり抜けたデスフレアフェニックスが、黒い炎の矢をお返しとばかりに放った。


「危ない!」


「とう!」


 その場から飛び退いて躱す二人。

 二人はすぐに体勢を整え、アリアは爪を。クララはナイフを構えた。


 対空手段がなかったのは、少し前までの話だ。

 アスモデウスの特訓からさらに修業を積んだ二人なら、デスフレアフェニックスにダメージを通せるだけの遠距離攻撃が可能だった。


「連続【飛爪斬】!」


 アリアの爪から放たれた斬撃が、デスフレアフェニックスの進行先へ襲いかかる。

 一つ一つの攻撃範囲が大きいその斬撃は、デスフレアフェニックスの動きを確実に制限していく。


『チッ! 鬱陶しい!』


 アリアが斬撃でデスフレアフェニックスを誘導したところで。


「次は私の番ですよ! 【斬撃波】!」


 クララが振るったナイフの先から、アリアの【飛爪斬】と謙遜ない威力の斬撃が飛ぶ。

 武闘大会で初めて使った時とは、比べ物にならないほど精度が上がっていた。


 ――ザシュッ! と。

 クララの放った斬撃は、デスフレアフェニックスの翼を大きく切り裂いた。


『ぐぅ……! ふざけんじゃねぇよ! 【フレアブレス】!』


 デスフレアフェニックスが口を膨らませる。

 刹那、すべてを焼き尽くす業火がアリアたちに迫った。


「アリアお願いします! ちょっとヤバめですよ!」


「アリアに任せて! 【水龍ブレス】!」


 アリアが口から激流の光線を吐く。


 水のブレスと炎のブレスがぶつかり合い。

 両者の攻撃は拮抗するが――


『ぐがあ!?』


 デスフレアフェニックスが悲鳴を上げた。


「私の存在を忘れないでくださいよ」


『テメェ……!』


 クララが矢を射ったのだ。

 翼に矢が刺さったことで、ダメージを喰らったデスフレアフェニックス。


 拮抗していたブレスのぶつかり合いは、デスフレアフェニックスがダメージに気を取られたことで、一気に攻勢が変わった。


「がああーーー!!」


 アリアの【水龍ブレス】の勢いが一気に強まる。

 激流の光線が黒い業火を押し返し、デスフレアフェニックスの胸に直撃した。


『ぐああああああああぁぁぁぁぁああああ!?』


 激流に呑まれたデスフレアフェニックス。

 だが――。


『こうなったら、すべて焼き尽くしてやる! 地獄の業火で細胞の髄まで燃えてなくなれ! 【地獄黒炎装】!』


 デスフレアフェニックスがまとう黒い炎の熱量が倍以上に増し、【水龍ブレス】の水を全部消し飛ばした。

 蒸発した水が水蒸気となって、空気中に霧散していく。



『覚悟しろ。俺のとっておきを使ってやるよ』



 巨大な黒炎の塊と化したデスフレアフェニックスが、高らかに宣言した。

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