【改訂版】僕はモテモテです。ジミ子限定ですが。

さとみ・はやお

第1章

第1話 モテキは突然に

午後3時。


日本全国、某SNSで「がこおわ」と呟かれる時間帯。


授業終了を告げるチャイムが鳴り終わった。


相賀あいが保志雄ほしおは、その日は部活の予定がないこともあって、ただちにカバンにテキスト・ノート類を詰め込み、帰宅の支度に入ろうとしていた。


すると、いそいそと僕に近づいてくる人影があった。


それも二方向から。


ひとりは、長めの黒髪を三つ編みにしてえらく度の強い黒縁眼鏡をかけた女子。


もうひとりは、セミロングのマッシュルームカット、でもその前髪は両眼を覆うほどに長く、まったく表情の見えない女子。


ふたりが口々に言う。


「相賀く〜ん、一緒に帰りましょ」


「ホッシー、あたしと帰るんだよね?」


ともに獲物を狙う肉食獣のような殺気をまとっている。


そしてふたりは、僕の左右の腕をそれぞれガッチリとホールド!


なんか丸くて弾力のあるものが腕に当たってるんですけど、おふたりさん!


折り悪しくクラスにはまだ大半の生徒が残っていたのだが、彼らの中から、なんだか言葉にならないどよめきのようなものが聞こえた……気がする。


僕としては、気のせいだと思いたいが。


かろうじて僕はふたりの腕を振り払い、こう言った。


「一緒にっていうけど、僕たち住んでいる場所って、バラバラじゃなかったっけ?


僕はまず駅まで歩いて、そこからは電車を乗り継いで四十分ほど。


国貞くにさださんは、バス通学って言ってたよね?


屋敷やしきさんにいたっては、地元だから徒歩でしょ!」


しかし、どう言われようが、彼女たちはひるむ気配がない。


「いいじゃない。まずは屋敷さんちまでみんなで歩いて行って、それからふたりでバス停まで戻って、今度はわたしの家まで行ってくれれば円満解決じゃない?」


「うーん、それだとクニクニの方が長いことホッシーを独り占め出来るから不公平な気がするけど」


「何を言っているの。逆にあなたがわたしの家まで付いてきて、また学校方向まで戻るというの? それじゃあ相賀くんがかわいそうじゃない」


「いやいや、きみたち、僕にとっちゃ、どっちにしてもとんでもなく遠回りだよ!!」


さすがの僕も彼女たちの提案には賛同しかねて、不毛な論議をストップさせた。


僕はしばし黙考し、そして口を開いた。


「分かった。じゃあ、これでどうだ。


まず駅までの道のりを三人一緒に行く。そして、駅で解散だ。


後はそれぞれ、自分の家まで帰ってくれ。


僕の言うことが聞けないのなら、そんなわがままな子とはさよならだ」


かなりキツめに言ったこともあって、国貞さんも屋敷さんもショボーンとなった。


さすがにちょっと言い過ぎたかな、なんてね。


「うっ……そうですか。しかたありません。従います」


「分かった。ホッシーに嫌われたらイヤだから我慢する」


その反応に、僕は満足してこう答えた。


「ありがとう。僕のいうことをちゃんと聞いてくれたから、お礼としてふたりにはそれぞれ、週に一回ずつ自宅まで送ってあげる」


そういうと、ふたりの女子はパーッと表情を明るくしたのだった。


なんだか、魔法を使っているみたいだ。我ながら、スゲー。


「ホッシー、すごいじゃん。


昨日までとはえらい変わりようじゃない」


少し離れた席から、男子の声が飛んだ。


僕と仲のいい、仲真なかま友樹ともきだ。


「いやー、僕自身、信じられないよ。


一体、何が起きているんだか分からん」


「モテキ到来だな。マジ、うらやましいよ。ヒューヒュー」


「おいおい、やめてくれー」


仲真をはじめとする何人かの男子に冷やかされながら、僕の身体にすがりつく国貞さんと屋敷さんを引き連れて教室を後にした僕だった。


ひとりの男の両脇をぴったりガードするふたりの女。


その奇妙な三人連れは、学校を出るまでは全校生徒の好奇の視線にさらされ、学校を出てからも世間の老若男女のニヤニヤした視線の集中砲火を浴びたのだった。


僕は気づいていた。彼らの視線に「好奇心」はあっても「羨望」の感情はまったくないことに。


「あいつら、よくやるよ」みたいな、あきれた感情しかそこにないことを。


確かに、今の僕は一躍モテモテの身となった。


が……果たしてそれは、夢にまで望んでいた「モテ」と言えるのだろうか。


僕は声を大にして叫びたい。


「何がどうして、こうなった!!!」(続く)

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