第29話 あなたと共に生きて行きます

ギルバート様に返事をする当日の朝を迎えた。朝早く目を覚ました私は、せっかくなので少し街を散歩する。早朝という事もあり、人通りも少なくとても静かだ。


こんなに静かな街は初めてね。まるで別の街に来たみたい。散歩の後は朝食を食べ、着替えを済ませる。準備が終わり椅子に座って窓から景色を見ていると、メイドがやって来た。


コンコン

「お嬢様、そろそろ出発のお時間です」


「ありがとう。すぐに行くわ」


ホテルのロビーに向かうと、お父様とお母様が待っていた。


「アメリア、おはよう。結論は出たかい?」


「お父様、お母様、おはよう。ええ、出たわ」


「そのようね。随分とスッキリした顔をしているわ」


そう言うと、お母様はにっこり笑った。


「それじゃあ、早速王宮に向かおうか」


3人で馬車に乗り込む。しばらく走ると、王宮が見えて来た。いよいよね。一気に緊張が走る。でも、もう迷いはない。自分の出した結論を、しっかり伝えよう!


王宮の門まで来ると、既にギルバート様と陛下が待っていた。近くには、王宮の馬車も止まっている。きっと、私の答えを聞いたら、すぐに馬車に乗り込んで国に帰るのだろう。


「アメリア、おはよう。ホテルではゆっくり出来たかい?」


「おはようございます、ギルバート様。ええ、お陰様でゆっくりできましたわ」


私達が話を始めたのを見計らい、お父様とお母様、陛下は一旦私達から離れた。


「随分とスッキリした顔をしているね。という事は、あまり悩まなかったのかな?」


「そんな事はありません!結論が中々出せずに、ずっと悩んでおりましたわ。でも、メイドのアドバイスで、やっと結論が出たのです」


そう言うと、ギルバート様の目をしっかり見つめた。


「ギルバート様、あなたにプロポーズをされた時、正直驚きました。あなたの事を、そんな風に見ていなかったので。でもそれと同時に、心優しいあなたと共に色々な国々を回れたら、どんなに素敵だろう、そんな気持ちを抱いたのも事実です」


色々な国をギルバート様と回る、きっと物凄く楽しいだろう。


「でもそれと同時に、オスカー様の事も考えました。幼馴染として共に過ごして来たオスカー様。途中ですれ違ってしまった事もあったけれど、それでも変わらず私を愛し続けてくれたオスカー様も、私にとって大切な存在です」


小さい時からずっと私を気にかけてくれていたオスカー様も、私にとってはとても大切な存在なのだ。


「そんな時、メイドから“未来を想像した時、どちらの殿方が側に居ないとお嬢様はお辛いですか?”そう問いかけられたのです。そこで私は未来を想像してみました。それぞれと歩む未来をです」


「その時、私はこう思いました。ギルバート様と共に世界各国を回ったら、きっと楽しいだろう。でも、心のどこかでオスカー様の事を考えてしまう様な気がしたのです。私とオスカー様は、小さい時からずっと一緒で、いつの間にかオスカー様は、私にとってかけがえのない存在になっていたのです。その証拠に、2ヶ月間商船で旅をした時も、時折オスカー様を思い、胸が苦しくなることがありました。私にとってオスカー様は、居なくてはいけない、大切な存在だと気が付いたのです」



「だからと言って、ギルバート様が大切ではないと言う訳では決してありません。でも、共に歩みたい人物は、オスカー様なのです。ギルバート様、気持ちに答えられず、ごめんなさい」


ポケットから指輪を取り出し、そっとギルバート様に返した。ギューッと目を閉じた後、ゆっくりと瞼を上げたギルバート様。


「アメリア、君の気持ちを正直に教えてくれてありがとう。随分と悩ませてしまったみたいで、すまなかった。もし君さえよければ、これからも友人の1人として、交友を続けさせてもらってもいいだろうか?」


