言葉にして
その日の放課後。
『ミスズ、どこへ行くのだ?』
「ホウキを取りに行くんです」
やってきたのは、運動場の部室棟の裏。
私の背丈の半分はある背の高い草がたくさん生えている。
今朝は、天馬先輩にホウキごと引っ張ってもらってこの場所にたどり着きました。
『俺はいつも、この場所にホウキを隠してる』
先輩の話によるとこんな、虫がたくさん出そうな場所には誰も近寄らないそうで。
まぁ私も用事がなければ、こんな雑草だらけの場所には近づきません。
「さて、どうやって帰りましょうか……」
『空を飛んで帰ればいいのだ』
当たり前のように言うトシローさん。
「行きしな、先輩に引っ張って連れてきてもらったのにですか?」
『あぁそういえば、そうだったのだ……』
ホウキのお手入れをしてあげれば、何か変わるかもしれません。
しかしそれは、家に帰ってからしかできないことです。
『じゃあ、歩いて帰るのだ?』
「いえ、それもできません……」
『どうしてなのだ?』
「だって、ホウキを持って歩いている人は、変な人です……」
お
そして私は、そのどちらにも当てはまりません。
どうすべきか考えていると、後ろから声がかかる。
「ホウキが言うことを聞く気がねぇ時でも、目的地まで飛ぶ方法はあるぜ」
振り返るとそこには、天馬先輩が立っていた。
しかめっ面の先輩は腹立たしげに、髪をかきあげる。
「……話しかけちまって、
「いえ、ちょうど困っていたところですので助かりました」
そう答えると、先輩は意外そうに目を細めた。
「先輩。ノート、ありがとうございます。少しの間、借りていてもよろしいですか」
「あ゛あ゛?」
先輩の鋭い声に、思わずびくりと肩をふるわせる。
「あ、やっぱり
「いや、そうじゃねぇ」
先輩は、私を確かめるような目で見た。
「お前、あの字、読めたのかよ」
「はい、読めました……が?」
「そっか。……それならいい」
先輩は私から視線をそらした。それから、小さな声で言う。
「……俺はもう全部覚えてるから……、返すのは、いつでも構わねぇ」
「いいんですか」
「別に、困ってねぇし」
「それでは、お言葉に甘えてお借りします」
ぎゅっと、紙袋を抱きしめる。
「あ、それから」
「あ゛?」
ちゃんと、言わなくちゃ。
「さっきは、ごめんなさい。せっかく教室まで来てくださったのに……」
思わず私も、声が小さくなってしまう。視線も下に下がる。
「私、人の目とか言葉とかに、すぐ反応してしまって……」
自分じゃない誰かが怒られているだけで自分が怒られているみたいに感じる。
私を見る目が、自分を悪く思う視線なんじゃないかってすぐ感じてしまう。
悪いところだって分かっているんですが、なかなか直せなくて。
「……いいんじゃねぇの?」
先輩の一言で、顔を上げる。
「視線や言葉に
視線や言葉に反応しやすいことが、魔女にとって大切……?
首をかしげる私に、先輩は言葉を続ける。
「それにそれもお前の個性じゃねぇか。大事なのは、どう役立てるかじゃねぇか?」
個性。これが……? そう思いながらも、私は先輩の目を見た。
先輩も私の目をまっすぐ見返してくれる。
「見方を変えればきっと、お前のその個性も役立つんじゃねぇかと俺は思う」
「考えて……みます」
そんなこと、今まで言われたことがなくて正直少し、戸惑った。
でも先輩が本気で私に向きあってくれた気がして、嬉しかったのです。
「……ま、でも勇気を出して教室に行ったのに、嫌そうだったのは悲しかったな」
ぼそっと先輩が言う。
「すみません。それは本当にすみません! 教室に来られるのが嫌だったんです」
あわててそう謝ると、先輩は少し目を見開いた。
「……じゃあ、俺と関わるのが嫌ってワケじゃねぇの?」
「はい、もちろんです。だって先輩、優しい人ですから」
他人の私を助けてくださいましたし、そう付け足す。
すると先輩は拍子抜けしたように、小さく息づいた。
「それじゃ、教室に行かねぇようにすればいいんだな?」
「はい、ご迷惑をおかけします」
「別に、迷惑じゃねぇよ。俺、てっきり関わってほしくないのかと思ったから……」
「とんでもない! ただクラスメートに見られるのが嫌だっただけで」
片手をぶんぶんと左右に振ると、先輩は少しだけ笑った。
「……それなら、よかった。これから仲間同士、よろしくな」
「こちらこそ、色々迷惑かけると思いますがよろしくお願いしますっ」
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