第22話 四次元フィールドの有用性
時間を止めれるようになったらさ、やってみたいことがあったんだよね。
いや、9割がやらせのあれの1割側じゃなくってさ。
もっと、思考実験的な話。
『マスター、遊ぶの飽きた』
飽きたって……。
こりゃオートレベリングできる日とできない日があるな。まあレベルに急ぎの用事は無いしいいか。
『ちょうどいいや。試したいことできたから、それが終わったら引き返そうな』
『はーい』
獲物を定める。
ちょうど目線を前にやれば、ヒスイ色をした粘液の塊がぶよんぶよんと動いている。
クイーンエメラルドジュエリーだ。
手を前方にかざし、弓を引き絞るように、意識の照準をスライムに合わせていく。四次元フィールドの使い方はなんとなくわかっている。
あとは、放つだけ。
――じゅっ。
一瞬だけ、ごく薄い、真っ黒の平面が、スライムの体を真っ二つに引き裂くように現れた。刹那、その断面から焼き印を押したような音が響く。
「お、おお。本当にできるんだな。時間停止による絶対切断」
『マスター! なにそれ! すごい! 私もやりたい!!』
『多分無理かなー』
『えー、マスターだけズルい! 私もやるー!』
『や、だからスキルだから……』
少し難しい話をしようか。
この世の物質はすべて、原子の結びつきで形作られているのは有名だと思う。ひと言で表すと、その結びつきを断ち切るのが今の技だ。
今回出現させた細長い四次元フィールドは、内部の時間が完全に停止している。するとその境界面上に存在してしまった分子はどうなるだろう。
四次元フィールドに含まれた部分は分かりやすい。
なにせその瞬間、すべての運動が停止する。熱振動だって起こらない。ちょうど風景を写真に収めるように、内部の原子は発動した瞬間で固定される。
だが、含まれなかった部分はそうはいかない。
電子結合によって保たれていた安定性は失われ、その瞬間原子は一気にイオン化する。だが、時の流れる空間では当然、エネルギー保存の法則が成立しなければならない。
そのつじつま合わせに周囲から熱エネルギーを奪い取ったり、あるいは音エネルギーとして還元した結果が、焼き印を押したような音の正体だ。
境界面上に存在してしまった原子はどうなるのだろうか。結論から言えば同様に、断ち切られる。
原子核を切り裂いてしまえば核崩壊が起こる。そうすれば原子は原子としての形を保てない。
地球上のすべての物質は、原子以上に分解できないという前提の上で成り立っているが、四次元フィールドにその前提は通用しない。
ゆえにどんな物質であろうと、四次元フィールドの太刀を受け止めることは不可能。
それこそが、時間停止による絶対切断の原理。
難しい話はここまで。
要するに、俺は四次元フィールドというなんでも切れる刀を手に入れたわけになる。
『あ、マスター。後ろからクイーントパーズジュエリー』
『なにっ!』
こいつ
……いや待てよ?
まだ試したいことはあるんだよな。
『させるかっ』
今度は俺とスライムの間に四次元フィールドを発生させる。それにぶつかったスライムはぼよよーんとコミカルな音を響かせて、明後日の方向へと飛んで行った。
『マスター! 今度は何!?』
『簡単に言うと、絶対に壊せない盾だな』
『さっきは攻撃技だったのに!?』
『どっちも仕組みは同じだよ』
四次元フィールドで包んだ空間内部の原子は、一切の運動を停止する。そこに突撃しようものなら、運動量保存則から全く同じ力で返されるに決まっている。
ゆえに、絶対不壊の盾。
「やべえ、最強の武器と最強の防具を同時に手に入れてしまった」
今はレベルが低く、発生させられる容積が少ないけれど、もっとレベルを上げれば自分を取り囲むよう四次元フィールドを繰り出してフィルターを作ったり、逆に相手を封印することもできるんじゃないだろうか。
それだけじゃない。
ゾーンを使っているときは自分の動きも遅くなるというデメリットがあったけど、四次元フィールドならその制限もなくなる。
自分を中心に一定範囲だけ時間の流れを加速させればいいからだ。あるいは相手の時間だけを遅くしてもいい。この場合、時間の流れの違いで体がちぎれないように意識しないといけないからゾーンとの差別化はあるけれど。
「四次元フィールド、マジ最強」
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