旅編4 少年が街を案内してくれました
犯罪者をやっつけた事で、一躍時の人となったオスカー様。沢山のお礼の品を貰っていた。中には上等な毛皮もあった。
ひとしきりお礼を言われた後、街の人たちも去って行った。
「それにしても、凄いお礼の品ですね」
「そうだね、一度馬車に戻ろうか」
そう言って歩き出そうとした時だった。
「あの、さっきは助けてくれて、ありがとうございました」
さっきオスカー様が助けた少年が立っていた。少年を見ると、男たちに殴られたところから血が出ていた。
「まあ、あなた血が出ているわ。これで口を拭いて」
急いでハンカチを渡した。
「大丈夫です!大した事は無いので」
そう言って受け取らない少年。でもかなり痛そうだ。
「君、名前は?」
「ダンです」
「ダンか、ちょっと一緒についておいで」
そう言って歩き出したオスカー様。一体どうするのかしら?ダンも不審そうな顔をしつつ、一応ついて来ている。向かった先は馬車だ。
「お坊ちゃま、そのお荷物、どうされたのですか?」
「色々あってね。貰ったんだよ。それよりこの子、男たちに殴られて怪我をしているんだ。すぐに手当てを」
なるほど、ダンの手当てをする為に、馬車まで連れてきたと言う訳ね。ダンを見たメイドたちが、急いで手当てを始めた。
「あの…大丈夫です」
そう言って断ろうとしていたダンを、有無も言わさず手当てするメイドたち。それにしても、手際の良さは半端ない。あっという間に手当てが終わった。
「助けて貰っただけでなく、手当までしていただき、本当にありがとうございます」
深々と頭を下げるダン。
「大した事はしていないよ。さあ、雪も強くなってきたし、気を付けてお帰り」
確かに雪が強くなってきた。
「あの、見た感じこの国の人では無いですよね。よろしければ、助けてくれたお礼に僕が街を案内しますよ」
ダンの言葉を聞き、しばらく考え込むオスカー様。
「それじゃあ、お願いしてもいいかな。そうだな、この国には今日を入れて4日間滞在する予定になっているんだ。もちろん、お給料は出すからね。はい、これが手付金。今日はもう雪が酷いから、僕達はホテルに向かうよ。明日このホテルの前に、午前9時に来てもらえるかな?」
そう言ってホテルの名前が書かれた紙とお金をダンに渡すオスカー様。
「分かりました!でも、お給料は貰えません。それではお礼になりませんから!」
「いいや、そこは受け取ってもらうよ。その代わり、この国の魅力をたっぷり紹介してくれると嬉しいな」
お金を返して来たダンの手に、再びお金を戻すオスカー様。
「こんなにいいんですか!分かりました!しっかり案内できるよう頑張ります」
そう言うと、嬉しそうに走って帰って行ったダン。早速明日から観光開始ね。楽しみだわ!
翌日
早速ダンが街を案内してくれた。普通に歩いていてはきっと気づかないような、隠れ家的なお店もいくつか紹介してもらった。どうやらこの国は木彫りが有名な様で、可愛らしい木彫りのアクセサリーが売っているお店などにも連れて行ってもらった。
お昼は主に海鮮料理を食べた。特にサーモンが有名な様で、サーモンのカルパッチョ、サーモンのホイル焼き、サーモンの燻製など色々な料理を堪能した。
午後は犬ぞりというものに乗せてもらった。名前の通り、犬がそりを引いて走るのだ。初めて乗る犬ぞりにオスカー様も私も大興奮。
その次の日は、スケートというものを体験した。靴の底面に1本の棒が付いており、その靴を履いて氷の上を滑るのだ。
「キャー、オスカー様!!!」
運動神経があまり良くない私は、オスカー様に何とかくっ付いて立っていられる状況だ。ちなにみオスカー様は、すぐに滑れる様になっていた。一体どんな運動神経をしているのかしら?
