第19話 祭りの日にあった令嬢が気になる~ギルバート視点~
俺の名前はギルバート・ディアム・パッショナル。パッショナル王国の第三王子だ。既に一番上の兄上が王位を継ぐことが決まっている上、子供までいる。
その為、俺は気楽な第三王子だ。元々比較的自由に生活していた俺は、14歳になったタイミングで、色々な国を見て回った。これからは、異国との貿易を活発に行う事が国を発展させる一番の方法だと思ったからだ。
俺の考えは当たっていた様で、色々な国と貿易を結ぶことで、パッショナル王国は随分と栄えた。さらに、他国を回る事で、各国の王族たちとも仲良くなった。そんな俺も18歳の時、いつまでも異国ばかり飛び回っていないで、国に戻って妻子を持てと父上に言われた。
しかたなく自国の戻り、何度も夜会に参加したものの、これといった女性は見つからなかった。というよりもプライドばかり高く、いかに自分を着飾る事にしか興味のない令嬢に、正直げんなりした。
きっと俺は結婚には向いていないのだろう。このままずっと独身を貫き、次期国王の兄上を貿易面で支えていこう、そう思っていた。兄上は俺の生き方に賛成してくれたが、頭の固い父上と母上は、結婚こそが幸せと思っている様で、俺を何とか結婚させようと必死だ。
そんな堅苦しい日々が1年ほど続いた。そんな時、もうすぐ年に一度のお祭りがあると言う話を聞いた。この祭りは平民のお祭りで、その年の豊作を願って皆で街を踊りながら練り歩くと言うものだ。
俺は王族という事もあり、今まで一度も参加した事が無かった。せっかくなら市民の祭りを見てみたい、そう思い衣装も準備したのだが…
「平民の祭りに殿下が参加されるなど、前代未聞です!お止めください!」
執事に強く止められた。なぜ王族が参加してはダメなのか、さっぱり分からない。
「なぜ王族は参加してはいけないんだ!そんな法律はないぞ!」
そう反論したものの、頑固な執事は断固として認めてくれなかった。それどころか、当日俺の部屋に外側から鍵を掛ける始末。
そんな事をしても、俺は絶対に祭りに参加してやる。幸い窓は開いている。子供の頃から鍛えている俺は、窓から脱出するなんて朝飯前だ。早速衣装に着替え、窓から軽々と脱出した。
愛馬にまたがり、街へと向かう。でも、早々に見つかったようで、護衛騎士を引き連れた執事が俺を捕まえようと追いかけて来た。
クソ、もう見つかったのか!愛馬を街の外れに結び付け、メイン会場へと急いだ。後ろから鬼の形相で追いかけて来る執事たち。捕まってたまるか!
その時だった。
あまり前を見ていなかったせいで、女性とぶつかってしまった様だ。どうやら俺に吹き飛ばされた女性は、尻もちを付いていた。その女性を見た瞬間、体中から血が沸き上がり、鼓動が早くなるのを感じた。
美しい水色の髪にピンク色の瞳、なんて…なんて美しい女性なんだ!ボーっと見とれていると
「おい、あっちに行ったぞ。探せ!」
この声は、執事だ!本当にしつこいな。早く逃げなければ!でも、彼女とこのまま別れたくはない。そう思った瞬間、無意識に彼女を担いでいた。暖かく柔らかな感触に、さらに鼓動が早くなる。
しばらく走ると、公園が見えて来た。ふと周りを見渡すと、カップルばかりだ。さすがにこの場所はマズい!そう思ったのだが、執事たちが目の前に迫っていた!
仕方ない、背に腹は代えられない。彼女に覆いかぶさり、執事たちが通り過ぎるのを待つ。近くで見ると、さらに美しい。それに、よく見るとこの子はこの国の人間ではないな。年中暖かいこの国の住民は、皆肌が小麦色だ。
でも、この子は透き通る程美しい白雪の様な肌をしている。まるでおとぎの国に出て来る妖精の様だ!このままこの子と別れたくはない!そんな思いから、執事たちが去ったのを確認すると、祭りへと誘った。
お祭りの会場に戻り、一緒に踊りを踊る。踊っている姿もまた美しい、俺が見とれていると、何やら急に走り出した彼女。一体どこに行くのだろう。気になって見ていると、どうやらお面屋でお面を買っている様だ。
ふと周りを見ると、何人もの大人たちがお面を付けていた。
「はい、これを被って。あなた誰かに追われているのでしょう?そのままだと、さすがにまたバレるわよ!」
そう言ってお面を俺に渡して来た彼女。俺を気遣ってわざわざお面を買って来てくれるなんて!本当に女神の様な女性だ。お礼を言うついでに、お互い自己紹介をした。彼女はアメリアというらしい。
しばらく踊っていると、休憩したいと言うアメリア。どうやらあまり体力がない様で、疲れてしまったらしい。2人でベンチに座って休む事にした。
さりげなく彼女の事を聞きだす事にしたのだが…
どうやら一緒に来ていた令嬢の存在を思いだした様で、真っ青な顔をして俺の前から去って行ってしまった!
「あっ、待ってアメリア」
そう叫んで慌てて後を追おうとしたのだが、既に人ごみに紛れてしまい彼女を見失ってしまった。
その後1人で踊ったものの、アメリアの事が気になって仕方がない。早々に愛馬の元まで戻り、王宮に帰って来た。
俺の戻りを知った執事が、鬼の形相でギャーギャー説教をして来たが、今はそれどころではない。そう言えば、アメリアはカルダス王国から来たと言っていたな。それも友人の船に乗せてもらって、旅をしているとも言っていた。
旅を好む女性か。まさに俺にぴったりだ!カルダス王国と言えば、アルトの国だな。早速アルトと連絡を取り合って、カルダス王国に行こう!
そう思っていたのだが…
「殿下、その手には乗りませんよ!そう言って、さっさと旅に出るつもりでしょう!とにかく、しばらくは国に居て頂きます!」
執事にはっきりと告げられた。クソ、好きな女性がいると言っているのに、どうしてこいつは俺の言う事を信じないんだ!父上や母上にも訴えたが、執事と同じ答えが返って来た。
兄上からは
「お前は日ごろの行いが良くないから、皆に信じてもらえないんだよ!でも、お前の貿易での能力は高く買っている。だから、しばらくしたらまた他国に行けるようにしてやるから、少し待っていろ!」
と、言われた。しばらくってどれくらいだよ!
結局中々アメリアに会いに行けない状況が続いた。我慢の限界を迎えた頃、やっと出国の許可が下りた。これでやっとアメリアに会いに行ける。早速アルトに手紙を送り、その足でカルダス王国へと向かった。
今から会いに行くから待っていてくれ。アメリア!
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