「もちろんです!私にとってギルバート様は、大切な人には変わりありませんから!」


「ありがとう、それじゃあ、俺はそろそろ出発するよ。そうそう、これ。オスカー殿に渡して貰えるかい?」


ギルバート様から手渡されたのは、どうやら手紙の様だ。


「はい、必ずお渡しします」


手紙を受け取ると、手を差し出して来たギルバート様。差し出された手をしっかり握って、お別れをした。


そして、そのまま馬車へと乗り込むギルバート様。


「アルト、長い間世話になったな。伯爵、夫人色々とお世話になりました。アメリア、オスカー殿と幸せに」


「本当にお前の世話は大変だったよ。でも、またいつでも遊びに来てくれ」


「ギルバート殿下、お元気で!」


「ギルバート様、またいつか、必ず遊びに来てくださいね」


ゆっくり走り出す馬車。ギルバート様が窓から身を乗り出し、手を振ってくれている。馬車が見えなくなるまで、皆で手を振り続けた。


「アメリア嬢、今回の件を含め、色々とすまなかったね。オスカーも待っているだろう、早く帰ってあげなさい」


陛下に促され、私たちも馬車へと乗り込んだ。


「お父様、このまま侯爵家へ向かってくれるかしら?オスカー様に少しでも早く会いたいわ」


きっと物凄く怒られるだろう。それでも私は、1秒でも早くオスカー様に会いたいのだ。


「わかったよ、きっとオスカーもお前の事を待っているだろうからね」


しばらく走ると、侯爵家が見えて来た。急いで屋敷の中に入る。


「オスカー様、オスカー様!」


私の声を聞き、慌てて出て来たのは、侯爵様と夫人だ。


「アメリアじゃないか。という事は…」


私の顔を見ると、嬉しそうに笑った侯爵様と夫人。


「おい、すぐにオスカーを呼んで来い!」


侯爵様が急いでメイドに指示を出す。しばらくすると、物凄い勢いで走って来るオスカー様に、そのまま抱きしめられた。もちろん、私も抱きしめ返す。


「あぁ、本当にアメリアなのかい?」


「当たり前です。私でなければ、一体誰なのですか?」


「アメリアがここにいるという事は、僕を選んでくれたという事なのかい?あぁ、夢の様だ!ありがとう、アメリア。あんなに酷い事をした僕を許してくれるなんて」


そう言うと、泣き出してしまったオスカー様。オスカー様が泣くなんて、珍しいわ。それに、てっきり怒られると思っていたのに…オスカー様の涙を見たら、私まで涙が込み上げて来た。結局その後、2人で抱き合って泣いた。


しばらくして落ち着いた私達。


「アメリア、今まで君の気持ちを無視し、自分勝手な行動を取ってしまって本当にすまなかった。これからは、もっと君の意見に耳を傾ける様努力するよ!あの約束事項も、破棄してもらって構わない。そもそも、お互いが信頼し合っていれば、あんなものは必要ないからね」


「オスカー様…」


「アメリア、今回の件でオスカーも考えを少し改めたみたいだ。ただ、根本的な性格までは変わらないと思うから、まだまだ迷惑を掛ける事も多いと思うが、どうか大目に見てやって欲しい」


そう言って頭を下げた侯爵様。


「そんな、迷惑だなんて。私はオスカー様の少し強引なところ、結構好きなのですよ。ただ、もう少し自由にしてもらえると嬉しいです」


オスカー様の全力で私を愛してくれるところは、別に嫌いではない。むしろ愛されている感じがして、嬉しくも感じていたのだ。


「アメリア、ありがとう」


再びオスカー様に抱きしめられた。やっぱりオスカー様の温もりが、一番落ち着くわね。そうだわ!


「オスカー様、ギルバート様からお手紙を預かってきているの」


ギルバート様から預かった手紙を、オスカー様に手渡す。早速手紙を読むオスカー様。読み終わった後、なぜか微笑んだ。一体何て書いてあったのかしら?


再び私を抱きしめるオスカー様。


「ギルバート殿下は僕から見ても、とても素敵な男性だ。それなのに、僕を選んでくれて本当にありがとう。僕もギルバート殿下に負けないくらい、アメリアを大切にするからね」


そう言って微笑んだオスカー様は、とても優しい顔をしていた。




~10日後~

今日は学期末休み初日、そして、再度正式にオスカー様と婚約を結び直す日でもあるのだ。あの日以来、オスカー様は言葉通り、私を今まで以上に大切にしてくれるようになった。


他の令息と話しても怒らなくなったし(ただ、鬼の形相で令息を睨んではいるが…)ファビアナとも普通に話せるようになった。街にも自由に出られる事になった。


もしかして、これなら学期末休みを利用して、ファビアナの商船に乗れるかも!そう思ってオスカー様に聞いてみると、なんと


「ファビアナ嬢が良いと言えば僕は構わないよ」


そう言ってくれたのだ。嬉しくて急いでファビアナに報告したのだが、まさかのNOの答えが…

結局、商船での旅はお預けとなった。


そして今、侯爵家でそれぞれ書類にサインをしている。


「よし、これでサインは完了だな。後はこれを提出すれば、お前たちは晴れて再び婚約者同士という訳だ!オスカー、今度こそアメリアを大切にするんだぞ」


「分かっているよ!もう二度とアメリアを傷つけたりはしない!」


私の手をしっかり握り、侯爵様の目を見てはっきりと告げるオスカー様。


「それじゃあ、私たちはこれを提出してくるから」


そう言うと、部屋から出て行った侯爵様。それに続き、他の皆も部屋から出て行ってしまった。残されたのは私とオスカー様の2人だ!


「アメリア、君には随分と辛い思いをさせてしまったね。でも、今日こうやって婚約を結び直せたこと、本当に嬉しく思っている。こんな僕だけれど、これからもずっと側に居てくれるかい?」


「もちろんですわ。これからもずっとオスカー様の側に居ます!」


私の返事を聞き、嬉しそうに微笑むオスカー様。


この半年間、色々な事があった。お互い傷つき、涙を流したとこもあった。でも、色々な困難を乗り越えて来たからこそ、さらに深い絆が生まれたと私は思っている。


オスカー様、私はこれからもあなたと共に生きて行きたい。優柔不断で人に流されやすい私だけれど、どうぞよろしくお願いします。


おしまい




~あとがき~

これにて本編完結です。

最後までお読みいただき、ありがとうございましたm(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る