6話 白銀草の採取

 冒険者ギルドで登録を済ませ、薬草採取の依頼を受注した。

 チンピラ風の先輩冒険者に絡まれたが、突然体調を崩して倒れ込んでいた。

 少し気にはなるが、命に関わるほどでもなさそうだったのでとりあえずスルーだ。


 さっそく街を出て、森に向かう。


「ふうむ。採取依頼があったのは、白銀草だったな。この森に入って少ししたところにあるらしいが……」


 もちろん、情報は事前に冒険者ギルドで収集済みである。


 森の奥地にしか生えていない植物の採取依頼は、初級冒険者には荷が重い。

 中級以上向けである。


 一方で、森に入る手前にも生えている植物の採取は、わざわざ冒険者に依頼するまでもない。

 自分たちで取りに行けばいいのである。


 その中間として、森に入って少ししたあたりに生えている植物の採取依頼は、初級冒険者向けとして鉄板の依頼になっているわけだ。


「ええと……。ああ、あったあった。これが白銀草だな」


 俺はさっそく目当てのものを見つける。

 白銀ににぶく輝く草である。

 薬草として、幅広いニーズがある。


 俺は引き続き採取を進めていく。

 そのまま順調に依頼の規定量を達成……といきたいところだったが、そう甘くはなかった。


「うーむ……。このあたりの白銀草は採り尽くしてしまったか? 見当たらないな」


 俺はなおも探し続ける。

 あともう少しが、なかなか見つからない。

 少しだけ森の奥に進んでみるが、やはり見つからない。


「お、やっと見つけた。……と思ったら、これは黒毒草か。一応は売れるし、持って帰るか」


 黒毒草。

 物理的な毒を持つとともに、瘴気を呼び寄せると言われる毒草である。

 呪術などで利用されることがあり、安値ではあるが一応は売却可能な草だ。


 俺は黒毒草をズボンのポケットに入れる。

 そして、肝心の白銀草の探索を再開する。

 しかし、やはりなかなか見つからない。


「これは困ったな……。最悪、今日は引き上げか? 時間ギリギリまで粘ってみるか……」


 夜の森は極めて危険だ。

 夕方も、そこそこ危険である。


 今は夕方前。

 あと1時間かそこらのうちには、街へ戻り始めなければならない。


 俺ががんばって白銀草を探しているときーー。


「うふふふふ。仕方のないダーリンね。ほら、あそこにあるわ……」


「おっ。あそこか。ありがとう」


 茂みが強く光り輝いている。

 俺はそのあたりを探ってみる。


「あったあった。これで規定量に到達だ。……って、さっきの声はだれだ?」


 俺は周囲を見る。

 しかし、俺以外の人影はない。


「空耳か、もしくは気のせいか……。しかし、まだまだ光っている茂みはあるな。せっかくだし、もっと白銀草を採取していくか」


 白銀草は、激レアというほどでもないが、そこそこの価値がある薬草である。

 一束で銀貨数枚。

 たくさん手に入れられれば、金貨数枚も狙える。


 仮に金貨3枚を稼げれば、今の格安の宿屋であれば素泊まりで1か月程度泊まることができる。

 通常の宿屋でも、飯付きで5日以上は泊まれる。

 ここでできるだけたくさんの白銀草を採取しておけば、今後の資金繰りが楽になるだろう。


「よっしゃ。ここも。ここにもあるぞ!」


 それにしても、白銀草があるところが強く光っているのはどういう理屈だろう?

 白銀草は、にぶく光っている草だ。

 あれほど強く白銀草自体が光ることはないはずだが……。

 採取し終えた白銀草を見ても、特に変なところはない。


 探索系の魔法では、探しているものを察知することも可能らしい。

 しかしもちろん、俺はそういった魔法は習得していない。


「ま、とりあえずは気にしても仕方がないか。どんどん採取していくぜ!」


 細かいことは置いておいて、今はたくさん採取して稼がせてもらおう。


「うふふふふ。喜んでくれたようで、何よりだわ……。でも、そろそろ暗くなるから帰ったほうが……」


 どこからともなく、何やら声が聞こえた気がした。

 しかし、テンションの上がった俺にその忠告は届かなかった。


「わはははは! 大量だぜ! これでしばらくは安泰だな」


 俺は夢中になり、どんどん採取を進めていく。

 背負ってきていたリュックに、既に8割ほど詰め終えている。


 あともう少し採取して、パンパンになったら帰ろう。

 やや薄暗くなってきたが、まだいけるはずだ。

 せっかくの機会だし、簡単に帰るのはもったいない。


 それに、俺ならゴブリンなどの低級の魔物程度であれば遭遇しても大きな問題はない。


 そんな風に、俺は少し調子に乗っていた。

 俺を囲むようにして迫っている魔物の気配に、俺は気づけなかったのである。

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