そのままでいい
ポストさんを中庭に持って来た時には、外は暗くなり始めていた。
あと数十分で、下校のチャイムが鳴る時間です。
「それじゃ、設置は任せたぜ」
天馬先輩は言うと、地面に触れて何やら作業をし始める。
私は私でポストさんを設置しなくては。
ちょうどよさそうな茂みの中に、ポストを隠すように置く。
そして、ポストに貼り紙をする。
『魔法のポスト。あなたの悩みをあなたの名前と共に書いてください。魔女が、あなたの悩みを解決にやってくるかも!?』
『どうしてわざわざ、隠すように置くのだ?』
トシローさんが首をかしげる。
「先生に見つかったら、すぐにこの場所から消されてしまいます。せっかく頑張って作ったのに、すぐにゴミ箱に入れられるのは嫌です」
『それはそうなのだ。でも、こんなところに置いたら見えないのだ』
「大丈夫です。それは、天馬先輩の魔法できっと、なんとかなります」
私の言葉に、トシローさんがますます首をかしげる。
『そういうものなのだ? そんなにすぐに信頼してしまってよいのだ?』
「問題ありません。そんなことを言いだしたら私とトシローさんだって、出会ってまだ一日しか経ってません」
そう言うと、トシローさんが頷いた。
『確かにそうなのだ。前から知っているような気がしたけれど、あくまでワガハイとミスズも、昨日会ったばかりなのだ』
『準備が整いましたわ。そちらはどうですの?』
ペガさんが姿を現した。後ろから、天馬先輩もやってくる。
「いい場所を見つけました。ここなら見つかりにくいはずです」
「後は、勝手にポストが撤去されないように魔法をかけておくか」
天馬先輩は鞄の中から、白いとんがり帽子を取り出した。
そして、ポストに触れて目を閉じる。
すぐに、先輩の腕のリボンの魔法石と、ペガさんの魔法石が光った。
「あ、ペガさんが……」
「角が生えて、羽が大きくなったのだっ」
両手に包む込めるほどの大きさしかないペガさん。
そのペガさんが今、中型の犬、大人の柴犬さんくらいの大きさになっています。
体の大きさに合わせて羽が大きくなり、額に角が生えました。
「これは、魔法のポスト。困っている人、誰かに相談したい人だけがこのポストにたどり着ける。ポストの中は、猫村と俺しか開けられず、どちらかが許可しない限り、ポストをここから取り除くことはできない」
そう、言い聞かせるようにポストに触れたまま天馬先輩は言った。
すると、ポスト自体も
しばらくすると、ポストと魔法石の光が収まった。
『ペガも、元の姿に戻っていくのだ……』
トシローさんの言葉で、私もペガさんを見る。
大きく成長していたペガさんも、元のサイズに戻っていた。
『本当は、あの姿のままでいるのが理想なのですわ。でもまだあたくし、それほどの魔力は持っていないのですわ』
「相棒の問題で、な」
ペガさんの言葉に、天馬先輩が少しだけ悲しそうに言う。
『アキトのせいではありませんわ! あたくしのせいですわ!』
「いや、俺のせいだろ」
『ぜっっったいに違います! アキトは悪くないのですわ!』
「二人の関係、すばらしいものだと思いますが……」
私の言葉に、思わず一人と一匹が言い争いをやめてこちらを見る。
「別に急いで、一人前の魔法使いになる必要はないのではないでしょうか」
『でも早く、一人前になった方がかっこいいのだ』
トシローさんが口を挟みますが、気にしません。
「ペガさんがあの姿のままでいられないのは、まだ成長の余地があるということではないでしょうか」
『成長の余地……ですか』
「はい。自分たちはまだまだ未熟だ、と精進することが大切なんだと思います」
そういえば、死んだおばあちゃんが言ってたな。
『ミスズ、
「そりゃあ、完璧な人なんじゃない?」
『それが、違うんだよ』
おばあちゃんは、いたずらっぽく笑ってたっけ。
「完璧じゃないから、未完成だと自覚しているから、人は成長できるんです。もう自分は完璧だ、そう思ってしまったら、人は成長をやめてしまいます」
「俺たちは、このままでいいってことか?」
「そのまま、自分にできる最大限のことを常にやっていれば」
それも一つの形だと思います。
そう言い切ると、先輩がふっと笑った。
「……ほんとお前、変わってるよな」
「変、でしょうか」
「いや、変じゃねぇよ」
先輩はぽんぽんと、私の頭に手を置く。
「ありがとな。……俺はお前も、そのままでいいと思う」
「え?」
「さてと、今日中に誰か来るといいな」
先輩は大きく伸びをしながら、歩き出した。
その背中を、私とトシローさんはあわてて追いかける。
その時、私たちの傍らを通り過ぎる人影を見つけた。
「さすが先輩、もう効果が出たみたいです」
「は!?」
私たちは急いで近くの茂みに身を隠した。
記念すべき一人目のお客さん、になるのかな……。
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