想定モンキーSHOW
渡貫とゐち
想定モンキーSHOW
こんなこと「猿でもできるぞ」と言われた。
しかし僕は思うわけだ――いやいや、それは猿を低く見過ぎているのでは? と。
猿でもできる、と言われても、残存する猿の全てができるわけでもなく、できる猿もいればできない猿もいるわけで――、
だから正確に言えば、「個体差はあるがおおよその猿ができること」だ。
さらに言ってしまえば、猿だけでなく人間にも当てはまるだろう。こんなこと猿でもできるけど、できない人間もいる。
猿にできないことが、人間だってできないこともあるのだ。……人間も個体差がある。抱えているハンデによっては――現時点で万全か、そうでないかで、できることの幅も狭まっていくのだ。体調にもよるだろうしね。
人間ができないことを、猿はできる……持ち前の素早さで町を駆け抜けたり、ほんの一瞬で数十メートルの高さの木登りをしたり……。
そんな猿も、木から落ちることがある……それは不調ゆえにだろう?
人間は素早く木を登ることさえできないのだ。
上まで登った猿が見下ろしているのは人間だ……、猿を低く見た発言の前に、自分たちも同時に見下ろされていることを自覚するべきである。
猿は人間の真似ができるけど、人間は猿の真似ができないのだ。
その時点で猿の方がちょこっとだけ、上にいるのではないか?
「猿でもできる」は、猿に失礼だ。
言い換えよう、猿のためにも――、
「猿だからこそできる」……ほら、こっちの方がいい。
「人には向き、不向きがあり、できることとできないことがあるんです。僕にそれはできません。いえ、できないこともないですが、完遂までに時間がかかります。
できる人がやればいいのでは? ……無理に僕に渡す仕事ではないでしょう……、僕に仕事を振った時点で、先輩は管理職としては向いていないのでは?」
人を見るのも仕事だし、センスが必要だ。できないことを責めるつもりはないが、間違ったまま突っ走ることは褒められたことではない。
終始、一貫している……その諦めない心は尊敬するが、木登りが得意でない人間にずっと木登りをさせているのは感動こそ呼ぶが、実益を考えれば時間の無駄である。それなら猿にやらせた方が早い……。それか、クレーン車でも持ってきて運んでしまった方が早い。
木を登らせる過程に意味があるならまだしも、頂上に立つことが目的なら、やはりそこは猿に任せるべきだ……猿だからこそできることである。
「……分かった、丁寧に教えてやるからお前がやれ」
「え……、あ、はい。まあ、僕に丸投げでなければいいですけど……」
「お前は『猿にできて』『人間にできない』こともある、と言ったが、それは知恵と道具でなんとかなるもんだ。
木登りで言えば、両手だけでは難しくても、ロープとフックを使えば不可能じゃないだろ。猿には劣るが、頂上には辿り着く……。道具を使わないでそれができる猿は確かにすごいが、知恵と道具に頼らない猿は、やはりできないことはできないと、すぐに諦めるんだ。
……そういう意味では、猿を見下す風潮にはなってしまうものだよな……」
「…………」
「木の頂上に立つだけなら登る必要もない。
人間は上空から降りて頂上に立てばいいだけの話だ――猿にはできない、科学の力だ」
たとえばもしも、猿が知恵をつけ道具を知り、科学を得たら……、
人間が勝てる要素は、残るのだろうか……。
「それこそ『
「それ、は……」
「自分の能力に見合わない結果を欲張り、失敗することだな……そういう意味じゃあ、お前は賢い方だぜ。猿以上にな。
できないことはできないと言い、助けを求める……猿にはできないことだろ?」
いや、だからですね、先輩……何度も言っていますけど――
「できるできないは分かりませんよ。猿にも個体差がありますから」
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