第32話 不死炎竜王

 直後――ドゴォォォォンッ! と。

 爆音が響き渡り、音のしたほうを見れば、巨大な火柱が昇る光景が視界に映った。

 その上空にはドラゴンっぽいのが飛んでいた。


「やっぱり生誕祭のタイミングで来たわね」


 私は二人のほうを向いてから告げる。


「私はあのドラゴンを倒してくるわ。二人には荷が重い相手だからね」


 街中で超電磁魔力砲レールガンをぶっ放すわけにはいかないし、私一人で充分な相手。

 だから二人は連れていかない。


「その代わり、二人は引き続き警戒をよろしく。あのドラゴンは陽動って可能性もあるからね」


「「ラジャー!」」


 ビシッとポーズをとって返事をした二人。

 私は二人の頭を軽く撫でてから、帝都の北西部を破壊しようとしているドラゴンのもとに向かった。


 幸いにも皇帝のパレードのおかげで、帝都の住人たちは帝都中心に集まっている。

 ドラゴンが攻撃している場所は無人状態だから、建造物以外の被害は出ていない……と思いたい。


 そんなことを考えながら、移動する。

 帝都の建物の上を駆け、一直線に突き進む。

 すぐにドラゴン――ではなく、ドラゴンのゾンビのもとまでたどり着いた。


「すぐに暴れるのをやめなさい! 殴るわよ?」


「グゥォ……?」


 骨に腐肉をまとっただけのドラゴンのゾンビが、私を見下ろす。

 虚ろな眼窩がんかで私を見据え、興味なさげに腕を振り下ろしてきた。


「自我が希薄きはくみたいね……。目的とか聞きだせないじゃない」


 私は溜息を吐きながら躱す。

 刹那、私がさっきまで立っていた建物が木っ端微塵こっぱみじんになった。



 私はドラゴンのゾンビを見て、【鑑定】を発動。

 種族は“不死ノーライフキング・炎竜王フレアドラゴン”か。

 レベルは280。この前のスライムより少し弱いくらいね。


「……もしかしてだけど、このドラゴンゾンビって温泉襲撃事件の時の炎竜王かしら?」


 ドラゴンゾンビの攻撃を躱しながら、観察を続ける。

 骨格といい大きさといい、あの時の炎竜王とそっくりね。

 おまけにあの時の炎竜王と同じ攻撃を使っている。

 同一ドラゴン説は結構有力みたいね。


「まあどちらにせよ、放っとくわけにはいかないから倒すんだけど」


 ドラゴンゾンビが尾で薙ぎ払いを繰り出す。


 私は紙一重でそれを回避。

 そのままドラゴンゾンビに肉薄して。


「アンデッドはおとなしく冥界に帰りなさい!」


 ドラゴンゾンビの顔面を、グーで思いっきり殴りぬいた。


「グギャァォオオ!」


 ドラゴンゾンビが悲鳴を上げる。

 首をあり得ない方向に曲げながら、私から距離を取ろうと後退した。


「今のじゃ死なないか。やっぱりアンデッドはタフね。面倒だわ」


 ドラゴンゾンビが首を無理やり動かし、私を睨みつけてくる。

 驚愕といった感情が、わずかに伝わってきた。


「魔法・物理に高い耐性を持ってるのに、なんで私に大ダメージを与えられたのかって? 簡単よ。アンタの耐性よりも、私の攻撃力のほうが高かったってだけよ。【物理無効】なんて大層なスキル持ってるみたいだけど、大したことなかったわね」


 私が一歩踏み出すと、ドラゴンゾンビは一歩あとずさった。



「ごめんね。最強で」



 私はそれだけ告げると、一瞬でドラゴンゾンビの胴体の下に移動。

 ドラゴンゾンビがそれに気づくより早く、ドラゴンゾンビの腹部に強めのパンチを放った。


「グギャアアアアァァァアアア!?」


 ドラゴンゾンビの悲鳴が響き渡る。

 パンチの衝撃波がドラゴンゾンビの体を突き抜け、その肉体を粉々に打ち砕いた。


「チェックメイト。さすがのアンタでも、ここまでダメージを負ったら再生できないでしょ?」


 私はドラゴンゾンビを見る。

 ぼろぼろに打ち砕かれたドラゴンゾンビの頭部が、最後の力を振り絞って私を見た。

 虚ろだった瞳にほんの小さな光を宿し。



『ありがとう……。今度こそ……解放された……』



 それだけ告げてから息絶えた。


「……やっぱり同一ドラゴンだったわね」


 にしても、やっぱり誰かに操られてたみたいね。

 解放されたって言ってたし。

 誰に操られてたのか聞けなかったのが悔やまれるわ。


 私は元炎竜王に軽く手を合わせてから、二人のもとに帰ろうとして――。


 ――そう簡単にはいかないみたい。

 アンデッドドラゴンを倒したばかりっていうのに、もう次の刺客がやって来た。



「次は何よ?」



 私の目の前に、新たに二匹の魔物が現れた。

 真っ黒い人型の塊が、ニュッと音もなく地面から生えてきたのだ。


 私に気配を感じさせないとはなかなかやるわね。

 そういうことに特化した魔物かしら?



『イヒッ、お前がリリスか?』


『イヒヒ。間違いねぇ。特徴が聞いてた通りだ』


『イヒッ。さあ、俺たちを相手にどうする? こっちにはがいるぜェ』


 二匹の魔物が邪悪に嗤う。

 片方の黒い人型が、抱きかかえている少女をこれ見よがしに見せてきた。



「取り返してみせるわよ。私を誰だと思ってるの?」


『イヒッ、やってみろ。自称最強吸血鬼さんよォ』


『イヒヒ、俺たちを簡単に捕まえられると思うなよ』

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