全く身動きが取れない私を見て、丁寧に教えてくれるダンとオスカー様。そのおかげか、昼過ぎにはオスカー様の手を握ってではあるが、何とか滑れる様になった。
さらにその翌日は、氷に穴をあけて“ワカサギ”と言う魚を釣った。どうやら私はこのワカサギ釣りが得意な様で、オスカー様よりたくさん釣れた。
釣った魚は、ダンがその場で調理してくれた。油で揚げると美味しいとの事で、わざわざ家から調理道具を持ってきてくれたのだ。確かに釣ったばかりの魚は物凄く美味しかった。
楽しかったこの国とも明日で最後か。そう思うと、なんだかとても寂しい。せっかくダンとも仲良くなれたのに…そう思いながら魚を食べていると
「オスカー様、アメリア様、今夜ご都合はよろしいですか?」
急にダンが話しかけてきたのだ。
「ああ、特に予定はないよ」
「それでしたら、どうしてもお見せしたいものがあるのですが」
そう言ったダン。一体何を見せてくれるのだろう。
その日の夜、これでもかと言うくらい着込んで外に出た。昼間とは比べ物にならない程寒い。
「アメリア、夜はかなり冷えるね。寒くはないかい?」
オスカー様が心配して声を掛けて来てくれた。
「ええ、何とか大丈夫ですわ」
そう伝えたものの、やっぱり寒い。そんな私に気づいたオスカー様が、抱きしめてくれた。オスカー様の腕の中はとても温かい。オスカー様の温もりを感じていると、ダンがやって来た。
「お待たせしてすみません。申し訳ないのですが、少し遠いので馬車を出して頂いてもよろしいですか?」
どうやら馬車で行く様だ!早速馬車に乗り込み、走る事3時間。目的地に着いた様だ。
馬車から降りると、そこに広がっていたのは…
「なんて奇麗なの!まるで大きなカーテンが夜空を覆っている様だわ…」
「本当だ、こんなにも美しい夜空を見たのは初めてだ…一体どうなっているんだ?」
まるでカーテンが掛かった様な、美しい光の様なものが空を覆っていたのだ。あまりの美しさに、寒さも忘れてしまう。
「これはオーロラと呼ばれるものです。寒い地域でたまに見られるものなのですよ」
ダンが説明してくれた。こんなにも美しい夜空があるなんて、初めて知ったわ!
「ダン、連れて来てくれてありがとう。こんなにも美しい夜空を見たのは初めてよ。本当に美しいわ!」
私がお礼を言うと、恥ずかしそうに笑ったダン。
「本当に奇麗だね。アメリアとこの夜空を見られて、本当に良かったよ」
私の肩を抱きながら、オスカー様も嬉しそうに笑った。私もオスカー様と一緒に見られて本当に良かったわ。
しばらくオーロラを楽しんだ後は、また3時間かけてホテルに戻って来た。
「ダン、3日間、本当にありがとう。明日の朝、僕らはこの国を出る。これ、3日分のお給料だ。受け取ってくれ」
オスカー様がダンにお金を渡した。
「こんなに沢山受け取れません!」
中身を見て返そうとするダンを、制止するオスカー様。
「いいや、これは受け取ってくれ。君が居なかったらこんなに有意義な3日間は過ごせなかったからね。本当にありがとう。遅くまで付き合わせてしまって悪かったね。おい、ダンを家まで送ってやれ」
近くにいた執事に指示を出すオスカー様。
「オスカー様、アメリア様。こちらこそ本当にありがとうございました!またいつか、この国に遊びに来て下さい。その時はまた案内させてもらいますね」
そう言うと、執事に連れられ馬車に乗り込んだダン。オスカー様の言う通り、ダンのおかげで本当に楽しい3日間を過ごす事が出来た。
もしまたこの国に来る事があったら、きっとダンに会いに行こうと心に誓ったアメリアであった。
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