第7話 二人だけのお弁当タイム


 昼休み。

 俺は一人、学校の屋上でお弁当を食べながら、午前中の散々な授業のことを思い出していた。


 化学の実験はミスの連発。他の授業も集中できなくて、体育の時にはバスケットボールを顔面でキャッチ。

 我ながらカッコ悪い。


 そして天音とは全然しゃべれないでいた。


「はぁ……。なにやってんだ……」


 天音が引っ越しをしていなくなると知った時、これからはもっと積極的な自分になろうとしたのに、結局いつもの俺のままだ。

 こんなんで天音につり合う彼氏になれるんだろうか……。


 大きくため息をついた時、頭にポンッと何かが置かれた。


「わっ!? なんだ?」


 突然のことに驚いて顔を上げると、そこには天音がいた。


「なに一人で食べ始めてるわけ?」

「天音……。なんでここに……」

「なんでって、一緒に食べたいからに決まってるでしょ」


 天音には多くの友達がいて、お弁当は必ずと言っていいほど他の女子と机を並べて食べていた。


 なので今日もそうするだろうと思っていたけど……。


「いつも友達と一緒に食べてるのにいいのか?」

「うん。今日はお弁当忘れたから購買に行ってくるって抜けてきた」

「わざわざ俺のために……。なんか悪いな」


 すると、さっきまで自然体だった表情は真っ赤に変化し、唇を尖らせてボソボソと話し始める。


「違うって。……私がさ、春彦と一緒に食べたかったの」

「えっ?」

「なんかさ。以前から春彦のことは好きだったけど、告白したあの時から春彦の傍にいたくて体がムズムズするの……。自分でもどうしていいのかわかんなくて……」


 モジモジしながら天音は指をいじっていた。

 普段はどんな時でも自分のペースを乱さない彼女が、こんな表情をするなんて初めてのことだ。


 そして、まるで助けを求めるようなしぐさで一言……。


「変……かな?」


 かわいい! なんだ、このかわいい生物は!!

 今すぐ抱きしめたい!!


「変じゃないよ。俺も……本当は一緒に食べたかったし……」

「うん、知ってる。春彦は私のことが好きだもんね」

「面と向かって自分の本心を言われると、すごく恥ずかしいんだけど……」


 天音は俺の隣に座って、お弁当を開く。

 入っているおかずはほとんど同じだったけど、弁当箱が小さいせいか、彼女の方がかわいらしく見えた。


 ふと、天音が小声で訊ねてくる。


「あのさ……。なんかグダグダでハッキリしてなかったけど、私達って付き合ってるってことで……いいの?」


 そういえば俺達って告白をし合ってはいるけど、付き合うかどうかをちゃんと確認してなかった。


 てっきり両想いだから付き合っていると勝手に思い込んでいたんだ。


 でもどうしてそんなことを今さら?


 もしかして月野さんに迫られてる現場を見たから、俺の気持ちが変化したと思っているのか!?

 そんなことあるわけがない!


「俺は……天音のことが好きだ」

「――ッ!?」


 咄嗟に思っていたことをそのまま口にすると、天音は目を大きく開いて驚いた。


「え!? ええっ!? なんで今の話で、急にそんなことを言い出すの!?」

「いや、その……。ごめん。言葉が飛び過ぎた」


 慌てる天音に、俺は落ち着いて説明を付ける。


「つまりさ。俺が付き合うのは天音以外にあり得ないから」


 そう。そうなんだ。

 俺が他の女性と付き合うなんて絶対にない。

 彼女が俺のことを好きでいてくれるなら、いつまでだって俺は天音のことを大切にしてあげたいと思ってる。


「春彦って、なんでそんなに真っすぐなのよ。今どきそういうの流行んないから」

「ご……ごめん」

「ばか」

「ごめん……」

「許す。許すから、もっとそっちに行っていい?」

「あ、はい。どうぞ……」


 さっきより距離を詰めて座った天音は、俺の腕に自分の体をくっつけた。

 横顔しか見えないが、たぶん赤面していると思う。

 これは彼女なりの甘え方なのだ。


 こういうのって癒されるし、嬉しいし、かわいい!

 やっぱりダメだ! 俺、天音が好きでたまらない!


 俺は思いきってあることを訊ねた。


「なぁ、天音。やっぱり俺達の関係って隠しておいた方がいいのかな?」

「兄妹になったこと?」

「それもあるけど、俺達が付き合ってることとか……」


 箸を弁当箱の上に置き、ゆっくりと話を続ける。


「俺さ、天音が引っ越していなくなると思った時、陰キャな性格を直してもっと天音と話をしておけばよかったって思ったんだ。だから今度は失敗したくなくて……」


 そうだ。あの時、あのまま引っ越しをしていたら、俺達はもう会えなかったんだ。

 これは俺に与えられたやり直しの機会なんだ。


 だから、このチャンスを無駄にしてはいけない。


「ちゃんと親にも俺達が付き合ってることを伝えて、堂々と……その……カレカノってことを言いたいって言うか……」


 俺がここまで意思表示をすることはかなりめずらしいことだ。

 そのことを天音は知っているからなのか、静かにこちらを向いて微笑んだ。


「うん。いいと思うよ。私は春彦が今の生活スタイルを維持したいって考えてると思ったから、親やクラスのみんなに内緒にした方がいいって言ったけど、春彦がカミングアウトしたいならそれでいいかな」


 天音がそう言ってくれて、俺は嬉しかった。

 もちろん俺を尊重してくれるその気持ちもそうだが、自分の中で一歩進み出せたような気がしたからだ。


 ……と、ここで天音が言う。


「でもその前に、やることがあると思うんだけど?」

「なに?」

「私達、告白をしてから、まだ一日しか経ってないでしょ。恋人らしいこと、全然してないじゃん」


 恋人らしいこと……って、なんだ?

 手を繋ぐこと? 一緒にご飯を食べること? あとは……キスをして……それから!! えっ!? えっ!?


 戸惑う俺に天音はイタズラを企むような目を向ける。


「家に帰ったら、覚悟しててよね」


 ええええぇぇぇぇぇーーっ!?



■――あとがき――■


いつも読んで頂き、ありがとうございます。


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投稿は一日二回

朝・夕の7時15分頃です。

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