第21話 予想通りオスカー様が怒り狂ってしまいました

ギルバート様と一緒に王宮に戻った頃には、すっかり日が暮れていた。


「アメリア嬢、遅くまでギルバートの相手をしてくれてありがとう。本当に助かったよ!次は来週末、またよろしく頼むよ」


満面の笑顔で陛下にそう言われてしまったので、つい


「こちらこそ楽しかったので、私の方こそよろしくお願いいたします」


と、言ってしまった。その後、陛下とギルバート様と別れて馬車へと乗り込んだ。


「アメリア、お疲れ様。大役を任されて大変だっただろう。帰ったらゆっくり休みなさい。それにしてもあの殿下、随分とアメリアを気に入っていた様だ!お前がギルバート殿下を選ぶと言うなら、別に私は反対しないからね」


なぜそう言った話になるのだろう…


「お父様、私とギルバート様はその様な関係ではございませんわ。どちらかと言えば、同性の友人と言った感じですわね。そもそも、ギルバート様は私の事を女としては見ておりませんわよ!」


お父様に、そうはっきりと告げた。


「どうしてこの子は、こんなに鈍い娘に育ってしまったのだろう…一体誰に似たのだか…」


なぜかブツブツ言いながら、頭を抱えている。変なお父様ね。


そうこうしている間に、伯爵家に着いた様だ。さすがに今日は疲れたわ。ゆっくり休みたいものね。そう思っていたのだが…


「アメリア!お帰り!随分遅かったね、一体君は婚約者の僕を置いて、何をしていたんだ!」


馬車から降りると、ものすごい勢いで飛んできたオスカー様に強く抱きしめられた。あまりにもギューギュー抱きしめられるので、息が出来ないし声も出ない。必死にオスカー様の背中を叩いて訴えると、やっと気づいてもらえた様で


「ごめん、アメリア。つい強く抱きしめてしまった様だ!」


そう言って力を緩めてくれた。このバカ力、本当に殺されるかと思ったわ!そんな私をよそに、今度は唇に口付けをするオスカー様!どんどん深くなっていく。


コホン

「オスカー、それくらいで止めておきなさい!」


お父様の言葉でやっと解放された。


「とにかくアメリアは疲れているんだ。さあ、早く屋敷に入ろう」


お父様の言葉で、やっと屋敷の中に入れたのだが、屋敷に入った瞬間、見る見る恐ろしい顔になるオスカー様。


「アメリア、一体どういう事だ。朝はドレスで王宮に行ったはずだ!なのにどうして今はワンピースを着ているんだ!」


どうやら服が違う事に気が付いたオスカー様。まあ、ドレスとワンピースでは全然違うものね。物凄い勢いで詰め寄って来る。お父様に助けを求めるが、もう面倒くさいのか遠くを見ていた。こういう時に役に立たないんだから、お父様は!


その時だった。


「オスカー落ち着きなさい!お前がそんな怖い顔をしているから、アメリアが怯えているだろう。とにかく居間でゆっくり話せばいいだろう?」


そう言ったのは侯爵様だ!どうやら侯爵様も来ていた様だ。


「父上はどうしてそんなに呑気なんだ!服が変わっているなんて、どう考えてもおかしいだろう!アメリア、王宮で何があったのか、僕に分かる様に今すぐ説明しなさい!」


さらに詰め寄るオスカー様。こんな恐ろしい顔のオスカー様は、初めて見たわ。怖くてついに瞳から大粒の涙が流れた。


「オスカー、お前が鬼の様な顔をしてアメリアに詰め寄るから、アメリアが泣いてしまっただろう。とにかく、居間でゆっくり話をするぞ」


そう言うと、オスカー様の腕を掴んで居間へと連れて行く侯爵様。オスカー様にがっちり腕を掴まれている私も、必然的に居間へと向かう。


「とにかく座りなさい!」


侯爵様に促され、ソファーへと座った。もちろん、隣にはオスカー様がしっかり陣取っている。


右斜めには侯爵様、左斜めにはお兄様、向いにはお父様とお母様が座っている。


「それで伯爵、一体王宮で何があったんだ?」


まだ涙が引っ込まない私を見て、お父様に話を聞き始めた侯爵様。お父様が今日あった事を丁寧に説明し始めたのだが、ギルバート様が私に会いに来たという序盤で、オスカー様が既に怒りだした。


