魔女仲間発見!?
真っ逆さまに落ちていく。ああ、これはまずい。非常に、まずい。
胃がひっくり返る感覚。もう
ぐんっ、と私の体が持ち上がる感覚があった。
体と一緒にホウキも持ち上がる。
「……おい。そういう遊びは、よそでやれ」
視界の端に見覚えのある制服が目に入る。
同じ学校の生徒さんです。顔を見て驚く。
「てんま……先輩……」
着くずしたカッターシャツ、ダークブラウンの髪。
そのうちのひと房だけ明るい茶髪。
笑っていればきっとさわやかイケメンなのですが、しかめっ面で鋭い目つき。
同じ中学の生徒も、先生も先輩のことが苦手だと聞きます。
ケンカに負けたことがないとか、すれ違っただけでケガをしたとか。
でもそんなウワサ、私は信じていません。
だって、直接天馬先輩に聞いたわけではないですし。
そもそも天馬先輩とお話したこと自体が、ありません。
それなのに見かけだけで判断するのは、駄目だと思うんですよね。
うんうん、と一人でうなずいていると、天馬先輩が冷たい声で言う。
「お前……――、空を飛んでいたのか」
いやいや、見たらわかるはずです。あれ?
「天馬先輩も……、空飛んでます……よね?」
思わず聞き返す。すると、天馬先輩は鋭い目つきのまま、頷く。
「そういうことになるな」
「ということは、先輩も魔法使いですか」
天馬先輩が魔法使い……。ちょっと意外すぎる。
とんがり帽子をかぶって、空を自由に飛び回る天馬先輩を想像してしまう。
しかめっ面のまま、飛ぶんでしょうか。
あぁ、そんなことはどうでもいいのです。それよりも。
「助けて頂き、ありがとうございました。地面に
私の言葉に、天馬先輩は少しだけ目を見開いた。
「なんだお前、ホウキの扱い方を知らないのか」
「はい、昨日魔女になったばかりなもので……」
『ミスズ、そんな簡単に魔女だって言ったら駄目なのだ』
ひょっこり鞄の中から顔を出すトシローさん。
『問題ないですわ。こちらも魔法使いですから』
天馬先輩やトシローさんとは別の声がする。
声のした方を見ると、天馬先輩のホウキの柄にも、鞄がぶら下がっていた。
その鞄から、とんがり帽子をかぶった白い小動物が見えている。
『初めまして、初心者マークの見習い魔女さん。あたくし、ペガと言います』
よろしくですわ、と白い小動物が鼻をならす。小さい馬みたいな形をしている。
一体、これは何という種類の動物なんでしょう。かわいいです。
『トシローなのだ。それとこっちは、カイヌシのミスズなのだ。よろしくなのだ』
トシローが白い小動物……――、ペガさんにあいさつをする。
『さっそくですが、ミスズさん。アナタ、ホウキへの愛が足りておりませんわ』
「ホウキへの……愛……?」
思わず首をかしげてしまう。ホウキを愛するって、どういうことだろう。
ホウキが実は悪い魔女に呪いをかけられてしまった王子様なのでしょうか。
いつか王子様に戻るまで大事にせよという、そういうお話でしょうか。
『きちんと、お手入れをしてあげないと。これでは言うことを聞いてくれませんわ』
「ああ……」
確かに、もう何年も手入れをしていない感じではあります。
その割には、ずっと家に置いてある。どうしてなのでしょう……。
『とにかく、学校に着くまでは、あたくしたちのホウキで引っ張って差し上げます』
「ありがとうございます。助かります」
『きちんとお礼を言えるニンゲン、嫌いではなくてよ』
再び鼻をならすペガさん。
「ペガは、ペガサスの一族なんだ。プライドが高い」
天馬先輩がぼそっと言う。
ペガサス! あの、想像上の生き物と言われているペガサスが目の前に!
ペガサスと言えば、大きな羽の生えたすてきなお馬さんのことです。
そんな生き物まで、魔女の世界にはいるのですね。
ペガさんは、きっ、と天馬先輩をにらんだ。
『プライドが高くて悪かったですわね。アキトも、もっと自分の一族に誇りをお持ちなさいな』
天馬先輩の一族……――、家族のことかな。
『アキトの一族は、代々魔女や魔法使いになっている家系なのですわ』
「それはすごいですね」
「すごくねーよ」
投げやりに言う天馬先輩。
「少なくとも俺は、困ってるんだ。出来が悪い俺は、一族の恥さらしだとよ」
あんなの、家族じゃねー。そういう天馬先輩の表情は、少し悲しそうです。
何か言わなくちゃ。思わず、言葉が飛び出た。
「先輩は、いい人です」
ああ、私ったらトンチンカンなことを。
天馬先輩も、しかめっ面がひどくなっています。
「は?」
話し方は、確かに怖いですが……。
「だって先輩は、見ず知らずの私を助けてくださいました。先輩が魔法使いで、なおかつ助けてやろうと思ってくださったから、私は救われたんです」
ありがとうございます。
そう言うと、天馬先輩は自分の髪をかきまわした。
「あ゛ー……別に。たまたまだよ、たまたま! そういう気分だっただけだ」
ぶっきらぼうに言ってそっぽを向いてしまう先輩。
そして何かを思い出したかのようにふと、手元の腕時計を見る先輩。
そして、明らかに動揺した顔をする。
「無駄口叩いてるひまはねぇ! 俺ら、遅刻確定五分前じゃねーか!!」
しまった。私も完全に忘れてました!
今私たち、遅刻になるかそうでないかの、大切な分かれ目にいたんでした!
でも。そんな急いでいる時に、先輩は私を助けてくれました。
やっぱり先輩はいい人です、間違いないです!!
先輩のホウキに引っ張ってもらいながら、私たちは全速力で学校に向かった。
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