第58話 ラブレターの真相は?
父さんと霧咲さんのお母さんが、ラブレターのやり取りをしていた疑惑が浮上した。
もしこれが事実なら、霧咲さんと俺は腹違いの姉弟の可能性が出てくる。
でも俺は、どうにもそのラブレターのことを信用できないでいた。
時期的に考えて不倫ってことになるけど、父さんがそんなことをするとは考えにくい。
とはいえ、もしかすると……と考えてしまうと、子供としては憂鬱な気分になってしまう。
それにもう一つ、考えないといけないことがあった。
「う~ん。天音に話した方がいいだろうか……。でも、信憑性がイマイチだしなぁ……」
そう。この話を天音にするべきかどうかだ。
本当かどうかわからない話をして不安にさせたくはない一方で、天音とは全てを共有していたいという気持ちもある。
彼氏として、どっちが正しい選択なのだろうか。
難しいところだ……。
そうこうしているうちに、自宅に到着していた。
リビングへ向かうと、ソファに座っていた天音がいつも通りの調子で出迎えてくれる。
「ただいま」
「おかえりなさい。遅かったわね」
「ごめん。向こうで霧咲さんに会って、少し話し込んでしまったんだ」
「そうなんだ」
スマホを見ていた天音だったが、何かに気づいて俺の顔をじっと見つめた。
「何かあった? なんだか表情が暗いけど……」
鋭いなぁ……。心配かけないようにいつも通りにしていたつもりだけど、すぐに見破ってしまうなんて。
ここで適当に『なんでもないよ』と言うのは簡単だけど、やっぱり天音には話しておこう。
彼女とはできる限り、情報を共有しておきたい。
「あー。実はさ……、霧咲さんから変な話を聞かされて……」
「もしかして、また中二病設定の話?」
「そうならいいんだけど……」
こうして俺はラブレターの話をすることにした。
頬杖をついて聞く天音は、驚きつつも、冷静に聞いている。
「ふぅん。その話が本当なら、霧咲さんのお母さんが純一郎さんにラブレターを送っていたってことになるのね」
「そうらしい……」
……と、ここで天音はあることを指摘した。
「でもさ、その話っておかしくない?」
「というと?」
「だって、手紙を送った日付が書いているのに、どうして送った側の霧咲さんのお母さんが持っていたの?」
「あっ! そうか! 本当なら父さんが持ってるはずなんだ!」
そうだ! どうしてこんなことに気付かなかったんだ!!
「どんな文面だったか覚えてる?」
「全文英語だったけど……、覚えている範囲で書き出してみるよ」
俺はできるだけ同じ内容を、メモ帳に書き出してみた。
さすがに全文は無理だけど、大体の内容はわかるくらいまでは再現できたと思う。
「こんな感じかな。いちおう和訳も書いておくね」
「……すごいね。一度読んだだけで、ここまで覚えてるなんて」
「部分的に間違えてるかもしれないけどね」
「それでもここまで書けないって。春彦って本当に頭がいいよね」
メモ帳を見た天音は「う~ん」と唸って、顔をしかめる。
「でも、これだけ見ると確かにラブレターよね。それ以外に考えようが……」
そうなんだよな。
内容だけなら確かにラブレターなんだ。
でも、どうも嘘くさいっていうか、作り物っぽい内容というか、フィクションの話みたいっていうか……。
ん? 作り物? フィクション?
あれ?
あることに気づいた俺は声を上げた。
「あっ! もしかして!」
「なに?」
「これって……、ゲームのテキストかも」
「え? ゲーム?」
「父さんはゲーム会社で働いているんだ。そして霧咲さんのお父さんはそのクライアント。もしかしてお母さんもその会社の社員と考えれば……」
「ゲームのテキスト案を手紙でやり取りしてだけってこと?」
「うん」
となると、これはラブレターじゃなくて、メモってことか。
ゲームのテキストの英訳をメモに書いて、それを封筒に入れていただけ?
でもそれなら、ラブレターなのに普通の白い封筒に入れていただけという理由も説明がつく。
どうも、これが真相みたいだな……。
「なぁ~んだ。真相がわかっちゃえば、どうってことない話ね」
「……はは。今度、霧咲さんにも話しておくよ」
「でもさ。親が再婚したからかもしれないけど、『自分は本当に両親の子供なのか?』って、やっぱり心配しちゃうよね」
「そうなんだよな。父さんに限ってそんなことはないとは思ってたけど、もしかして……って思ってたのは本当だし」
すると天音は少しイタズラっぽい口調で訊ねてくる。
「もしかして、落ち込んだりしてた?」
「落ち込んではないけど……、まぁ……、憂鬱な気分にはなったかな」
その時だった。
急に天音は俺の頭を抱きしめる。
それは結果的に、天音の胸に顔を埋める形となった。
「えっ? 天音? どうしたんだ?」
「何かあったら、今回みたいに相談してね。解決の糸口になれるかもだし、こうして甘やかしてなぐさめることもできるから」
「天音……」
「これからどんなことが起きたって、私は春彦の味方なんだから、それだけは忘れないで」
「ああ……、ありがとう」
胸に顔を埋めるって男の夢のようなシチュエーションだけど、実際にされるとこんなに癒されるものなのか。
もちろんそれは世界で一番好きなカノジョにしてもらっているからなのだろうけど。
「ふふふっ。こうしてると春彦が赤ちゃんみたい」
「そんなふうに言うなよ。恥ずかしいじゃないか」
「ばぶーって言ってみてよ。ねぇ」
「イヤだって」
「はぁ~い。いい子でちゅねぇ~。バブバブ~」
「……」
■――あとがき――■
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