第2話
「・・・わぁっ!」
気が付くとうたた寝していたみたいで、僕は目を開けたことでそれに気付いた。だけど別にしまった、なんて思わない。これが市営のプラネタリウムだったら150円損したことになるけど、僕の宇宙は何時間見ても無料だし、寝っ転がってもいいし、お菓子を食べながら見たっていいんだ。昼でも夜でも平日でも、いつでも見られる。
「よし、今度は双子座のポルックスから」
これは僕に限らない、星が好きな人ならみんな同じ事かもしれないけど、適当な星をスタート地点に数珠つなぎでいろんな正座を探すのが好きだ。明るい星しか見えない街の夜空では見つけられる星座は限られているけど、今はどんなマイナーな星座も探し放題。ずっと遊んでいられる気がする。
こんなに楽しいと「学校では勉強も大事だけど友達とたくさん遊ぶ事のほうが大切よ」と言ってくれる僕の両親の心配に拍車がかかるかもしれない。
母さん達には申し訳ないけど僕は友達と遊ぶよりこうして宇宙空間でのんびりしている方が性に合っているんだ。どうせクラスメイトは僕が好きなものを理解してくれないし、僕だってみんなが好きなものに興味が持てない。別に無視されているわけでもいじめられているわけでも無いのだから、友達がいなくても構わないと僕は思っている。
これは強がりじゃなくて、理解し合えない事への諦めだ。唯一僕にちょっかいをかける最上君だって、僕が理科だけやたら得意なせいで全教科学年一位を逃しているから目障りに思っているだけに違いないし、先生だって僕がグループ分けで余りがちなことをそんなに問題にしていない。
元気に学校に通って、ちゃんと授業を受けている。それだけでいいじゃないか。
「・・・・・・あれ?」
余計なことを考えていたせいか、何度見ても双子座が見つからない。まだ頭が寝ぼけているのか、もっとわかりやすいオリオン座とか北極星を探そうとしたけど、それでも見つけられない。
「おかしいな」
もしかして投影機が傾いているのかもしれない。そう思って僕は両手を使って体を起こした。
しかし、僕の手のひらが触れたのはささくれた屋根裏部屋の木の床ではなく、さらさらの砂だった。
「な、なんだこれ!?」
身体を起こしたところで、僕は初めて異変に気付く。僕の目に映ったのは、どこまでも続く満点の星空と砂漠だった。
「ちょっとまって、どういうことだ。ええっと、状況を整理しよう」
僕が眠っていたのは実家の屋根部屋。しかし今僕がいるのは砂漠のど真ん中。後頭部を軽く叩くと人工砂場みたいにさらさらの砂が落ちてきた。目の前にも砂漠。ずっと砂漠がある。
よくわからないけど屋根裏部屋がいつの間にか砂漠になってしまった。何故砂漠なのかはわからないけどこれはきっと僕の願望が作り出した夢なんだろう。もしかしたら蜃気楼かもしれないけど、とりあえず僕がいるのは夜の砂漠だということに間違いはない。真夏だというのにやけに肌寒く感じるのもそのせいだ。確か夜の砂漠は凄く気温が下がるって何かで読んだことがある。
既に変な事だらけなのだが、もう一つおかしなことに気が付いた。改めて見上げた星空は僕の街では見えないような小さな星々までくっきりと見える広くて高い夜空だ。
けど、僕の知っている星空じゃない。今は夏だから夏の星座が何かしら見えるはずだし、これが手作りプラネタリウムが生み出した奇跡とかなら僕が作った冬の星座が見えるはずだけど、どこを探しても見覚えのある星の並びが見つからなかった。
それになにより変なのが、ここの夜空には月が無い。
夜なのに月が無いという事は、ここは地球じゃないということだ。何よりの証拠に、よくよく見てみると、地面が微かに発光している。砂漠の地面に光源でも埋め込んでいない限りは、星自体が光を放っているのだろう。この星は自分自身が光っている恒星なのかもしれない。
ただ、こんなに程よく涼しくて重力も地球と全く同じ、息をするのにも苦労しない星があるなんて聞いたことが無いからやっぱりこれは僕の夢だと考えられる。
とにかく、ここはあまりに現実的じゃない場所だし、僕が見ているのは人工的にデタラメに作られた星空というわけだ。星座の「せ」の字も知らないような人がいい加減に書いたキラキラしただけの夜空と同じ。
「僕の夢なら、ちゃんとした星空にして欲しかったな」
誰が聞いているわけでも無い文句を垂れてみるが、当然星空は相変わらずデタラメに美しい。
改めて立ち上がり、ズボンやTシャツに付いた砂を軽く叩く。僕の夢(仮)だけど僕の恰好は屋根裏部屋に居た時そのまんまで、つまり裸足だ。砂漠の地面はやけに綺麗でひんやりしていて気持ちが良く、不思議な気分だ。
「さてと、せっかくだし探検してみようかな」
僕は今まで夢の中で夢と気付けた事がなかった。どんなに幸せで愉快な世界を訪れた夢を見ても夢を見ている最中の僕は変な事ばかり気にして全然楽しめないでいた。でも今回は違う、この不思議な星空と砂漠をしっかり堪能できる。
一歩歩くたびに足の裏をさらさら、さらさら、とひんやりした白い砂が撫でてくる。体重をかけると足の甲に砂が乗っかるくらいに沈む感覚は独特で、砂浜を歩いた時よりもふわふわした感覚だ。
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