29.『たった独りで歩き続けた先にあるもの』
――【万物の慈悲を賜う者】。
藁にもすがる思いで、賜ったスキルを確認する。
それは、俺にとって天啓だった。
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【巨魁の号令】
パーティメンバー以外の者にも【レベル分配】を使用できる。
【一蓮托生の知友】
レベル分配の影響下にある者と【パッシブスキル】【耐性】を共有する。
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これはまたぶっ壊れたスキルがふたつも。
つまり、今この場で俺のレベルを分け与えることで、ルリに俺の【呪い無効】を付与することが出来る。
すでにかかっている呪いまでかき消すことが出来るのかは分からないが、やってみるしかない。
「大丈夫だ、俺が必ず助ける――【レベル分配】」
何百回と使ったスキルだ。
アゲットたちに媚びを売るために使ったスキル。
それを今、誰かを救うために使っている。
こんな有意義な使い方があったなんて――全然、外れスキルなんかではないな。
ごそっと力が抜ける感覚とともに、ルリの顔色に生気が戻ってくる。
「…………なに、したの」
「俺のレベルを分けた。ついでに、呪いや毒も効かなくなってるはずだ」
「…………楽に、なった」
念の為、新しいスクロールをもう一度貼り付ける。
レベルが上がっていることに疑いはないが、最大魔力や身体能力が上がっていることで楽になったと錯覚している可能性もある。
解呪に成功しているか、確認しなくてはならない。
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ルリ Lv.282
S級冒険者
【状態異常】
なし
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「……よかった。これで本当に大丈夫だ」
体調は優れないかもしれないが、命の危険はない。
あとは、ゆっくり街まで戻るだけだ。
「…………ありがとう」
「いいんだよ。お前に死なれたら俺も困る」
「…………これから、よろしく」
「ああ、よろしくね。とりあえず今は休め」
その会話を終えると、ルリはスヤスヤと眠り始めた。
いきなりレベルが上がったことで身体にも影響が出ているだろう。無理はさせない方がいい。
俺は、ルリをおぶってグローシティまで戻るのだった。
■
「目、覚めたか」
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドに寝かせられていた。
体は驚くほど軽く、目に見える傷も残っていない。
なにより、身体中を巡る魔力の総量が以前と比べ物にならないほどに増えている。
「…………なにこれ」
「ステータス見てみ?」
言われるがままにステータスを確認してみると、そこには目を疑うようなレベルが刻み込まれていた。
きっとこの人が何かしたのだ。
だけど、それにしたってこれは意味がわからなすぎる。
確か、レベルを分けてくれたとか言ってた。
言ってたけど、まさかここまでとは思うはずもなく。
この人の元のレベルはどの程度だったのだろう。
そもそも、どういうからくりでここまでレベルを育て上げたのだろう。
「その辺を説明するのはめんどくさいけど……とにかく、これからはルリもレベルが上がり続けるよ」
とのことだ。助けてくれただけでなく、こんなお土産まで貰ってしまっていいのだろうか。
ルリ。私をそう呼んでくれた人はいつぶりだろう。
他人に名前を伝える機会などなかった、というのも理由のひとつだが、それを抜きにしても私は『白夜』である以上を求められていなかったのだ。
後ろめたい気持ちを抱えながら歩き、モンスターと対峙した時には率先して倒し、上っ面の感謝の言葉こそあれどいつしか皆当然の顔をするようになり、最後には罵倒されて追放される。
いつしか私は、仲間を諦めていた。
当然だ。私は生まれながら、誰かと共に歩くことが出来ない欠陥品だから。
パーティを組むだけで誰かを傷付け、自分も傷付く。
ならば、たった独りで歩き続けるしかないんだ。
幸か不幸か、私には強さがあった。
A級パーティが四人がかりでも倒せないような強敵を、たった独りで倒せる強さが。
だから、私に仲間は必要なかった。
そう言い聞かせた。
長い長い、夜が始まった。
ひとりぼっちの夜が。
それでもまた私は欲望に負けて、パーティを組むと言ってしまった。何度もそれで失敗してきたのに。
でも、今回は今までと違う。
「ルリみたいな魔法使いとパーティを組めるなんて、心強いよ」
「…………頑張る」
私の欠点を理解した上で、必要だと言ってくれた人がいる。なんて幸せなことだろうか。
私の力に惹かれたわけじゃない――というと語弊があるというか、実際私の実力も買ってくれてはいるのだろう。
だけど、自分よりも強いであろう冒険者とパーティを組むなんて、初めてのことだ。なんと頼もしい。
まさか、今日みたいな日がくるとは思ってもみなかった。
「…………ありがとう」
「うむ、くるしうない」
お礼の言葉もあまりしつこいと重いけど、それでも伝えずにはいられなかった。
これからこの人と色んな場所に行って、たくさんの冒険をするのだろう。
ただそれだけのことで、こんなにも胸が踊るとは。
「今まで色々あったんだろうけど……それを忘れるな。しっかり向き合って、悩んで、答えを出せ。そんで、蹴りをつけるんだ。あいつらの言い分も、全くの言いがかりってわけじゃないからね」
「…………わかってる」
今回のことは、私の甘えが生み出した事件だ。
はっきり言えば、自業自得なところもある。
だから、私は受け止めなくてはならない。
ここから新たな一歩を踏み出すために。
「でも、どんな理由があってもあいつらはルリを殺そうとしたんだ。それに関しては、許す必要はない。ルリの落ち度とそれとは全く別の話だから」
これは、お説教だ。
孤高の天才魔法使いとか言われてた私に、こんな優しいお説教をしてくれる人なんてのもいなかった。
何もかもが新鮮で、びっくりするほど温かい。
本当にこの人は――、
「じゃあ、元気になったらご飯でも食べに行こうか。この辺のおいしいもの、知ってる?」
「……ギルドの裏の食堂が――」
あの日の私に――闇に閉ざされ、泣きべそかいてた私に伝えられることがあるなら、こう伝えたい。
明けない夜は、ないんだと。
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