スケバン巫女
あれはわたしが、まだ学生だったときのコトです。
わたしは、この都市の教会が運営する女学院に通っていました。
お嬢様学校というやつですね。深緑の制服を着て、授業を受けています。
その日も、古代エルフ語の勉強をしているときでした。
「たのもおお!」
学院の校門に、一人の女子生徒が突っ立っていました。
スカートの長いセーラー服に、いかついメイクの女性が。
背中まで伸びた長い黒髪を、ポニーテールにしています。
あれは、いわゆるスケバンですね。
「見て、スケバンよ!」
「あれが伝説の、スケバンですのね!」
「怖いわ。スケバン伝説なんて!」
温室育ちのお嬢様にとって、スケバンはファンタジーの存在です。
そこにいるだけで、脅威となりました。
みんな、ホラー映画でも見たかのようにパニックに陥っています。
「この学校で、たいそう強い女子生徒がいると聞いた。連れてこい!」
地面を指差し、スケバンさんは怒鳴り散らします。
「こらこら、部外者が学校に入ってくるんじゃない!」
巨漢の体育教師が、スケバンさんを追い出そうとしました。
「うるっせー。強い女子を連れてくるまで帰らねえっ!」
なんと、スケバンさんは大柄の体育教師をケンカキックだけでぶっ飛ばします。
他にも数名の教師が、スケバンさんを追い出すために集まってきました。
「無礼は上等! 降りてこい!」
困りましたね。ここで単位を落としたくはないのですが、騒ぎを大きくしたくないです。
「先生、失礼ですが、早退いたします」
「具合が悪いのですか?」
わたしは、うなずきます。
「スケバンさんを見ると、胸焼けがするのです」
「ああ、アレルギーか何かね。それは大変ですね」
教師から絶大な信頼を得ていたので、ちょろかったです。
校門まで足をすすめると、スケバンさんはまだモメていました。
ですが、わたしが通り過ぎようとすると、「待ちな」と声をかけてきます。
「逃げなさい、クリス・クレイマーッ! ここは危険だ!」
老齢の男性教諭が、わたしに呼びかけました。ここで名前を出しますか……。
スケバンさんが、抵抗しなくなります。
「もういいよ。邪魔したな。引っ込めばいいんだろ?」
「ああ。それなら悪いようにはしない」
「あたいはカンナギだから、治療もできるが、しておくかい?」
手をかざしながら、スケバンさんが教師たちに聞きます。
「いや。気が済んだなら、もう出ていってくれ」
「あいよ」
手をヒラヒラと振って、スケバンさんはわたしの後をつけてきました。ポケットに手を突っ込みながら。
「いや、自分から出向いてくれるとはね」
「あなたのせいで、勉強が疎かになってしまいました。責任をとってもらいます」
振り返りもせず、後ろのスケバンさんに話しかけます。
「あの学校の最強って、あんただろ?」
「どうして、そう思うです? わたしはただの早退した生徒ですよ?」
「そんなバカでかいオーラ発していたら、誰だってあんたが強いってわかってしまう」
……パワーをセーブしていたはずなのですが。
わたしの実力を知っているのは、学内でも二人しかいません。
エマことエメリーン・スミスと、ウル王女ことウルリーカ・ヘンネフェルト姫です。
「あたいはソナエ・ヤシオリ。向こうの山にある神社の巫女だ」
「クリス・クレイマーです。シスター見習いです」
「巫女対シスターかい。因縁ってあるんだねえ」
こちらとしては、あまり関わりたくないですが。
「戦いたくはないですね。異なる神様同士のケンカって、不毛なので」
「ケンカをするのに神は関係ねえ。やり合うのは、あたいとあんた、個人同士だ」
「誰が、あなたと戦うと言いました?」
「違うのかい?」
「もっと別の戦い方だってあるでしょう?」
「だろうけれど、まずは拳で打ち合いたいね」
まったく。河原で殴り合う不良少年じゃあるまいし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます