第23話 イライラが止まらない~オスカー視点~
アメリアと事実上の婚約を結んだ後は、全てが順調だった。学院内はもちろん、社交界でも有名なおしどりカップルになった。
そして、婚約を正式に結び直すまで後1ヶ月に迫ったある日。アメリアが陛下に呼ばれたから、週末王宮に行く事になったと言い出した。
陛下と言えば、19歳と言う若さで国王になった人物。21歳になった今も、人望も厚く温厚で王妃を物凄く大切にしていると聞く。そんな陛下が、アメリアに何の用があると言うんだ?
とにかく、心配だから僕も付いて行こう。そう思い、週末アメリアの家に向かった。もちろん、陛下に無礼の無いよう、しっかり正装もしている。
それなのに伯爵から
「今回は私とアメリアが陛下に呼ばれているのだ。オスカーは陛下に呼ばれていないのだから、連れていく事は出来ないよ」
そう言ったのだ。ふざけるな!僕はアメリアの婚約者だ!どうしてアメリアと一緒に行けないんだ。当然納得できる訳がない。
伯爵と言い争っていると、アメリアがやって来た。黄色のドレスに身を包んだアメリアは、見とれてしまう程美しい。やっぱり王宮なんかにアメリアを連れて行きたくない!もし連れて行くにしても、僕の側から離れない様に、しっかり見張らないと!
そんな僕の思いとは裏腹に、伯爵は
「王宮には連れて行けない!」
の一点張りだ。そうは言っても、馬車に乗ってしまえばこちらのものだ!そう思っていたのだが…
父上と兄上がやって来た。また面倒な奴らがやって来たぞ。
「オスカー!お前は何を考えているのだ!すまん、伯爵。このバカは連れて帰るから、早く王宮に向かってくれ」
父上が僕を怒鳴りつけるとともに、伯爵に早く行けと促している。そうはさせるか!アメリアを1人で王宮になんて行かせられない、そんな思いから必死に抵抗するが、護衛騎士4人がかりで馬車へと放り込まれた。
家に着いてすぐ、父上にまた怒鳴られた。
「オスカー、お前は一体何を考えているんだ!今回は陛下から直々に呼ばれているのだぞ。そんなところにお前まで行ったらどうなるかぐらい、お前でも分かるだろう!」
「陛下は温厚な方だから、僕が行っても何も言わないよ!それなのに、父上が邪魔をしたから!アメリアに何かあったらどうするんだ!」
「何かなんてある訳がないだろう!とにかく、お前は今から騎士団の稽古でも行っていろ!テオ、悪いがこのバカを騎士団の稽古場に放り込んできてくれるかい?」
さっきから僕の事をバカバカって、これでも貴族学院には首席で入学しているんだ!本当に失礼な父上だ!それよりもアメリアが心配だ!あの伯爵では、アメリアを守り切れないだろう!
そんな僕の気持ちとは裏腹に、騎士団の稽古場へと連れて来た兄上。僕が途中で抜けださない様に、直々に騎士団長に依頼までしている。兄上め!
「何があったかは知らないが、とにかくテオから頼まれたから、今日は俺が直々にお前に稽古を付けてやるよ!」
なるほど、団長自ら僕に稽古を付ける事で、僕が稽古場を抜け出せない様にするつもりだな。周りからは、同情の眼差しが向けられている。
そう、この団長は厳しいと有名なんだ。でも、気は紛れるかもしれないな。早速団長が僕に稽古を付けてくれた。
それにしても、やっぱり厳しいな…
「どうした?オスカー。もう終わりか?」
「ハーハー、まだ終わりの訳がないでしょう」
「そうだよな。そう来ないとつまらないよな」
再び団長に向かって行くが、とにかくこの男、本当に人間か?と思う程強い。それでも僕も騎士団から期待されている身だ。そもそも、こんな男に負けていては、アメリアを守れない。
とにかく、必死に剣を振るった。
「オスカー、やっぱりお前は強いな。今日は楽しかったよ!さすがに疲れただろう、ゆっくり休めよ」
稽古が終わり、僕にねぎらいの言葉をかけてくれる団長。ゆっくりなんて休んではいられない。急いで家に帰り、汗を洗い流すとすぐにアメリアの家へと向かう準備をする。
「待て、オスカー。私も一緒に行こう」
ゲッ、父上も一緒に来るのか。
「そんなに嫌そうな顔をするな。ほら、行くぞ」
父上に促され、馬車へと乗り込んだ。さすがにもう帰って来ているだろう。そう思ったのだが、まさかのまだ帰ってきていないとの事。
アメリアの奴、こんな時間まで一体王宮で何をしているんだ!とりあえず伯爵家で待たせてもらう事になったが、僕のイライラは時間と共に増していく。もう我慢できない!
父上の制止を振り切って、外で待つことにした。随分と暗くなってきたぞ!こんな時間まで帰ってこないなんて!
その時だった。伯爵家の馬車がこちらに向かって走って来るのが見えた。やっと帰って来た!久しぶりに会うアメリアを、力いっぱいギューギュー抱きしめた。少し強く抱きしめすぎた様で、ぐったりとしてしまったアメリア。しまった、つい力を入れすぎた。
気を取り直し、伯爵に促され玄関に入ったのだが、朝と服が違う事に気が付いた。一体どういう事だ!なんで服が変わっているんだ!体中から怒りが込み上げてきて、ついアメリアに強く問いただしてしまった。
余程僕が怖かったのか、泣き出してしまった。泣いたって、許さないんだからな!そんな僕をなだめ、居間へと連れて行ったのは父上だ。2人でソファに並んで座る。
アメリアの両親とウォルトも加わり、今日なぜアメリアが陛下に呼ばれたのか伯爵が説明していった。
伯爵の話では、なんとアメリアが商船で旅に出た時に出会った男が、実はパッショナル王国の第三王子で、わざわざアメリアに会いに来たとの事。さらに、その王子の案内役をアメリアがする事になったという事。既に今日、2人で街を楽しんだと言う、あまりにもふざけた内容だったのだ。
僕の怒りが一気に爆発した!ふざけるな!どう考えてもその第三王子はアメリアを狙っているじゃないか!そんな男とアメリアを2人きりで街に出すなんて!そもそも、どうしてアメリアは、そいつと2人きりで街に出掛けたんだ!僕という婚約者がいると言うのに。
そう思ったら、自分を押さえる事が出来なくなっていた。そんな僕を、伯爵と父上が必死になだめる。確かに陛下の命令に逆らえなかったというのは理解できる。
頭では分かっていても、どうしても怒りが抑えられないのだ。それでも何とか怒りに震える体を落ち着かせた。これからは二度とこんな事が無いよう、アメリアをもっと厳しく監視しよう!心の中でそう強く誓ったところで、父上が一緒に帰る様促して来た。
とにかく今は1秒だってアメリアと離れたくはない。そんな思いから今日は伯爵家に泊ると伝えたのだが、父上も伯爵も猛反対だ。
挙句の果てに、“ウォルトと寝るならいい”なんて言い出す始末。どうして僕がウォルトなんかと一緒に寝なきゃいけないんだ!気持ち悪い!
結局丸め込まれ、侯爵家に帰る事になったのだが、どうしてもイライラが収まらない。
そのため、帰り際アメリアの耳元で
「今回の事、許した訳じゃないからね。その事は覚えておくんだよ」
そう呟いておいた。
真っ青な顔をして、急いで僕に口付けをするアメリア。やっぱりアメリアは素直で可愛い!でも、まだ許せないけれどね…
その日は大人しく帰ったものの、翌日朝早くに伯爵家へと向かった。少しでも早くアメリアに会いたいからだ。
予想通り“お嬢様はまだお休み中です”と告げるメイド。
「それなら僕が起してあげるよ」
そうメイドに伝えると、真っすぐにアメリアの部屋へと向かった。
「オスカー様、それはいけません!どうか居間でお待ちください」
必死に僕を止めるメイドたち。そんなメイドたちを振り切ってアメリアの部屋に入った。スヤスヤ眠るアメリア。寝顔も可愛いな…
そう言えば、寝顔を見るのはアメリアを森に置いて来た以来だな。
「アメリア、そろそろ起きようか?」
そう声を掛け、唇を塞ぐ。ゆっくりと目を開けるアメリア。
何を思ったのか、悲鳴を上げた。婚約者に向かって悲鳴を上げるなんて、さすがに失礼だぞ!
「どうしてオスカー様が、私の部屋にいるのですか?」
そう呟いたアメリアは、かなり動揺している様で、目をかなり大きく見開いている。どうして部屋にいるかって?そんなもの、婚約者だからに決まっているだろう!そうアメリアに伝えた。そうそう、僕がまだ怒っている事も伝えておいた。見る見る顔色が悪くなるアメリア。本当に分かりやすい性格をしているな。
アメリアに再び口付けをしようと思った時、アメリアの両親とウォルトが入って来た。珍しく顔を真っ赤にして怒っている伯爵と口論をしているうちに、またしても父上と兄上がやって来た。
婚約者の部屋に入ったぐらいで、どいつもこいつも騒ぎすぎだ!そう思っていたのだが…
「オスカー、しばらく伯爵家への出入りを禁ずる」
怒り狂った伯爵に、出入り禁止を告げられたのだ!
「ふざけるな!どうして婚約者の部屋に入ったくらいで、出禁にされないといけないんだ!」
「当たり前だ!とにかく、しばらくは我が家に入れないから、そのつもりで」
そうはっきりと告げられた。さらに、婚約を結び直す事も考えるとまで言い出したのだ!こいつら、何を考えているんだ!体中から怒りが込み上げる。そんな僕を、またしても護衛騎士共が馬車へと押し込んだ。
屋敷に着くと、すぐに居間へと連行された。
「オスカー!いい加減にしろ!このままだと本当にアメリアとの婚約が白紙に戻ってしまうぞ!それでもいいのか?」
顔を真っ赤にして怒る父上。その後兄上と一緒にギャーギャーと1時間近く、僕に説教を垂れた。
「今日1日部屋で反省していろ!」
最後には部屋に閉じ込められた。ご丁寧に部屋の外側から鍵まで掛け、さらに外には4人の護衛騎士まで待機している。
僕が出られないなら、アメリアに来てもらうまでだ。早速通信機を使い、アメリアを呼び寄せた。さすがにアメリアが来たとあって、僕も部屋から解放された。
心優しいアメリア、どんなライバルが現れても絶対に渡すつもりは無いからね!
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