第7話
一番近くの街に着いた。
生活費がない、仕事を請け負う。
オレたちは真っ直ぐギルドへ向かった。
「いらっしゃあい。あらぁハギちゃん久しぶりぃ」
猫族のローズが声を掛けてきた。
彼女は受け付け窓口だ。
今日も白い毛並みが艶々だ。
長い尻尾と低い小さな鼻をひくつかせている。
「ハギちゃんてばぁ、首に包帯とかぁ、専属契約した?それとも怪我?どこのブラックギルドだし」
「気にするな」
チッ、真っ先に契約に気付くあたり抜け目ない雌だぜ。
「てか、暫く来なかったじゃない。無法地帯の国境に出稼ぎに行ってたって噂で聞いたわよぉ」
「それは昨日までの話だ」
「ワイルド〜。昨日を”省みない”雄ってほんとステキ♡」
「仕事をくれ。何か余ってるものはあるか?」
はいはい、とローズが仕事モードに切り替わる。瞳孔が開き切った。
シャルルルル……フワァ……
大量の紙束を宙に浮かべる。
魔法で束を捲りながら、素早く目を通して行く。
「これなんてどうかなぁ、獣族の領域に侵入してきた野良人退治。ハギちゃんなら瞬殺っしょ?」
「……今はヒト族が関わる仕事は気分じゃない」
「でも他のって素材集めや害虫駆除しかないわよぉ。害虫駆除なら得意だろうけどぉ、簡単な物は新人さんに任せたいのよねぇ。ギルドの都合上」
……背に腹はかえられぬ。
オレの手元には金が少ない。野宿でも生きることは出来るが。
奴隷で辛い思いをしてきただろうボタン。
せっかくの専属契約、あまり野宿続きはかわいそうだ。
オレの背中に隠れていたボタンは、不安そうにぷるぷる震えながら上目遣いで見上げてきた。
小動物のようだ。
「ご主人様ぁ……ぼあんに、おしごと……てちゅらえましゅかぁ……?」
豊満な乳房を押し付けながら、背中にくっ付いて離れないボタンを振り返る。
頬を赤らめて、がんばいましゅ、と何度か呟いていた。
それでもオレにしか聞こえない小声だ。
やれやれ、怖がりなやつ。
ローズが急に身を乗り出してきた。
「やっば!ヒト族!?え、キメラじゃないよねぇ?まさかヒト族と専属契約したの?!簡易契約じゃなくて?家畜?野良?」
興味津々に、猫族特有の瞳孔が開き切った目でオレの背後を覗こうとする。
ボタンがびびって小さくなる気配を感じた。
ああ、やはり。
簡単なことだ。考えなくてもわかる。
希少種であるキメラとバレたら面倒だ。
「野良」
「はわぁぁ……ご主人様ぁ♡」
怯えていたボタンが、嬉し涙を浮かべて乳房を押し付けてきた。
こそこそと「さすがご主人様でしゅう、天才でしゅ」とオレにだけ聞こえるように耳打ちする。
これぐらい、当たり前のことだ。
「野良人って最近減ってんだよぉ、貴重だねぇ。服まで着てるし。良かったね、おまえ〜まだ子供じゃん。かわいー、名前何?ポチ?」
ローズの長い腕は、ボタンの頭を撫でようとしたのだろう。
ボタンは、はっと息を呑む。顔色が一瞬にして真っ青になった。
オレの背中に完全に隠れてしまった。
「獣見知りな野良人なんだ、勘弁してやってくれ。名前はボタン」
「感じワル〜。ペットになれたんだから、獣慣れしなきゃメッ!だよぉ?でもハギちゃんのお願いなら聞いてあげるぅ♡ボタンちゃん撫でるのやーめた」
「で、仕事」
「ハギちゃん私にも構ってよぉ……つれなーい。さっきも言ったけど野良人退治が一番かなぁ……」
「……そうか」
いや、待てよ?
オレはつい先日、パーティのヒト族に酷い裏切りを受けた。
しかも今回の仕事は罪人のヒト族と来たものだ。
在任相手に容赦は要らない。
専属契約したボタンを試す良い機会だ。
そして野良人相手なら、オレの腕力があれば、まず負けることはない。
「引き受けた」
「マジ?助かるぅ〜ハギちゃんしか勝た〜ん♡」
追放された時、アイツらへ復讐を誓ったじゃないか。
これは復讐への第一歩だ。
そうさ、オレは罪を犯したヒト族ならもう容赦はしない。
「契約完了!ありえないと思うけどぉ、ボタンちゃん守るのに必死で失敗〜ってことになったら笑うからねぇ?その子愛玩以外役に立たなそぉ」
「そうしてくれ」
背後できょとんと可愛らしい目をまん丸にさせるボタン。
彼女の頭をぽんと叩くと、大きく肩が跳ねた。
頬を真っ赤に染め目を潤ませている。
何故かオレが触れようとすると、嬉しそうだ。
「行くぞボタン、オレたち新パーティの初仕事だ」
「ふみゅ〜♡がんばいましゅ〜♪」
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