第51話「戦闘激化」
「……」
ダリアは魔法を放ち続けながら、必死に戦うローダン達を見つめる。ギルドを結成した頃から、ダリアの役割は常に同じだった。仲間の強化と回復、敵の無力化などの、後方支援に徹すること。
それが自分の果たすべき役割であることは、重々承知であった。しかし、モンスターに傷を付けられる仲間を見る度に胸が苦しくなる。自分が武器を持ってモンスターに挑むことができない罪悪感に苛まれる。
“ダリアにはダリアのやることがある。いつもお前が俺達を支えてくれるおかげで、俺達は安心して攻撃に移れるんだぜ。すごく感謝してるよ”
無力な自分が嫌になる度に、ローダンが頭を撫でて励ましてくれた。彼の放つ言葉は自分より強力な魔法に満ちているようで、自分の心の傷は瞬く間に治癒されていった。今までの情けない自分の人生を丸っきり肯定してくれる器の広さに、ダリアは生きる希望を見出していたのだ。
“まだ使いたくはなかったけど……仲間を守るためなら……”
ローダンがテイントの攻撃を死に物狂いで受け止めている。だが、限界の足音が着々と近付いてきている。その足音が鼓膜を大きく揺らした時、彼は敵の拳の露と消える。
愛しの彼が生き絶える瞬間など、自分が死ぬ未来以上に耐えられない。
「奥義……ラストカース!!!」
イワーノフとの最終決戦のために温存しておきたかったが、ダリアはやむを得ず奥義を発動させる。彼女は杖を高く振りかざし、ハイ・ゲースティー達の頭上に光を出現させる。そこから降り注ぐ細かい粒が、シュリンクとテイントの肩にこびりつく。
「なっ……う、動けない……」
「これは……」
その瞬間、俊敏に動き回っていた二人の体が、見えない力に固定されたように止まってしまった。卓夫、香李、ローダンは一瞬戸惑ったが、絶好のチャンスを逃すまいと、攻撃を再開する。
「ダリア! よくやった!!!」
「ダリアちゃん、ナイスー!」
「助かったわ!」
三人はそれぞれ武器を構えた。
「最大火力でいくぜぇぇぇぇぇぇ!!!」
ゴォォォォ!!!
卓夫はヤケドシソードの束のダイヤルを最大に回し、大きく振り下ろす。激しく燃え盛る炎が、シュリンクの左腕を切断する。ダリアの奥義で動けなくなった彼女は、コアを移動させることもできないようだ。
ザッ
切断した左腕は再び香李の元へと転がっていく。香李の目の前にシュリンクのコアが落ちている。香李は次こそはと覚悟を決め、ビコビコハンマーを振り上げる。テイントも動きを封じられているため、邪魔されることはない。怒りの一撃が降下する。
「これで終わりよ!!!」
ガッ!!!
「エクスタシーソード!!!」
テイントの体が一瞬にしてバラバラに刻まれる。今度は右足の断面からコアが出現した。表面にはⅡという文字が刻まれている。
“やはり、何回かコアを破壊しないといけないみたいだな……”
ローダンの読みは的中していた。テイントのコアの造りは特殊で、三回破壊しないと完全には絶命しないようだ。しかし、厄介な特徴を前にしても、ローダンの戦意は揺らがなかった。
「何度だって、切り刻んでやるよ!!!」
ザッ
ローダンはナイフを振り下ろし、コアを破壊した。もう一度再生されることは分かっている。しかし、これが敵の最後の命の抵抗だ。もう一度コアを破壊する手間が待っていても、ローダンは自信に満ち溢れていた。
「やった! あとはみんなでテイントの残りの一回トドメを刺せば……」
「……嘘でしょ」
ふと、香李が小さな声で呟いた。あまりにも悲壮な表情を浮かべていたため、卓夫は思わず振り返った。
「……え?」
卓夫は唖然とした。シュリンクのコアは完全には破壊されておらず、ハンマーの下で微かにヒビを入れるだけに終わっていた。
「ハァ……ハァ……」
激しく息を切らす香李。シュリンクの先程の猛攻により、体力がほとんど削られてしまっていた。彼女の腕力は全くと言って良いほど残っていなかった。更にコアの硬度が加わり、なけなしの力を注いだ打撃も、コアを完全に木っ端微塵に破壊するには至らなかった。
「香李ちゃん……」
「ごっ、ごめん……」
「所詮その程度ね」
バシッ
「がっ!?」
シュリンクは伸ばした両腕で卓夫と香李に打撃を与える。コアを完全に破壊されるのを免れ、彼女は切断された左腕を再生させる。
「フフフ……」
バキッ
「あぁっ!?」
香李が悲痛な叫び声を上げる。シュリンクの打撃が、今度は右腕に直撃した。鈍い音が響き、ビコビコハンマーが地面に転がり落ちる。
「香李ちゃっ……うぅ……」
卓夫は先程食い千切られた脇腹を押さえる。瞬時に止血して包帯を巻いたとはいえ、激痛がまとわりついて攻撃を邪魔する。自分はまだまだ動こうと思えば動けるが、香李の怪我は相当なものらしい。
「卓……夫……うっ……」
ハンマーを握ろうにも、かつてない痛みが香李の腕に痺れを起こす。完全に骨が折れている。まともに武器を構えることも不可能となり、ただひたすら痛みに悶絶する。
「卓夫……香李……あっ!」
ローダンは卓夫達に駆け寄ろうとするも、様子がおかしいテイントに気付いて戦闘モードに戻る。テイントは再び切断された胴体を繋ぎ合わせており、筋肉が膨張する音に包まれながら佇んでいた。元々屈強な体が更に膨れ上がり、小さな呻き声を上げる。
「……」
そして、テイントはローダンとダリアに鋭い眼光を向ける。コアに刻まれた数字の通り、あと一回コアを破壊すれば完全に絶命させることができるが、それは不可能に限りなく近いことを、喉に突き刺さる恐怖心が囁いてきた。
ガッ!
テイントは目の前から一瞬にして消え失せた。そして、次の瞬間にはローダンの左上から飛びかかっていた。目で追うこともできないほどの凄まじいスピードで襲いかかる。
「うぉっ!」
ローダンは回避に全神経を注ぎ、思い切り後方へ仰け反った。運良く拳が直撃することはなかったが、地面を粉砕した勢いで発生した衝撃波が、ローダンを後方へと吹き飛ばす。
「最終形態ってか……クソッ!」
「黒魔術……“
ドォォォォン!!!
テイントは高く飛び上がり、全体重をかけて拳を振り下ろした。間一髪でローダンは回避したが、再び衝撃波がローダンの体を痛め付ける。もはや衝撃波の威力が直接殴ってきたような痛みを伴っている。
「ハァ……ハァ……」
流石のローダンも疲労を隠せずにはいられなくなり、息を切らしてその場にしゃがみこむ。そして、激しい痛みが左腕を襲う。感覚で骨折していると分かる。
全く隙を見せなくなった強敵は、弱った草食動物を狙う獣のように、鋭い目付きで相手が生き絶えるのを待っている。
“私が……何とかしないと……”
ダリアもテイントの拳で飛び散った岩石により、右腕を擦っていた。同時に、あまりの危機的状況に冷静さを欠いてしまっていた。
奥義の効果もすぐに途切れてしまい、自分の魔力も底を尽きようとしていた。魔力を失ってしまっては何もできない。かといって、このまま敵の行動の阻害を止めないわけにもいかない。
“私が……何とか……”
ザッ
「……え?」
グシャッ
「ダリ……ア?」
ローダンが背後を振り替えると、そこには全身血まみれで倒れるダリアがいた。
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