第23話 仲間はずれはさせないぞ

 正直シアスタのために出て行ってあげたかったけど、話は沢山あるようだった。


「まずは私達が貴方達から奪ったマザーの賠償」


「賠償? もしかしなくても金?」


 カフスは首を横に振って違うと意思を表示する。


「町の税金を不透明なものには使えない」


「何故不透明なんだ」


 ソーエンの質問は尤もだ。何がどうなったら不透明になるんだよ。


「今この都市はマザーを倒したことで住民が活気に溢れてる。士気も上がっている。だから今更貴方達が倒したなんて言えない」


「なんじゃそりゃ…」


 人の褌で相撲をとるじゃなくて、人のマザーで活気が沸くか。


「これは代表としての勝手な判断。だから何でもする」


「何でもと言いながら金は出せないのか」


 ソーエンが嫌味を言ってみせる。


「必要なら鱗をあげる。それを売って」


 金の代わりに鱗って、代表はあまりお金を持っていないのだろうか。


「いらん、気色悪い」


 横ではソーエンがくっそ失礼なことを言っている。


 何でもする…か。カフスは魔法が見えるほど目が良かったな。


「…カフスさ、オレ達がどう見える」


 とある望みを思いついたのでそのために必要な情報を集める。


「魂が強い。それも物凄く」


 魂、レベルのことだろうか。


「それって今見てなくても…例えば町の端にいても分かるか?」


「魔法を使えば分かる」


「イキョウ、なんの話をしているんだ」


 ソーエンには悪いが早く、早く結論が知りたいので無視させてもらう。


「この町にオレ達と同じやつらはいるのか捜してほしい」


 そう、オレ達以外の仲間のことを知りたい。


「そういうことか」


 今の質問でソーエンもオレの質問の意味が分かったようだ。


「待って。………いない」


 どうやら、今この場で魔法を使ってくれたようだ。オレの<生命感知>と違ってスキャンされた感じが全然しなかった。違う系統の魔法やスキルなんだろう。


「そっか…」


 うっすらそう思ってはいたが、確実なことになるとどうしてもショックを感じてしまう。


 ソーエンもショックを受けていて、目を瞑っていた。


「カフスにお願いがある」


 オレ達がバラバラになった本当の理由は伏せて、転移事故に巻き込まれた仲間を捜していることにし、もしオレ達と似たような力を感じたら教えて欲しいと伝えた。


「あなた達レベルが他に5人もいるの?」


 カフスの表情はあまり変わらないが少し硬くなったように思える。


「そうだ」


「分かった。見つけたら伝える」


「オレはそれくらいかな」


「それだけでいいの?」


「それがいいんだ。まだ賠償が余ってんなら、後は貸しってことで」


 カフスは分かったとだけ答えてソーエンの方をみる。


 オレへの賠償はとりあえず保留になったから次はソーエンの番だ。


「家が欲しい」


 ソーエンは悩む間もなくそう告げる。


 ソーエンの提案は仕方がないことだった。コイツはオレと部屋で寝るとき以外はどこでも顔を隠していた。だから安心して顔を晒せる環境が欲しかったんだ。


「分かった。いくつか手配するからそこから選んで」


「わかった。今はそれだけだ」


「あなたも残りは貸し?」


「ああ」


 家貰ってもまだ余ってるってどれだけあいつ高かったんだよ。


 高い報酬も欲しかったが、今回はドラゴンの感知という金では手に入らないものが手に入ったから結果オーライだ。


「じゃあ次の」


「「待った」」


 カフスが賠償の話を切り上げて、次の話題に移ろうとする。だが次になんて行かせない。ここにはもう一人、小さな戦士が残っている。


「シアスタはオレ達が駆けつけるまで頑張った。たった一人でだ」


「だからこいつにも賠償を貰う権利がある。カフス、お前に拒否権は無いぞ」


 オレ達の言葉を聞いて、丸まってたシアスタはびっくりして開く。


「わ、私はいいですよ!!」


「ダメだ。オレ達は三人で戦った」


「お前が貰わないなら俺達も貰わん」


「ソーエンさん、イキョウさん。うぅ」


 またシアスタが泣き出してしまった。


「他の二人よりは少ないけどいい?」


「だめだ」


 オレ達は対等なパーティだ。なら報酬も対等にしてもらわないと困る。


「いえぇ、大丈夫ですからぁ」


 泣き止むまで待つつもりだったが、シアスタは泣きながら断りを入れてきた。


 シアスタが言うならまぁ、いいか。


「その、出来ればマジックポーチが欲しいです」


「分かった。今度買いに行こう」


「はい……え?」


「じゃあ、次の話」


 なんか今すっげぇあっさりとんでも無いことを言った気がするがオレには関係ないのでスルーしよう。


 シアスタは話が切り上げられて、さっきの言葉がどういう意味か聞けなくなってしまったようだ。


「ファングボアご馳走様、美味しかった」


「うーん…唐突過ぎてよく分からないかな」


 まさか本当にマザーを丸ごと食ったんじゃないだろうな。


「あの、私から説明を」


 言葉が少ないカフスに代わり、後ろの受付さんが説明してくれるようだ。


「カフスさんはファングボアのお肉が大好物なんです。ファングボアはその…人からすればあまり好まれない肉質なので市場に並ぶ機会はそれ程なく、それに加えて討伐や捕獲が難しいのでこの都市だとほとんど、というか全く見かけることはないです。ですのでカフスさんがこっそりギルドに依頼を出しているんです。もちろん依頼金は自費で出していただいております」


