第一話 お誘い


《ウィッチクラフト・オンラインって知ってますか?

 今度あるアニメ作品とのコラボイベントが開催されることになってて、私の知り合いがそのチーム戦に参加したがってるんだけど、人数が一人足りなくて。

 もし時間があったら、一緒に参加しませんか?

 お返事お待ちしてます》


「……んー。これはすごい偶然」


 時刻は夜九時過ぎ。

 多賀旭は遠方に住む幼馴染からのメッセージを見て、即座に電話を掛けた。コール二回で相手が応答。


『もっ!? もしもしゃ!?』

「えっ、どうしたの。なんか食べてた? こんな時間に食べたら太るよ?」

『ここっ、こんなすぐに電話が来ると思ってない! びっくりしたの! って言うかなんで電話!?』

「あはは。ミカってメッセージで返すと、文面考えすぎて返信遅めだかんね」

『ふぐぅ……』


 返す言葉もないとばかりに呻く幼馴染に、旭が笑う。


「それで、ウィッチクラフト・オンラインだったね。いいよ、一緒にやろうか」

『ほぁぁ!? い、いいの!?』

「もちろん。今そんなに力入れてるゲームもないし――実は、ちょうど始めようと思ってたとこだかんね」


 机に置かれたウィッチクラフト・オンラインのパッケージを見ながら、旭が言う。


『そ、そうなんだ? それはちょっと意外かも』

「そう?」

『だってほら、ウィッチクラフト・オンラインって――』

仮想体アバターのこと? ゲームだからそんなに気にしないって。それに、ミカと一緒のゲームするのも久しぶりだかんね。結構楽しみだよ」

『あひゅっ……わた、私も! 楽しっ、み!』


 ちょこちょこ言動がおかしくなる幼馴染に苦笑しつつも、話を進める。


「それで、どうする? 明日の……午後一時あたりにでも、ゲームの中で待ち合わせする?」

『まちゃぁ!? そ、そんなのまるで、でっ、デー……』

「? 都合悪いなら日取り変えても――」

『いいいイベントまであんまり余裕はないから大丈夫! 待ち合わせできそうな場所と私のキャラネームは後でメッセージ送るね!』

「ん、りょーかい。あ、ところで」

『うん?』

「チーム戦に参加したいらしいけど、今の僕のプレイスタイルってサポートが主体なんだ。その辺は大丈夫そう?」

『えっ……そうなの? いや、でも、全然大丈夫だよ! むしろ助かるっていうか……話を聞く限りだと、メンバー三人脳き……攻撃寄りだから』


 ……今脳筋って言いかけた?




 通話終了。旭は笑いながらスマホを机に置く。


「相変わらず声上擦ってるな……ちょこちょこ奇声も交じるし」


 昔はそうでもなかった気がするが、幼馴染はここ二、三年、電話の度にああなっている。

 気心知れた幼馴染の間柄なんだから、何をそんなに緊張することがあるのかと首を傾げもする。


「ゲームに誘うのに緊張するとか、それじゃまるで僕を好きみたいじゃん……いやぁ、それはないよねぇ……」


 呟いてから、ガラスに映る自分の姿を見て苦笑する。

 高校生という年の割に小柄な体躯。中性的を通り越して女子の域まで踏み込んだ童顔。

 端的に言って、旭は可愛い容姿をしている。

 クラスメイトが二次性徴を迎え、めきめきと男臭くなっていく中、旭は時の流れに取り残されたかのように変わらない――否、なんならより可愛くなっているまである。

 可愛がられこそすれ、どう考えても女子の恋愛対象からは外れる容姿だ。

 しかし旭が幼馴染に思うところがないかといえばそうでもなく。だからこそ、彼はこう考える。

 男は見た目ではない、中身技術だ。


「ミカにいいとこ見せる大チャンスだね……!」



◆◆◆



 一方、旭の幼馴染――小森三日月は、通話終了直後から悶えていた。


「ぉあっ……ふっ、ふぉっ、ぉああーっ!」

「やかましい」

「ぷぎゅっ!」


 ルームメイトからのチョップを賜り、ようやく三日月が落ち着きを取り戻す。


朱里しゅりちゃん酷い……何するのぉ」

「あんまり奇声上げるもんだから止めてあげたんでしょ。ま、その様子なら上手く行ったみたいね」

「う、うん。誘うことはできたし、オッケーしてくれたから。明日早速待ち合わせだよ」

「あんなシンプルな文面で三時間も悩んだ甲斐はあったんじゃない?」

「しゅ、朱里ちゃんの意地悪……でも、よかったのかなぁ」

「はい? 何が?」

「えっと……私に気を遣って向こうがオッケーしてくれたんだとしたら、ちょっと申し訳ないなって」

「ったく……気を遣ってんのはどっちよ。話を持ちかけたのがあんたで、頷いたのは向こうでしょうが」


 呆れたようなルームメイトの声に、三日月が顔を上げた。


「仮に気を遣ってるんだとしても、オッケーして良かったって思えるぐらいにあんたが楽しませればいいのよ」

「……! うん、そうだね!」

「で、どうやって楽しませるかって話だけど、まずは視覚的に楽しませないとね」

「……うん?」


 ルームメイトの言葉に感銘を受けていた三日月だったが、続く言葉でおかしな流れになったと察する。


「強いて言うなら、仮想体の胸を潰すのはお勧めしないかな。せっかくのフルダイブなんだから、男は見た目で悩殺しないとね」

「えー……ゲームの中でまで大きくしたくないんだけどなー……」

「ほーほーほー。アタシの前でそんなこと言うんだー」

「あっ」


 三日月はルームメイトの地雷を踏み抜いてしまったことを悟る。細かいことは気にしない蓮っ葉な性格の割に、控えめな胸を彼女は人一倍気にしているのだ。

 対照的に三日月の胸部は、同年代の少女たちと比べてずいぶんと主張が激しい。もう少し小さくてもいいんだけど、と口にして逆襲の憂き目に遭ったことは一度や二度ではない。


「アタシへの宣戦布告と受け取った、今からその乳揉みしだいてくれるぁ!!」

「ご、ごめんごめん! 謝るから許し……にゃ――――っ!!??」


 その後、寮監が怒鳴りこんでくるまで三日月は胸を弄ばれる羽目になった。





※※※※※


 本日、二時間おきに三回投稿予定です。

 よろしくお願いします!


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