第22話 決勝トーナメントその②

 決勝トーナメントは第二試合、第三試合も順調に終わり、とうとう第四試合――クララの番がやって来た。



『さあ! やってまいりました、第四試合! アリアーナ選手と同じく今大会ダークホースの一人であるクラリーナ選手と、第一試合で敗れたクロム選手の仲間であるラルド選手です!』



 リングにクララとラルドが立つ。


「フフフ。私もSランク冒険者と戦えてよかったですよ。毒で苦しませてあげられないのが悲しいですが」


 クララとラルドは、役割で言えば二人とも盗賊シーフとなる。


盗賊シーフとしても私のほうが上だということを教えてやりますよ」


「ふぅん。生意気なこと言うじゃん? 俺っちの力を見せてやるよ。ここでお前を倒して、決勝でクロムを倒したあの女を俺っちが倒す」


「決勝で彼女と戦うのは私ですよ。あなたはここで負けるのです」


 クララとラルドが睨み合う。

 一触即発の空気が漂う中、実況が試合開始の合図を告げた。



「第四試合、開始ですッ!」



 試合が始まった瞬間、両者が懐から取り出したナイフを投げた。


「投げナイフは基本だよなぁ?」


「本来なら毒を塗っておきたかったんですけどねぇ」


「それは同感だな」


 お互いの投げたナイフを躱した両者が、ニヤリと笑い合う。


盗賊シーフなら毒を駆使して戦うもんだが、毒物の使用はルールで禁止されている。が、問題ねぇ。俺っちは格闘術にも自信があるのさ」


 地を蹴ったラルドが迫る。

 そのまま蹴りのラッシュを放つが、クララは最小限の動きでそれらを躱した。


「奇遇ですねぇ。格闘術に自身があるのは私も同じですよ。普段は楽しいからヌンチャクで暴れてますけど、こっちなほうが得意なもので」


 クララが回し蹴りから始まり、パンチや蹴りの連撃で攻める。

 ラルドはクララの攻撃を捌きながら、反撃とばかりにパンチを繰り出した。


 拳が迫る。

 クララの顎に向かって一直線に。


「遅いですよッ!」


 クララが姿勢を低くしつつ顔をそらして、ラルドのパンチの直線上から逃れる。

 ラルドの攻撃が外れるのに合わせて、カウンターを放った。


「なっ!?」


 クララの拳が、ラルドの腕の下をすり抜けながら迫り、


「ごほっ!?」


 ラルドの顎を撃ち抜いた。



『クラリーナ選手の重たい一撃が決まったぁぁああ!! いくらSランク冒険者でも、今のはさすがに効いたでしょう!』



 弧を描きながら宙を舞ったラルド。

 そのまま落下してリングに背中から叩きつけられたものの、すぐに起き上がった。


「クソっ……」


 ラルドが口の端から血を流しながら悪態をつく。


 クララの一撃は大きなダメージになったようだが、腐ってもさすがはSランク冒険者。

 闘志を失うことなくクララを睨みつけようとして。


「いねぇ!? どこ行った!?」


 ――クララの姿を捕らえることができなかった。

 クララはラルドを殴り飛ばしてから、すぐにラルドの目でも捕らえられない速度で闘技台の上を駆けまわりだしたのだ。


「気配を感じることができねぇ! どうなってんだ!?」


 ここにきて焦りの表情を見せたラルド。

 斥候職である彼の気配察知技術を持ってすら、クララの位置を把握できなかったのが焦りを生む原因になった。

 それほどまでにラルドは自信の斥候としての能力に自信を持っていたのだ。


「ここですよッ!」


 彼の背後にクララがフッと現れ、回し蹴りを放った。


「どぐぇ!?」


 ラルドの体に重たい衝撃がのしかかる。

 ラルドは血を吐きながら吹き飛ばされた。



『またまたクラリーナ選手の攻撃が決まったぁぁあ!! すごい! すごすぎるぞ、クラリーナ選手! Sランク冒険者であるラルド選手を翻弄しているぅ!』



 観客たちが熱狂する中、ラルドがよろよろと起き上がった。


「負けてたまるかってんだ……!」


 そんなラルドの前に立ったクララが、にっこりとほほ笑んでから告げる。


「次で決着にしましょう」


「俺っちも、そのつもりだ……!」


 ラルドが立ち上がってから、口の中の血をペッと吐き捨てた。



「残念だったな。油断して俺っちの前に立ったのが敗因だ。俺っちを蹴り飛ばした段階で追撃していたら、悔しいけどお前が勝っていたよ。【感覚奪取】!」



 ラルドがスキルを発動した。


 その瞬間、クララの目から光が消える。


「目が見えない!?」


 驚くクララに向かって、ラルドが最高速で迫る。


(【感覚奪取】は相手の感覚を一時的に一つ奪うというもの。視覚を奪った以上、あいつは目が見えていねぇ! 決めるなら今しかねぇ!)


 ラルドが迫る!


「相手の感覚を奪える系のスキルですか。急に目が見えなくなったら混乱して隙を晒すのが普通ですが、私には通じませんよ」


 ラルドがあと一歩というところまで迫った時、クララの右目が赤く煌めいた。



「視覚を奪われてもえますから」



 ラルドの拳があとほんの少しでクララの頬に触れるというところまで来た瞬間、ラルドの視界が暗転した。


「まっ、この程度なら魔眼を使わなくても倒せたんですけどね。視覚が消えたところで、聴覚と気配察知能力があれば案外どうとでもなるものですし。お! 見えるようになった!」


 ラルドを殴り倒したクララは、やり切ったという表情をしていた。



『またまた大番狂わせが起こったぁぁあ! 第四試合の勝者はクラリーナ選手だぁぁああ!!』



 実況の声が響き渡る。

 予想外の大番狂わせを目の当たりにして、コロッセオ中が再び第一試合の時のような熱狂に包まれるのだった。

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