-32- 「碧い目のスティーブン」
「聞いてくれよ、マサミ。この家の家族は、僕が喋りかけても、誰も相手にしてくれないんだ。僕が外国人だから、みんなは意地悪するのかい?」
長谷部君の家の玄関を潜った僕に、安楽椅子に腰掛けたスティーブンが声をかけて来た。
スティーブンは碧い目のイケメンで、どう見ても日本人には見えないけれど、問題はそこじゃない。
「前にも言ったろう? 君の声は、僕以外の人間には聞こえないんだ。この家にいるのが辛いなら、僕の家に来なよ」
僕の小声の提案に、スティーブンは少し黙って考える。
「……ありがとう。魅力的な提案だけど、やめておくよ。確かに言葉はかわせないけれど、それでもアカネは僕を大切にしてくれるし、僕もアカネが大好きなんだ」
僕はその言葉に、強い意志を感じた。
「気が変わったら、いつでも言ってよ……おっと、来たな」
バタバタと足音が家の奥から聞こえて来る。
「わりー、待たせたな。準備に手間取った」
家の奥から、長谷部君が顔を出す。
「今来たところさ。じゃあ、行こうか」
僕はスティーブンにこっそりと手を振って、長谷部君と共に家を出る。
碧い目のスティーブン、大切にされすぎて、自分が人間だと勘違いしてしまったセルロイド人形。
茜ちゃんの大のお気に入りで、妹が人形に取り憑かれていると長谷部君から相談を受けて知り合った。
彼の勘違いを理解させるのには苦労したけれど、おかげで僕とスティーブンは仲良しだ。
スティーブンは危険な奴じゃないと長谷部君を説得したけれど、長谷部君は無視を決め込んで遠ざけ、その他の家族は誰もスティーブンが生きていると気付いてない。
幸せな境遇とは言い難いだろうに、それでも茜ちゃんと共にいる事を選んだ彼の幸せを、僕は願った。
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