混乱の街カンロの章 序
「ああああっ。もうっ。ちょこまかとっ……」
ノーラが2mはあろうかという長さの木の棒を振り回す。
しかし、本来持っているハルバードと違って軽すぎる為にスピードが出すぎてかえって使いにくそうだ。
その為だろうか。
動きに迷いがあるし、流れるような繋がりがない。
私はそれをステップを踏みながらひょいひょいと避けていく。
「あーもーっ。このぉーーーーっ」
さすがにイライラが抑えきれなくなったのだろう。
力が入り、どうしても攻撃が大振りになる。
その隙を私は突いて、ひょいと身体をノーラの懐に入り込ませると手でお腹の辺りをタッチした。
手につけていたインクがノーラの鎧にべったりと手形を残す。
もちろん、私はすぐに棒の範囲外に離れて離脱する。
「アキホの勝ち」
苦笑しつつそう宣言するリーナ。
「くううううっ。反則だっ。そんなに動けるなんて反則だっ」
ノーラが悔しそうに棒を地面に叩きつけた。
あっけないほど簡単に木の棒は折れてしまう。
相変わらず思うけど、とんでもない馬鹿力だ。
まぁ、わからなくはない。
すでにノーラの鎧にはいろんな箇所に私の手形がべっとりとついている。
朝から始めた模擬試合でノーラは全戦全敗の状態になっていた。
今までこういう事を味わったことがないノーラにしてみればとても悔しいのだろう。
しかし、なんて力なのだろうか。
あんなの一撃でも食らったら防具で防いだとしても吹っ飛ぶのは間違いないだろうし、それだけで済むはずもない。
当たらなくてよかった。本当に……。
そんな事を思いつつ内心ほっとしていると、
「まぁ、アキホは特別と言うか、別格と言う方が正しいからねぇ……。それにとても人とは思えないから……」
リーナがそう言いつつ、ノーラを慰めている。
ちょっと待て。
人を化け物呼ばわりしないで欲しい。
そう思ったが、よく考えてみたら『鬼』として覚醒してしまったのだ。
間違ってしないのかも……。
そんな事を考えてしまう。
だから、思わず呟くように言う。
「そうかも……」
すると心底呆れた表情のリーナが「おいおいっ……」と呆れた声で突っ込む。
それだけではない。
「こらっ、アキホっ。そこは否定するところだろうがっ」
ノーラが私を指差して叫んでいる。
なんか漫才でもやっているかのようだ。
そんな私たちを見てミルファは苦笑して言った。
「まぁ、アキホだからね……」
なぜかその言葉で、私以外が納得してしまっていた。
おいおいっ……。
それどういうことですかっ!?
あの魔物退治の依頼が終わってから二週間が過ぎた。
その後も三つほど小さな依頼を難なくこなし、私達はかなり互いの事がよりわかるようになっていた。
そして、それにあわせるかのように私達のチーム「シャイニング・アロー」の評価もうなぎのぼりだった。
ある意味、私達はバランスが取れている。
それは戦いだけではない。
互いに出来る事、出来ない事がわかってきたという事も大きいのだろう。
そして、この街でも結構な有名人となっていた。
やはり最初の依頼が、派手すぎたようだ。
あまりにも有名すぎるもの考えものといったところだろう。
何をするにしても筒抜けになってしまう。
それに、この街にずっといたいと思っている訳ではない。
私は世界を回ってみたいのだ。
顔が知られ始めている今こそここを離れるべきだろう。
だから、私はノーラとの模擬戦のあとにみんなに提案した。
「路銀もある程度たまってきたし、そろそろ次の街に行かない?」
私の意見に、ミルファはニタリと笑う。
「そろそろ言うと思ってたわ」
「そうですねぇ。そろそろ私もここから離れたいですね」
そういったのは、リーナだ。
そういえば、彼女はこの街から出たがっていたっけ。
「私も異論はない」
ノーラがそう言って目の前のエールをいっきにあおり、ジョッキーはあっという間に空になった。
それに、すでに彼女に前にある皿もほとんどが空になっている。
相変わらずの食欲魔人ぶりだ。
「ただし、少し提案がある」
追加の注文をしつつ、ノーラが言葉を続けた。
「私達用の馬車とかの乗り物か移動手段を手に入れられないかな」
確かに、今のままだと定期便の馬車とかに便乗するか、徒歩で移動するぐらいしか移動手段はない。
あ、後は船と言う手もあるが、それは別においといて……。
「確かに。あるといいわよねぇ……」
つい私はしみじみと言ってしまう。
「確かにそうなんだけどねぇ。先立つものが、ねぇ……」
ミルファが苦笑してそう言うと、私を含め、残りの三人でため息を吐き出す。
「世知辛いなぁ……」
私はそう呟くようにいうと、目の前のジョッキーをあおる。
「ならさ、持ってるやつを引きずり込めばいいんじゃない?はいっ。お代わりね」
ちょうどお代わりのエールのジョッキーを持って来たミリーがそんな事を言う。
「当てはあるの?」
ミルファがそう聞くと、ミリーは豪快に笑って言う。
「もちろんさ。そうじゃなきゃ言わないさ。さてどうするね?」
私は、みんなの顔を見回すとみんなは私に一存すると目で合図した。
「ならさ、紹介してくれない?」
私が代表してそう言うと、ニタリとミリーは笑って自分の胸を叩いた。
「いいぜ。任せな。明日にでも会えるように手はずを整えておこう」
そう言って、厨房の方に戻っていった。
多分、追加の料理を持ってくるのだろう。
こうして、明日の予定は決まったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます