帰ってきた塹壕にも戦場が・・・。

「そうだな」


 俺は、クレイの思考『こっちの犠牲者数が多いな』に、返事をした。


「やっぱり思考に返事をされるとぞっとするな」


 俺の癖を知った上でまともに接してくれたのはお前と、あと十本の指に入る程度の人だけだ。あまりそういうことは言われたくないんだがな。


 俺は、革製の水筒から水を飲んだ。


 多分これでこの戦場の最高指揮官から突撃命令が下って、この戦争は終わるだろう。


 この戦争は、俺の国が隣の国に土地を奪うために始めた戦争だからな。かかった費用に値する土地が手に入ればいい。


 これでもすぐに出動できる兵士の三分の一程度しか出撃させてないからな。


「隊長、隊長」


 俺の隊の新兵が、かなり動揺した顔で塹壕を走ってきた。彼は最近軍に入ったばかりで、経験が浅いからこんな最前線に送られた。


「どうした?何かあったのか?」


 クレイがやや声を険しくして聞いた。突撃命令なのは分かってるくせに。


 そして彼が初戦の新兵をビビらせたくて、怖い雰囲気をわざわざ鏡の前で練習してまで作っているのを知っている俺は、新兵に心の中で合掌した。クレイはちょっと、いや。かなりのサディストだ。


 ただ一つ、突撃命令にしては新兵の動揺がすごいというのが引っ掛かったが。いくらなんでも動揺しすぎでは?


「はっはい!ここから北に三キロ向こうがの地点が敵に突破されました!!現在塹壕が次々と占拠されています。ここも時期に剣と弓を持った兵士が突っ込んでくるでしょう」


「まじかああああああ!!」


 司令官が土壇場で落ち着いていなかったらただの飾りだと言っているクレイが新兵の前でここまで動揺するのをはじめて見た。


 結構慣れた兵士たちもかなり動揺している。新兵たちは報告してくれた兵士を除いてもはやパニックになっていた。


 報告しに着た兵士は、さっきまで動揺して見えたがかなり冷静らしい。なかなかだな。

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