六章 来訪者と怪しい青年ー⑨

 ゴーレムとエアレーザーが鈍く大きな音を響かせ殴り合う中、村で戦うシェニーと傭兵達も激しい攻防を繰り広げていた。


「クソ! コソコソコソコソしやがって! そっち行ったぞ!」


 シェニーの姿を捉えた傭兵が仲間に警告するが、次の瞬間には仲間に矢が刺さる。


 村に侵入した傭兵達がこれで場所の不利は無くなり真面に戦えると思ったのも束の間だった。


 村での戦闘が始まって以降、ずっと鋭い風切り音が聞こえたと思ったらどこからか飛んでくる矢で誰かが地面に倒れるているか、何とかシェニーを見つけても直ぐに見失うかを繰り返す羽目になり、既に傭兵達の半数はシェニーの手に掛かり地面に血だまりを作っていた。


「半分は減らしたか。しっかし長い事こいつを握ってなかったから流石に腕が鈍ってんなっと!」


 廃屋の物陰で走り回ったことで上がった息を整え、ボヤキながらも焼け焦げた木材の隙間から見える傭兵にシェニーは愛弓に番えた矢を射る。


 シェニーは傭兵達が村に侵入してからはレッカ達が隠れる家に敵が近づかぬ様に、廃屋を利用して多勢に無勢の傭兵達相手にゲリラ戦を仕掛け、人数差を覆しながら一方的に傭兵達を屠っていた。


 傭兵達は半ば半狂乱になりながらも何とか反撃しようとするのだが村を知り尽くしているシェニーに比べ、土地勘が全く無い傭兵達は真面に彼女を捉えることが出来ずにただ数を減らす一方であり、トーゼもいつ自分に矢が飛んでくるか気が気でなかった。


「くそ、アイツらも傭兵を用意しやがったのか。……あの赤いフードに弓ってもしかして赤の死神じゃねえだろうな」


 赤の死神、それは傭兵界隈で有名などの傭兵団にも属さない一匹狼の傭兵に付いた通り名であり、高額な報酬と引き換えに一人で傭兵団一つ分の働きをするという超が付く程の凄腕という評判だ。


 幸運と言うべきか、トーゼは一度も戦場で相まみえた事は無かった。


 だから赤の死神の評判は所詮尾ひれが付いた噂話でしか無いトーゼは思っていたが、次々と部下がやられていく様を見せつけられると真実だったと信じるしかない。


 何故数年前の戦争以降一切姿を見せず、死亡説まで流れた赤の死神がこんな辺鄙な村にいるのかは分からないが、最早略奪するどころではなくなったトーゼは数を減らした部下達に円形に集まる様指示を出す。


 このまま分散した状態で各個撃破されるよりは集まることで互いに死角をカバーし合った方がまだ逆転の目があると判断したのだ。


「ふーん、ちっとは頭が働く奴がいるじゃねーか。ま、俺相手には甘いんだけどな」


 傭兵達の動きを観察していたシェニーは、番えていた矢を矢筒に戻すと彼らに気づかれぬ様に移動を始める。


「フェアリー、何がどうなっているんだ!」


 復活したゴーレムと睨み合いになったフリックは、ゴーレムが現れてからずっと解析を続けている筈のフェアリーに再生のカラクリを問う。


「落ち着いてください軍曹。確定とはいえませんが敵の弱点らしき物を特定しました。画像解析と敵をリンクさせます」


 モニターに映し出されたゴーレムの胸部中心に赤い点が現れる。


「再生時、その部分を中心に未知のエネルギーが放射されたのを確認しました。恐らくエネルギー発生器官ないし体を構成する中核になっている物があると推測します」


 どんな奇怪な敵であっても弱点さえ分かればどうと言う事は無い。


 エアレーザーは電圧が上がりけたたましい音を立てる拳を再び構えると、ゴーレムの胸部を狙ってパンチを繰り出す。


 しかし、ゴーレムは自分の片腕を犠牲しながらも受け止め後方へとジャンプしてエアレーザーから離れる。


「敵も中々やりますね軍曹。ですが庇ったという事は私の推論が正しかった事が証明されましたね」


「良かったな。だがこれじゃあ埒が明かないぞ」


 エアレーザーのパンチを防いで砕けた腕は瞬く間に再生しており、再度攻撃してもまた腕を犠牲に防がれるのは明白だ。


 そうなれば無限ループに陥ってしまいどんどん村に行くのが遅れてしまう。


 このままでは不味いと判断したフリックはある決断を下す。


「フェアリー、ミサイル発射の用意をしておけ。タイミングは分かるな」


「お任せください軍曹」


 距離を取り、こちらの出方を伺っているゴーレムに向かってエアレーザーは拳を振り上げ大きく一歩踏み出す。


 ゴーレムは再び胸部を攻撃されるのを警戒して両腕をクロスさせて防御姿勢を取った。


 一度で学習しない馬鹿だとゴーレムを操る魔法使いは思った。


 確かに敵の強固さはゴーレムからすると厄介ではあるが、改良を重ねて無限の再生能力を持たせてある上に魔力量には自信がある魔法使いにとってはさほど問題では無い。


 守護神とやらを操る者の魔力か集中力が切れるまで粘り続ければ良く、持久戦に持ち込めばトーゼとの契約、守護神の足止めも果たせるからだ。


「さあ来い! いくらでもあいてになってやる!」


 魔法使いは自信満々に叫ぶが、その自信は爆音と共に砕け散ることになる。


「標的ロック完了、発射します」


 エアレーザーが踏み出した足の脹脛部分の装甲が開き現れた脚部3連装ミサイルポッドから一発のミサイルが放たれる。


 一直線に飛んだミサイルはゴーレムのクロスした両腕の真ん中に直撃し、両腕を跡形も無く吹き飛ばした。


 小さいながら威力十分なミサイルを受け腕を失った上、更に後ろによろけるゴーレムの胸部を爆風の中から現れたエアレーザーの鋭いパンチが捉える。


 最早防ぎようの無い一撃で貫かれ、動かなくなったゴーレムの胸部から手を抜いたエアレーザーの手のひらには怪しく光る石が引っかかっていた。


「どうやらあの男が投げた石が中核になって敵を構成していたようですね。敵巨大兵器から一切のエネルギーが検知できなくなりました」


「次があればこの石が投げられたら直ぐに撃ち抜くとするか。それでこいつはどうする」


 動かなくなったものの、依然ゴーレムは形を保っていた。


「脅威性はありませんが邪魔ですし破壊することをお勧めします」


 フェアリーに勧められるままに、念のために光る石を握りつぶしたフリックは、試作型帯電ナックルガードを収納したエアレーザーに両手を組ませると一気にゴーレムへと振り下ろす。


 エアレーザーの強力な一撃でゴーレムは砕け、辺り一面に岩石と土が飛び散った。


「そ、そんな! 私のゴーレムがーーーーー!」


 敗北を受け入れらず、逃げれば良かったものをその場で膝を付いて呆けていた魔法使いの頭上に、不幸にも砕けたゴーレムの頭部の一部が落ち、彼の復讐劇は閉幕したのだった。

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