ファンタジー世界の神種族ですが、何か? ~勢いで軍師になり大戦争を切り抜ける!~

Edu

第1話 神種族の俺、ファンタジー世界に降臨

「えぇーっ!? 何がおきたの!」

 その少女はまるでサファイヤか何かのようなみどりの色彩できらめく目を大きく見開いて驚愕した。彼女は陶器のような質感の鎧を着ている。負傷しているのか左腕にまいた包帯が朱にそまっていた。


「古代魔法? 何かの術?」

 彼女はすっかり混乱していた。


 彼女の前にいた少年……れんはにっこりと微笑んだ。少女からみると奇妙な服装をしている。しいていうなら神学生が着る制服に似ていた。黒っぽいやや硬めの生地。ボタンがきらりと光る。


 蓮は答えずに意識を集中する。頭に埋め込まれたチップが反応する。常磐重工製の少しお高い国産品だ。


 50mほど離れた地点に鎖帷子チェインメイルを着た兵士が倒れている。

 その兵士の傍で馬がいなないていた。さきほど蓮が銃……といっても護身用のショックガンで倒した相手だ。


「衛星リンク! 情報収集衛星2号!」

 蓮の視界の片隅にこのエリアを監視している衛星の情報が表示された。大陸の情報。意識をさらに集中すると蓮の周囲4km四方が表示される。


「赤外線モード! 敵を捜索!」

 蓮からみて東側、森の付近に多数の人間の気配があった。


「あっちに……」

 蓮が指さした方向を少女がおそるおそる追う。

「たぶん武装した人間がかなりの数いるけど、君の敵? 味方?」

「……味方の魔道騎兵師団は全滅したから敵だと思う」

「じゃあこっちからかな……行こうか」


 蓮は安全な方向へとゆっくりと歩きはじめた。

 彼女もゆっくりとついていく。

 

「こんな術……みたことがないわ。大賢者でも無理なはず……あなたは誰? 何者なの?」

「俺? 俺は……」蓮は少し考えて答えた。「神種族ですが、何か?」安心させるような笑顔を見せる。

 その少女は呆然と蓮をみあげていた。


———話は数週間前にさかのぼる。


 日本を離れてもう3ヶ月目だろうか。

 坂木 蓮は18歳。地球の高校を卒業したばかりで宇宙開発研究機構でアルバイトをしていた。ここでアルバイトをすれば進学するにしろ、いろいろな補助がでるので助かっている。


 今回のような長期調査に入れればかなりの金額の現金もたまる。その間の衣食住もタダだ。今はやることもないので蓮は喜んで応募したのだった。


 宇宙開発機構でアルバイトといっても実験的な惑星のシステムを管理するだけだ。

 蓮が入ったチームは惑星アーキペラゴと名付けられた星を管理していた。


 地球からかなり離れた惑星で、地球に似てはいるが直径が大きく、何と30000kmもある。意外にも表面重力は大したことがなく何と0.65gだ。密度が地球よりも低く、海洋などが大きく深いためだ。


 1日の周期は60日もあり、表面の温度もやや高いため、全体的に地球環境に似せるために、人工重力を発生させる装置や、1日をおおむね24時間と認識できるように本物の恒星からの光をさえぎり、偽の陽光を縦に放射するよう、ダイソン球のような皮膜で惑星全体を覆っていた。


 遠くから見ると惑星は縦に日中の場所と夜の場所が交互に現れ、まるで青と黒のストライプ模様が惑星にはりついているかのようだった。


「坂木少年ー! 調子はどう?」

 主任研究員のアイリス・ジェンキンスが蓮のデスクまでやってきた。

 黒髪に白っぽい肌、南米系の彼女は白衣をはおっていた。彼女は生物と気象の担当だっただろうか。


 蓮たちの一行は調査船アスガルドに乗っている。アスガルドはゆっくりと惑星アーキペラゴの衛星軌道にのって惑星を公転している。


 チームは13人、3人の研究員と4人の船員、6人のアルバイトで構成されていた。「調子いいですよ、ちょっとこの新作の魔法が強すぎるかな……」

「坂木少年はゲーム得意なんだよね? 助かるー」アイリスが笑う。


「それにしても不思議よねー」アイリスが蓮のデスクの前に広がる"窓"から惑星を眺める。そこには地球の質量の6倍ほどにもなる巨大なスーパーアースが異様な存在感を持ってたたずんでいる。

「あそこにファンタジー世界が構築されているなんてね」どこか冷たい目をしたアイリスが手元のコーヒーを1口すすった。


 そのスーパーアースには、地球に似た環境の構築というミッションとは別の目的があった。亜人種による文明の観察だ。人間に似ているがこのスーパーアースに適応した亜人種を作り上げ、一定の文明を与え生活させている。その経過を見守っているのだ。


 その文明はまるで古代地球の西洋風ファンタジーのような世界観で作られ、さらに亜人種たちは魔法などの力を与えられていた。魔法といっても実際はシステムがそのように見せているだけで本当に炎が出せるわけではない。


 ただ当の亜人種たちは炎を出せていると錯覚できる程度には精密に作られている。

 そしてほどよく文明を刺激するためにモンスターも生み出され、亜人種たちの敵として、この惑星アーキペラゴに生息していた。もちろんモンスターは本物の生物ではない。生物に似せた機械だ。


 蓮の担当は魔法やモンスター、薬草などの効力の強さの調整だった。

 それと大国の戦争の監視。魔法などがよく使われるからだ。


 なにしろスーパーアースはとてつもなく大きい。地域ごとに特徴的なモンスターが生息している。かといって強すぎて亜人種の文明を滅ぼしてもいけない。


 適度な強さに調整する必要がある。 

 蓮がパソコンにデータを打ち込むと、そのモンスターと同じ種族全体にその数値が反映される。すぐにではなく、モンスターが眠っている間に筋力、魔法に対する耐性、行動パターンなどが反映され、翌日には蓮の設定通りになっているというわけだった。


「いやーほんとうに坂木少年のおかげで助かってるよ。もっとも本当にこの研究が必要なものなのかは私は疑問を持ってるけどね」アイリスは時々ギクっとすることを言う。

「はは……もう少し調整したら休憩しますよ」

「うんー、そうして。そういやバイトリーダーの榎本君がご飯行こうって言ってたよ」

「あぁー……、まぁタイミングあわなさそうなんで今日は」

 

 アイリスは笑った。何かを察してくれたようだ。

「おっけー、じゃ私もタバコでも吸ってくるわ」と立ち去っていく。


 榎本はアルバイトのリーダーで少しだけ年上だ。

 しかし中二病なところがあり、正直坂木は苦手としていた。


 坂木は惑星の様子に視線を戻した。

 この惑星上では、時には国同士で争い、歴史が作られていっていた。地球とは比較にならない広大な面積を持つ、このスーパーアースにはいくつもの大陸が存在し、中には大陸をほぼ制圧しているような大帝国や、逆にモンスターが人間を駆逐してしまったような大陸も存在した。


「さぁーて本当に魔法を調整したら食事でも……」


 その時、耳をつんざくような警報が船内に鳴り響いたのだった。

 

 




 

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