「こっそり?」


「周りから食べるのを止められてる。下品だからって」


 偉くなると好きなもん食えないのかよ。代表ってのも大変だな。


「だからオレ達が取ってきたファングボアをこっそり食ってるってわけか」


「そう」


 ファングボアの討伐が6等級から受けられたのは、私の為に誰でもいいからファングボアを調達してきって依頼だったのか。


「でも、そしたらあのマザーはどうすんだ? まずいんだろ?」


 あの巨大な体からは相当な量のまずい肉が取れるはずだ。食べられないなら、処分は大変だろ。


「いえ、マザーファングボアのお肉はとてもおいしいんですよ。ですがそこまで成長できるファングボアはまれなので高級品です」


 母は偉大なんだなぁ。


「あれは都市で買い取って、近々色んなところに卸す予定」


「有効活用できそうで何よりだ」


「できればまた取ってきて」


「マザーは無理だが普通のなら任せろ。でも乱獲していいのか?」


「極端に討伐しなければ大丈夫ですよ。ファングボアはすぐ増えますから」


 ゴキブリやネズミみたいな扱いでファングボアが少しかわいそうになる。


「お礼が言えたから次の話題」


 カフスはシステマチックな判断をして話を切り上げる。話というよりは報告をし合っている気分だ。


「一昨日森で凄い魔法の反応があった。あれはあなた達?」


 一昨日の森での魔法か。


「恐らく俺だ」


 恐らくって……。まあいいや。ソーエンが魔法銃で行った過充填による爆発のことだろう。


「3回とも?」


「3回?」


 ソーエンの過充填は一回しかしていない。


「反応の時間と差は?」


「時間は1回目と2回目がほとんど同時。3回目はそれから結構たった後。3回目は他と比べると小さい」


 なら一回目はソーエン、二回目はオレのアースウォールのことだろう。だったら三回目は誰だ?


 シアスタかも知れないので目でお前か? と問いかける。


「私じゃないです。魔法が得意と言ってもそこまで凄い魔法は使えません」


 オレやソーエン、シエスタで無いとすると一体誰が強力な魔法を使ったんだ。


 他のやつらからも話を聞いてみたい。


「反応は皆分かるもんなのか?」


「私だから分かる。他は難しい」


 なら話を聞くのは無理か。


「私は精霊なので分かりました。といっても近くにいたからですが。でも3回目は感じませんでした」


 シアスタが感じていないとすると、シアスタの気絶以降に3回目が起こったってことになるな。


 オレ達は魔法の反応なんて分からないから、全く気づかなかった。


「2回目の反応はオレだと思うけど、3回目は見当がつかないなぁ」


「なら森の調査を依頼したい」


 カフスは急にオレ達にクエストを持ちかけてきた。オレ達の力を見込んでのことだろうか。でも少し焦りがあるようにも感じる。


 本人が行けばすぐに分かりそうだけど、代表という立場があるからアステルから離れられないのかもな。


「金は」


 ソーエンは報酬を聞いてから判断をするようだ。


「金貨12枚」


「何も分からなくてもか?」


「分かったらさらに12枚追加」


「大盤振る舞いだな」


「アステルの危機を未然に防げるなら安い」


 どうする、といった目でソーエンはオレを見てくる。


 シアスタもオレの判断を待っているようだ。


「期間は何日くらい?」


 報酬が分かっても、何十日もかけて金貨12枚は非効率的過ぎる。他のクエストも受けて調査と同時並行で進めてもいいけど、この世界や魔法に詳しくないオレ達と、唯一頼れそうなシアスタの組み合わせでは、ながらで行うのは非常に難易度が高そうだ。


「まずは3日。それ以降はまた改めてお願いする」


 3日で金貨12枚は美味い、成功すればさらに12枚で合計24枚。オレ達が同じ期間で24枚以上稼げるクエストは今のところファングボアの乱獲くらいしかない。


「ファングボアか調査かぁ」


 一昨日に乱獲した時は後半からファングボアの集まりが悪かったしなぁ。でも、調査で何も見つからないよりは確実に稼げるから迷うな。


「私は調査がしたいです」


 シアスタが自分の意見を言ってくる。


「なんで?」


「アステルには私を攫うような人は一人もいませんでした。きっといい町です。だから危険の可能性があるなら見過ごせません」


 シアスタはゆっくりと、でも強い意志を示すように理由を語る。


「シアスタはいい子」


 アステルを褒められたカフスは嬉しそうだった。


 たしかに、出会った人たちは皆いいやつばかりだ。オレ達に絡んできた平和の旗印や子供達もシアスタを心配してのことだったし。子供達は若干私怨が入っていたけど。


 ソーエンに目配せをしたが特に何も言ってこないので、シアスタの意見に賛成している。


「分かった。調査を受けよう」


「ありがとう」


 カフスは軽く頭を下げてお礼を言う。


 3回目の反応がしたのはおそらく森の奥だが正確な位置は不明、先に何組かの冒険者と調査員を送り込んでいることをカフスから説明を受ける。


「クエストの話題は終わり。何か質問は」


 オレ達はそれぞれ質問が無いことを伝える。


「次の話。ソーエンとイキョウの身柄について」


「指名手配は取り下げるんじゃなかったのかよ」


「大丈夫、この都市で生活するなら私の監視下に置くだけ」


 ずいぶん物騒なことを平然と言い出した。


 オレ達の力が町に危険及ぼす可能性を危惧してのことだろう。でも、行動を制限されて仲間捜しに影響が出ると困るからおいそれと『分かりました』なんて返事は出来ない。


「私がたまに話を聞きに行くだけ。特に制限は無い」


 監視下という割にはとてもゆるい条件だなぁ……。


 オレ達の行動が制限されるようなことは無いから別に問題はないか。


「それだけでいいなら受け入れる」


「ありがとう。これで話は終わり。何か聞きたいことがあったら聞いて」


 ようやくカフスの話したいことが終わった。

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