「パッショナル王国の第三王子が、わざわざアメリアに会いに来ただって!ふざけるな!アメリアは誰にも渡さないよ!」


怒り狂うオスカー様に対し、お父様も

「第三王子はただ、お礼を言いたかっただけの様だよ」

そうフォローしたのだが


「お礼を言うだけで、わざわざカルダス王国に来る訳ないだろう!アメリアが狙いに決まっている!」


そう鼻息荒く怒るオスカー様。一度婚約を解消して以来、性格が別人のように変わってしまった。こんなに怒り狂うなんて…


怖くて少し離れようとしたのだが

「アメリア、どうして僕から離れようとするのだい?悪い子だね!」

そう言うと、唇を塞がれてしまった。


「オスカー、それくらいにしておけ。話が進まない!」

侯爵様の言葉で、一旦は解放された。


「伯爵、それで話の続きを頼む」


侯爵様の指示で再び話し出すお父様。


「それでだな…その…あの…実は…」


私がギルバート様の案内役になった事を、言いだしづらいのだろう。お父様がしどろもどろになっている。お父様、気持ちは分かるわ。私も出来れば言って欲しくないもの。そんなお父様にイライラしたのか


「はっきりと言え!」


と、侯爵様に一喝された。


「だから、アメリアがギルバート殿下の案内役になったんだよ!それで早速今日、ギルバート殿下とアメリアは街に出たんだ。さすがにドレスで街には出られないだろう?だから、着替えたって訳だ!」


もうやけくそだ!そう言わんばかりにお父様が叫んだ。ついに言ってしまったわ…怖くてオスカー様の方を見ることが出来ない。


「何だって?アメリア、君は僕という婚約者がいるにもかかわらず、他の男と一緒に街に出たのかい?」


ひぃぃぃぃぃ


「オスカー様、別に2人きりではございませんわ。護衛騎士もおりましたし!それに、次回からはオスカー様も同行しても良いと、陛下もおっしゃってくださいましたし」


「そうだよ、オスカー。それに、ギルバート殿下も、アメリアを同性の様に見ているみたいだし。そもそも、陛下から直々に頼まれたんだ。断れる訳がないだろう!」


お父様も必死にフォローしてくれるが


「それでも男と2人で街に出た事には変わりないだろう!大体、男との会話自体禁止していたのに、まさか一緒に出掛けるだなんて!アメリア、絶対に許さないから覚悟するんだな!」


そうはっきりと私に告げたオスカー様。引っ込んでいた涙が、再び溢れ出す。


「オスカー、落ち着きなさい。陛下の頼みなら仕方がない!そもそも、他の令嬢と恋仲だと疑われていたお前が、アメリアにとやかく言う権利はない!」


「それとこれとは話は別だ!」


「同じだ!とにかく、私たちは陛下に忠誠を誓っているんだ。アメリア、オスカーの事は気にせずパッショナル王国の第三王子の案内役、しっかり努めなさい!それが私達貴族の義務でもあるのだからね」


「はい、分かりましたわ。侯爵様」


この場を何とか侯爵様が収めてくれて良かったわ。沸き上がった涙も、とりあえず引っ込んでいった。


「それじゃあ、私たちはそろそろ帰る事にしよう。行くぞ、オスカー」


「父上、僕はまだアメリアと話したい事があるので、今日はここに泊まります」


そう言うと、私の腰をがっちりつかんだオスカー様。


「何をバカな事を言っているんだ!いいかオスカー。お前とアメリアは、まだ書面上は婚約していない。大体婚約していても令嬢の家に泊るなんて非常識なのに、ましてや婚約してもいない令嬢の家に泊るなんて、そんな事は許されない事だ!」


「うるさいな!アメリアが他の男とずっと一緒に居たんだぞ!どうして僕がアメリアと少ししかいられないんだよ!不公平だ。それに、書面書面と言うが、事実上僕とアメリアは婚約者同士だ!これは社交界でも認められている事実なんだよ!とにかく、非常識だろうが何だろうが、僕は伯爵家に泊るから!」


侯爵様とオスカー様のにらみ合いが続く。


「2人共落ち着け。オスカー、侯爵の言う通りだ!いくら何でも、お前を家に泊める訳にはいかない。どうしても泊まりたいなら、ウォルトの来客としてウォルトと一緒に寝てもらうが、それでもいいかい?」


「オスカーと2人で寝るのか。それも楽しそうだな。俺は別にいいよ」


お父様の提案に、すかさず乗るお兄様。


「イヤ…さすがにウォルトと寝るのはちょっと…」


明らかにトーンダウンしたオスカー様。


「それじゃあ帰るぞ、オスカー」


余程お兄様と一緒に寝るのが嫌だったのか、大人しく侯爵様について行くオスカー様。


ただ、帰り際私の耳元で

「今回の事、許した訳じゃないからね。その事は覚えておくんだよ」

そう呟いたオスカー様。


これはマズいわ!慌てて馬車に乗り込もうとしていたオスカー様を捕まえ、口付けをした。これで機嫌が少しでも直ってくれればいいのだけれど…


オスカー様達が乗った馬車を見送ると、一気に疲れが出た。急いで部屋に戻り湯あみを済ませると、ベッドに潜り込む。


考えなければいけない事は山積みだが、今はとにかく寝よう。その言葉通り、目を閉じて数分後には夢の世界に旅立ったアメリアであった。

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