第2話

 長い間眺めていたテキストを閉じ、大きく伸びをする。まだ二十一時。煙草に火をつけたところで、インターホンが鳴った。モニターを見ると、宅配業者だった。何も注文した覚えはないのにな、と訝しみながらも、開錠ボタンを押す。

受け取ったのは、よく見る大手ネットショッピング会社の小さな段ボール箱。差出人は……

 箱を開ける手のスピードが速くなる。かきむしるように乱暴に段ボールを破った。

 中からお目見えしたのは、箱よりもずっと小さなヘッドホンのようなものと、これまた小さなカメラのような物。取り出してパッケージをよく見ると、ひとつはヘッドセットと書いてあるが、何に使うかいまいちわからない。

 電話して、きいてみるか。


「もしもし? お帰り~。あ、アレ届いた?」

 のんきな、でも温かみのある声に迎えられ、無意識に頬が緩む。

「うん、何、これ」

「ちょっと今から説明するから、言うとおりにやってくれる?」

 リョウはそう言うと、届いたものの開封から丁寧に指示を出し始めた。


 気づいたら、パソコンでテレビ通話ができるようになっていた。

「何だよこれ」

「ほんじゃ、かけるよ~」

「ちょっと待ってって。誰もやるなんて言ってない」

 声は聴きたいと思っていた。こうして話していると心が落ち着くのが嫌でも自覚できてしまう。でも、そこに視覚が入ると話は別だ。

「なんで~? 顔も見たいやんか」

「だらしないカッコしてるし」

「会うてる時だってやんそんなん」

 図星をさされてしまって、言葉に詰まっていると、慣れない音が。

「パソコン画面の通話ボタン押して!」

 どうやら強行に出たようだ。どうしようか、出ないでおこうか。

「当分会いにも行かれへんねんもん……せめて顔見て話させて」

 押し殺すような、振り絞るような切ない声色を聞かされ、これ以上断れるはずがなかった。


「ごめんな、わがまま言うて」

 パソコン画面に愛しい人が映っていて、語りかけてくる。おかしな感覚だ。それになぜかいやに緊張してしまって、いつも以上に何も話せない。

「何してたん?」

「試験勉強」

 ふふっ、と画面に笑われる。

「なんだよ」

「なんでこっち見てくれへんの」

「っ、別に」

「恥ずかしいの?」

「違う」

「んもぉアヤたん可愛い」

「切るよ」

 アヤがヘッドセットを外しにかかっている。少しからかいすぎたみたいだ。

「ごめんごめん! もう言わへんから! 待って!」

 リョウの懇願により、アヤはあからさまな仏頂面で大きく息を吐きながらではあるが、ヘッドセットを外そうとしていた手を止めた。


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