26.『パーティは組まない』
「パーティ組もうぜ!」
最近、やたら熱心に誘ってくる男がいる。
正直言って、少し鬱陶しい。
もちろん、パーティに勧誘されるのは初めてのことではない。
私の実力を知ると、しつこいくらいに誘ってくる人間は数多くいるのだ。
ここしばらくはソロで依頼を受けているが、実際にパーティに所属していたこともあるし、誰かと冒険をすることが嫌なわけでもない。口下手な私だが、それでも優しく接してくれる人も多かった。
だけど、それは長く続かない。
恥ずかしい話だが、今まで私は所属していたパーティのほぼ全てから追放されているのだ。
それを理不尽だとも思わないし、むしろそうなって当然だとも思う。
それでも、私に優しい言葉をかけてくれた仲間たちに罵倒され、恨まれるのは中々心が痛むものだ。
だから私は、もうパーティを組まないと決めている。
それが、一番平和なのだから。
「ねぇ、そんなに俺って頼りなく見える? 悪くない条件だと思うんだけど……」
そんな私の苦悩も知らず、この男は私に構い続ける。
一体何が目的なのだ。
正直、この男はその辺の有象無象とは違うとわかっている。
『新人S級冒険者ヒスイ』の話は私にも届いているし、中々破格の実績を上げていると言うじゃないか。
そりゃ、私だって『史上最強のS級冒険者』なんて持て囃されたこともあったが、今となってはまさにこの男がその席に座っているという声も多い。
ならば、私のような無愛想で女性的な魅力もない冒険者を捕まえるより、もっと華のあるパーティを自分で築き上げることだって容易いはずだ。
最近になってS級モンスターの出没例もチラホラ出てきているが、必ずしもS級冒険者が四人揃わないと倒せないというわけでもあるまい。
私だって一人でも倒せるんだし、私から最強の座を奪ったこの男がそれを出来ないわけもない。
もしそれでもS級冒険者が集う必要のあるような強大な敵が現れた時には、その時限りで手を組めばいいのだ。
私に固執する理由など、これっぽっちもないのに。
「魔王が攻めてくるんだよ」
なのに、この男は諦めようとしない。
魔王だかなんだか知らないが、そんなの一人でどうとでもなるんじゃないのか。
もしならないというのなら、その時に呼んでくれれば手を貸そう。
固定パーティは、組まない。
■
「クソ、手強いな……」
もう30回くらいは誘っただろうか。
結果、30敗だ。全然折れてくれない。
正直、ここまで来ると何か理由があるのではと勘ぐってしまう。
ただ俺が気持ち悪くて逃げ続けている可能性もあるが、それならとっとと宿を引き払ってどこか別の場所に引っ越せばいいのだ。そうしないということは。
これは俺の自惚れかもしれないが、きっと可能性はあるのだ。
本心ではパーティを組んでやってもいいと思ってるけど、それを踏みとどませる何かがあるのではないか。
だとすれば、それを見つけないとパーティは組んでくれないだろう。
本人から聞き出すのは難しいか。
ならば、『白夜』と関わりのある人に突撃してみるしかない。
俺は、冒険者ギルドに早足で向かった。
■
今回の依頼は、街の外れにある廃墟の調査だ。
もう何十年も人が住んでない建物には、モンスターの温床となっているものもある。
建物と土地の所有者だという老人が、それを退治して欲しいというのだ。
本来であれば私の仕事では無いのだが、どうもここをA級モンスターが拠点にしているらしい。
そうなればA級パーティが万全の体制で臨むか、私が引き受けるのがベター。まぁ、あの男でもいいんだろうけど、今回は私に直接依頼がきたわけだ。
「…………【氷輪】」
何故か内側からかかっている鍵をこじ開け、薄暗い中を進む。
元々は裕福な人が住んでいたのだろう。
生活感はそのままに、長い時間だけが過ぎているようだ。
今のところはモンスターの気配はなく、私の足音を除けば物音ひとつない。
本当にA級モンスターなんていたのだろうか。
ただの勘違いの可能性もあるが、それならばその報告をすればいいだけ。ただ、油断は禁物だ。
外から差す薄明かりだけを手がかりに、ゆっくりと廊下を進む。部屋をひとつひとつ回っても、これといって異変はない。
ついに最後の部屋のドアに手をかけ、慎重に中に入る。
しかし、やっぱりここにもモンスターは――、
「――今だ! 【発動】!」
「――――っ」
野太い男の声がしたかと思えば、突然体の自由を失う。
どこか聞き覚えのある声だとも思ったが、それどころではない。
咄嗟に魔法を撃とうとするも、うまく魔力を使えない。
これはまるで、結界の中にいるような――、
「久しぶりだな、『白夜』。俺らの顔、見覚えあるだろ?」
「…………ぁ」
なんとか顔を上げると、そこには私を見下ろす男が五人。
今まで私が所属してきたパーティの、リーダーである男たちだった。
「さぁ、借りを返させてもらうぜ!」
あぁ、やっぱりパーティなんて組むもんじゃなかった。
絶望的な状況で辛うじて考えられたのは、そんな後悔だけだった。
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