第14話 破滅へのカウントダウン(4)
カンカンカンカンカンッ!! カンカンカンカンカンッ!! カンカンカンカンカンッ!!
アルブスの本部では、悪魔族襲撃の鐘が激しく鳴らされていた。
夜の闇にまぎれて奇襲攻撃を仕掛けてきたのだ。夜勤のものだけでは手が足りず、次々と隊員たちに召集がかかる。
充分な体制を取れずに、
「奇襲だっ! 総員直ちに配置につけ!!」
「おい! いつまで寝てんだ! 悪魔族が来てんだぞ!」
「アイツらが来たぞ!! 誰か北の砦に飛んでくれ!!」
「三番隊の者はいないか!? 負傷者が出てるんだ! 助けてくれ!!」
隊員たちは総出で自分の持ち場についていた。鳴り止まない鐘の音に、休日でくつろいでいた隊員たちも、続々とアルブス本部に集まってくる。
いつもは後方支援担当の五番隊隊長のエレナも、最前線で悪魔族をくいとめていた。三番隊のフィルレス隊長は負傷者を減らすために、二番隊にまざって防御結界や得意の水魔術を使って援護している。
それほどまでに切羽つまった状況だった。
ついに、来てしまった————悪魔族の襲撃だ。
シュナイクは司令塔の目の前に広がる光景から、目をそらせなかった。最上階が司令室で、三六〇度ガラス窓の造りになっている。窓を開ければすぐに飛び立つ事ができて、各砦の様子が一目でわかるようになっていた。
ひときわ目を引いたのは、北の砦だった。
テオ隊長の紅蓮の炎が双龍のように舞っている。フィルレス隊長の青白い光は、隊員たちを守る壁となって立ちはだかっていた。アリアナ隊長の風魔術が、閃光をはなって走り抜けている。
北の塔が一番最初に奇襲を受けたのだったな……。あの三人がいるなら、しばらくは持つだろう。問題はエレナ隊長が前線にいる司令塔……この塔の目の前だ。
くっ……私も出るしかないのか!?
シュナイクはここ最近の襲撃では、司令に徹していて前線まで出る事がなかった。いや、前線に出る事ができなかったのだ。
そこには、誰にも言えない理由があった。いつのまにか、以前のように聖神力を使えなくなっていたのだ。
ここで出て行ったとしても、今の私の攻撃ではせいぜい下級の悪魔族を倒せるくらいだ。攻め込んできている中級の悪魔族には歯が立たない。何故だ……! 何故、聖神力まで使えなくなってしまったのだ……!!
この事が知れたら、私は……私はどうなるのだ!?
シュナイクがひとり悩んでいる間も、ひっきりなしに報告は入ってくる。だが、もはや聞く意味があるのかと言うほどの、
「シュナイク様! 中央の結界が突破されました!!」
「北の結界も破壊されてます! どうしますか!?」
「回復隊員が足りません! フィルレス隊長は戻れませんか!?」
私は何も答える事ができなかった。
私の忠実な部下たちも、前線に行ったまま戻ってくる気配はない。タイタラスとバーンズに関しては、先程重傷を負って動けなくなったと聞いている。
攻撃の要である一番隊が、四割の稼働率でどうやったら乗り切れるのか……もう、わからない。
ここまで悪魔族に攻め込まれてしまっては、この司令塔まで来るのも時間の問題だろう。
レオンを追放した以外は、ひとつも計画通り進んでいないではないか。
むしろ、この国に危機を招いて、私は、一体何をやっていたのだろうか……?
指示も出せずに呆然としていた。シュナイクに声をかけるものは誰もいない。それぞれが悪魔族を止めるために奔走していた。
「全員、その場で停止せよ!!」
そこへ聞こえるはずのないの声が、響き渡る。騒然としていた司令室は一瞬で静まりかえった。隊員たちは、条件反射で直立不動になっている。
声の主は、少しクセのある輝く金髪に、海のような碧眼、天使のような美しい顔に、白い上級
途端に司令室の雰囲気が変わる。ノエルの
「四番隊イリス、伝令だ」
ノエルは最速の使者を指名して、イリスの返事を聞く前に次々と指示を出していく。イリスはいつものようにノエルの前に膝を突き、
「アリアナの二番隊は一番隊の背後にそなえて、いっせいに広範囲の魔術攻撃。フィルは司令塔にもどって、聖堂をつかって負傷者を回復。テオ以外の四番隊員は中央で僕が悪魔族を蹴散らしたら、すぐに結界をはって。エレナも戻っていい、五番隊の指揮を頼む」
「承知しました」
イリスは一言で返事をした後、フッと姿を消す。窓はすでに開いていて、ほんの一瞬で北の砦にむかって飛び去っていった。
「ノエル様!!」
「総帥! やっと……やっと!」
「ノエル様ーー!!」
あちらこちらから「ノエル様!」と歓声があがる。隊員たちはノエルの復帰に歓喜していた。中には涙を流しているものもいる。
だが結界は破れ、現在進行形で悪魔族と戦っている仲間がいる。一刻もはやく事態を収拾しなければいけなかった。
「待たせたね。さぁ、反撃の時間だ」
窓枠に手をかけ、ノエルは六枚の純白に輝く羽をひろげる。ミカエルの加護をうけて輝く姿は、本当に天使のようだ。およそ三ヶ月ぶりの雄々しい姿に、
「あぁ、そうだ」
忘れるところだったと室内を振り返る。視線の先には、青も白も通り越して、土色の顔色をしたシュナイクがいた。
「シュナイクは後で話があるから、全て片付いたら執務室に来るように」
穏やかな笑顔なのに、凍りつくような冷たい瞳がシュナイクを貫く。
シュナイクはこの時、気づいたのだ。この
おそらく、最初から全てが罠だったのだ。
目の前が真っ暗になり、底なし沼に飲み込まれていくような錯覚にシュナイクはとらわれていた。
————カウントダウン、1
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