第30話 ひとつの仮説

 私は、使用人の案内によって教会へと向う。

教会は病院から歩いてすぐのところにあった。


「こちらです」

「ありがとうございます」


 そう言うと、私は教会の中に入る。

やはり、こちらに居るのは軽症者のようである。


「あなたがサクラ先生ですね。お噂は伺っております」


 白衣を着た20代くらいの男性が私に声をかけてくれた。


「はい。医師のサクラと言います」

「私は、レラルと申します。この街の病院で働いております」

「院長先生に伺いました。こちらの患者さんたち、診せてもらってもよろいしいですか?」

「はい。お願いします。私たちには原因が分からなくて……」


 私は、教会に作られた仮設ベッドに横になっている患者さんを診ていく。


「医師のサクラと言います。どこが辛いですか?」

「頭が……」


 私は、少年に声をかける。


「ちょっと触るね」


 体が熱い。

どうやら、熱があるようだ。

先ほどの患者さんほどではないが、脈が若干早い気がする。

何も情報がなければただの風邪と診察してしまいそうである。


 しかし、風邪とは違う症状もあるようだ。

全身痙攣に全身激痛が走るというものだ。

風邪で関節が痛くなることはあるが、その次元では無いと思う。


 ここにいるのは軽症なので、そこまでの症状は出ていないようだが、病院に入院していた患者さんにはその症状が

現れていた。


「一気に行きましょう」


『エリアヒール』


 私は教会内を効果範囲として回復魔法を展開する。

見渡すと、症状がこちらも落ち着いたようであった。


 しかし、これも完全に治ったわけではない。

一時的に症状を抑え込んでいるに過ぎないのだ。


 根本の部分はまだ解決していない。

やはり、診ただけでは原因の究明は出来なかった。


「私は、この風土病の原因を探ってみます。何か異変があったら呼んでください。近くには居ますから」

「分かりました。お気をつけて」


 レラル医師にそう伝えると、私は教会を出た。


「この街では食料はどこで調達していますか?」


 私は案内でついてきてくれている使用人に尋ねた。


「主には市場で調達していますかね」

「そこに案内していただけますか?」

「かしこまりました」


 使用人の案内で市場へと向う。

1番可能性として考えるのは、食料品に何らかの体に異常をきたし成分が付着しているという可能性だ。


「こちらです」


 そこには、食料や日用品が売られている市場がある。

私は、その様子を眺めていく。


 毒物などを感知する魔法を使用してみたが、引っ掛からなかった。


「違うみたいですね……」


 よく考えれば、ここで購入した食品を食べてもピンピンしている人もいるし、その逆もある。


「そうなると、別の可能性を考えないといけませんね……」


 私は、歩きながら考えていた。

その時、騎士団の人が歩いてくるのが見えた。


「サクラさん! お疲れ様です」


 先頭にはライムントさんの姿がある。


「お疲れ様です。討伐はもう、終わったんですか?」

「ええ、先ほど終わらせてきました。明日また間引きに行こうとは思いますが……サクラさんの方は?」

「今、原因を探っています。原因が分からなくて」

「サクラさんでも分からないこともあるんですね」


 魔法は万能ではないし、この原因が分からないことには薬も作れない。

久しぶりに行き詰まってしまった。


「そういえば、ライムントさんたちはなんでこの街に来たんでしたっけ?」

「それは、強力な魔獣が現れたので、その討伐と魔獣の間引きのためです」


 この国では定期的に騎士団によって魔獣を間引きしてくれている。

また、強力な魔獣の討伐も騎士団の大きな仕事だ。


「その、魔獣ってどんな魔獣ですか?」

「毒竜です」


 毒竜というと、体内に強い毒物を保有しているワイバーンの類である。


「その毒竜が現れて討伐されたのはどの辺りでしょうか?」

「街の奥の水源付近ですけど……それが何か?」


 ライムントさんは不思議そうな顔をしている。


「水源付近……それだ!!!!」


 私の頭の中に一つの仮説が浮かんだ。

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