第18話 わざわざ縛りプレイをするつもりなんてさらさらないってこと

 現代にダンジョンが蘇った、翌日。


 世界中で取り上げられるニュースがあった。

 一つは当然、突如現れた未知の建造物について。

 世界各地に、ほぼ同じタイミングで現れた複数の人為的な構造物。そこからゴブリンやスライムといったいわゆる「空想上の生物」らしき発見例が取り上げられているのだ。

 騒がれないはずがない。


 そしてもう一つは、日本に現れた地球外生命体についてだ。

 いわくその二組の生命体は、前述したダンジョンの内、塔型の建物から現れたという。


 服装こそ現代人らしきものだった。

 しかし一方の生命体は、明らかに人ならざる器官を有していたらしい。――翼だ。


『あ、お茶っ葉立った! 凄い!』

『そんなこと言ってる場合かぁぁぁ!!』


 この映像に移ってるの100パーセントこいつじゃねえか!! しかもしれっとその隣に俺も映ってるし!!


「おおおお! 地球外生命体認定食らっちまった! こんなん外を出歩くだけでいい見世物だぞ。いや、場合によっては職質される可能性も……」


 何があったかというと、ダンジョンの帰り道、めんどくさくなってルナの翼で人気のない山まで飛んでいくことにしたのだ。

 ルナだって乗り気だった。「私、マスターのためなら何だってするよ!」とか言ってた。


 だけどこいつ。


 ――あ、人抱えたまま飛べないの忘れてた。


 そんな致命的なこと忘れる!?

 おかげでこっちは地面に向かって真っ逆さま。

 晴れて俺たちは「塔から降ってきた未確認生命体」として世界中に晒される羽目になったわけだ。


 あの高さから落ちて何ともなかったのは、途中で錠前を使って異空間への転移を何度か挟んだから。

 異空間から現実世界に戻る際、座標は元と同じ場所だけど運動エネルギーはリセットできるからな。


 そういえば、転移してる間に自転やら公転やらで全く関係ないところに飛びそうだけどその辺どうなってるのかね。

 周辺の物質に座標点を設置して相対座標を算出とかやってるんだろうか。どうでもいいな。


 ――ぴんぽーん!


「ぎゃああぁぁす、人来た!」

『大丈夫マスター。古来、こういう場面で取るべき最善手は決まっている』

『おお、さすが悠久の時を生きた女子。して、その方法とは!?』

『居留守』

「……」

『居留守』

『わかった。もういい、もう、何も言うな』


 そういえばこの子地底深くでダンジョンに引きこもり続けた子だった。知識なんてため込んでるわけなかった。

 だって「茶柱が立つ」を「お茶っ葉立った」って表現してたし。そこは言語理解の翻訳精度の問題か。


『まあ、この場においては居留守が最善か。よしこのままやり過ごそう』


 ――ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴんぽーん。


「ええ……、なにその執念。こわ」

『マスターマスター、処す? 処す?』

『処すな。まず現代日本の倫理観を学べ』

『うー、体動かしたいよー! 遊びたいよー!』

『んなこと言ったって、今は玄関を待ち伏せされてるし、ベランダから飛び降りようものなら今度こそ逃げも隠れもできなくなるし……』


 ん?

 逃げる方法も隠れる場所もあるじゃねえか。


『ルナ、ルナって覚醒の間に自由に出入りできるんだよな?』

『うん! そういう風に作られたからね!』

『よし、じゃあちょっと移動するぞ』


 カチャンと開錠の音が鳴り響く。

 俺が錠前を解除したからだ。

 滲む視界で、こくりと頷くルナの顔が見える。


『とーちゃーく!』

『よーしルナ。3階に移動する道筋は分かるか?』

『いえーい! 10層までは攻略済みだよ!』

『え、マジか』


 どうりで手も足も出ないわけだ。


『マスター、何するの?』

『んー? できるかどうかは分かんないけど』


 ゲーマーたちには外道な手段なんだろうな。

 とは思うけれど、俺は別にゲーマーじゃないし、手段より効率の方が大事だ。


『パワーレベリング』


 規制されてもいないのに、わざわざ縛りプレイをするつもりなんてさらさらないってこと。

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