五章 生活再建計画ー②
士官学校での拷問とも呼べる程の厳しい訓練に耐えて鍛え上げた肉体も一昨日からの作戦行動には余程応えたらしく、軋む筋肉からの鈍痛に顔を顰めながらフリックはコックピットで目覚めた。
「おはようございます軍曹。それなりに整っているお顔が今日は見るに堪えないものになっていますね」
朝から厭味ったらしいAIに悪態をつこうにもそんな気力すら湧かないフリックは欠伸を嚙み潰しながら目を擦る。
フリックが完全とは言えない状態でも、意識が覚醒したのを確認したフェアリーは完全覚醒を促す為にコックピットを開け放ち、容赦なくフリックに日光を浴びせた。
「フェアリー、寝起きに日光は止めろと以前言わなかったか……」
「申し訳ありません軍曹。ですがレッカが朝食の用意が出来たので軍曹をお呼びですよ」
コックピットから降りるのも正直億劫なのだが、このまま引き込もって惰眠を貪りレッカ達を待てせる訳にもいかないので、渋々挙げるのも辛い手でワイヤーを握ったフリックはエアレーザーから降りた。
「おはようございます、フリックさん。......大丈夫ですか?」
コックピットから降りてきたフリックを見たレッカは驚く。
いつものキリッとしたハンサムな顔はどこへやら、目の下には深い隈ができ、頬も気のせいか痩けている上に一歩歩く度に顔が苦痛に歪んでいる。
「大丈夫ですよレッカ。軍曹は厳しい訓練を積まれているのでこの程度なんともありません」
フェアリーがレッカに何を言ったかは詳しくは分からないが、少しずつ言葉を覚え始めたフリックは大丈夫という単語を聞き取り、大方自分が疲労困憊で休息を求めているのを理解していながらもフェアリーがそれを無視してレッカに問題なく働けるとでも言ったのだと推測した。
若干引いた顔をしたレッカがそのことを裏付けていた。
それでも休んでいる暇は無い事は理解しているフリックは無理矢理笑顔を作ってレッカに問題無いように見せかけることにしたのだが、笑顔を作った途端にレッカにそっぽを向かれてしまった。
確かに自分はあまり笑う方では無いが、そんなに笑顔が下手だったのかとフリックは少し落ち込んだ。
実際のところは急に笑い掛けられたレッカが真っ赤になった顔を隠すために顔を反らしただけなのだが。
「おうおう兄ちゃん、朝から酷い顔してんな。レッカから話は聞いてたが俺らの為にえらい苦労してくれたんだろ、今日ぐらい休んだらどうだ?」
昨日に引き続き屋外のテーブルに置かれた朝食に先に手を着けていたシェニーが言う。
「先程レッカにも言いましたが問題ありません。軍曹もこの通りやる気十分ですから」
なぜか急にフェアリーに片腕を挙げるように言われたフリックが言われた通りにすると、苦笑いしながらシェニーが椅子から立ち上がり、席についたフリックの肩を大きな手で優しく揉んだ。
「お前の相方は人使いが荒いんだな。この先、人生の相方を選ぶときはレッカみたいな優しい女にしときな。それこそあいつは良い嫁になるぞ」
そんな話をしている時にタイミングよくフリックにスープを運んできたレッカは、顔を真っ赤にして頭から湯気を出しながらフリーズしてしまった。
「シェニーさん、どうやらあなたとは同盟を組めそうですね」
「今村には人手、特に男が足りないからな。逃がす気はねえ」
フェアリーとシェニーが揃って怪しげな声で笑い出したのをフリックは回転が鈍い頭でAIも笑うものなのかと考えながら、真っ赤な顔で再起動したレッカがテーブルに置いてくれたスープを飲む。
フェアリーがアルマとリーナの様子をレッカに聞くと、捕虜になっている間真面に眠れていなかったらしく、まだ家で眠っているという。
シェニーのせいで感覚が狂うが、彼女が頑丈すぎるだけであって普通の女性ならば二人の方が正しいと判断したフェアリーは、彼女について調査する必要があると考えた。
鍛えられた肉体と鋼の精神力はただの村人にしては異常で、元兵士やそれに類似する職に就いていた可能性があると判断したからだ。
もし未だ軍などと繋がりがあった場合に自分達の持つ力を伝えられては厄介な事になる可能性があり、早めに対処する必要がある。
しかし調査は慎重に行わなければならない。
何故ならシェニーについて調べていることをレッカやアルマ、ましてやシェニー本人に知られては余計な軋轢を生み、折角の友好関係に罅が入ってしまうかもしれないからだ。
ただ幸いなことにシェニーとはフリックとレッカをくっつけようという同盟を結ぶことが出来たので、それを隠れ蓑にすれば上手く調査出来るだろうという結論にフェアリーは至った。
「フェアリー、食事は済んだぞ。今日の作業の役割分担を発表してくれ」
自分がリスクヘッジしている間に朝食を済ませ、多少はマシな顔に戻った主に急かされたフェアリーは今日の作業内容を各自に伝えた。
フリックはエアレーザーで森に向かい、建築用の木材確保の為に木の伐採及び運搬。
シェニーとレッカは村の共用倉庫跡の片づけを担当する。
「ねーねー、あたしはあたしはー!」
一人仕事を割り当てられなかったアッカが元気よく手を上げた。
レッカ達人間の保護者一同は流石に今日の作業は子供のアッカには危ないので手伝わせる訳にはいかないのでどう宥めようかと考えたが、優秀なAIであるフェアリーはこの展開を想定しており、ちゃんとアッカにも仕事を用意していた。
「アッカはアルマとリーナの看病を私としましょう。大変な仕事ですがあなたなら大丈夫ですよね」
「うん! 頑張る!」
二人が今休んでいる場所には、誰も付き添えない場合を考えてフリックのヘルメットを置き、搭載されているカメラを使ってフェアリーが常に見守っている。
だから看病という名目でフェアリーは二人のついでにアッカも纏めて面倒を見る気なのだ。
フェアリーが上手くアッカを安全な室内に誘導したことに安堵したレッカが、何かを思い出しのか、手を叩きながら大きな声を出す。
「そうだ! 木材ならわざわざ木を切らなくても森の西側に売るように切り倒して乾燥させてるものがある筈です!」
狩人と木こりを兼業していたシェニーもそういやそうだったと豪快に笑っている。
「お二人共、そういうことは早く言って下さい。私、木を多めに伐採しておき一旦生木で倉庫を建て、後々乾燥が終わった木材で立て直すところまでシミュレーションしていたんですよ」
揃って怒られ、シュンとする二人を尻目にフリックはのんびりとお茶を啜っていたが、休息の時間は終わりとフェアリーに急かされ、軋む体でエアレーザーに乗り込むのだった。
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