第13話 アメリアは誰にも渡さないよ【前編】~オスカー視点~

地獄の様な2ヶ月が過ぎ、やっとアメリアが帰国する日を迎えた。予めミルソン伯爵に帰国する日を聞いておいた為、事前に準備をする事が出来た。


早くアメリアに会いたい一心で、急いで港へと向かう。向こうの方で、リーファス伯爵とミルソン伯爵も待っている。


リーファス伯爵に見つかると面倒だ。彼らから見えない場所で待っていると、来た!アメリアだ。急いでアメリアの元に向かい、強く抱きしめた。夢にまで見たアメリアの感触をしっかり確かめる様に。


あぁ、アメリアの匂いだ。柔らかい肌もたまらない!そんな僕からアメリアを引き離したのは、リーファス伯爵だ!僕はもう1秒だってアメリアから離れたくないのに!


さらにアメリアを連れて帰ろうとする伯爵!そうはさせるか!アメリアを伯爵から奪い取ろうとした時、向こうから兄上とウォルトがやって来た。クソ、面倒なのが来たぞ。


僕達の元にやって来ると、すかさず僕を怒鳴りつけて来る兄上。この2ヶ月、どれほど僕が辛い思いをしたか知っているくせに、よくも僕からアメリアを引き離すような真似が出来るものだ!


さすがに兄上に抗議をするが、明日話し合いをするという事で、なぜか伯爵と話を付けてしまった。そして、僕を馬車に無理やり乗せようとする。


ふざけるな!もう二度とアメリアと離れたくはない。兄上を振り切ってアメリアの元へと向かおうとしたのだが、護衛騎士3人を呼びつけ、4人がかりで馬車に押し込められた。


さすがの僕でも4人がかりでは勝ち目はない。


「兄上、どうして僕の邪魔をするんだよ!僕がこの2ヶ月間、どんな思いで生活していたか知っているだろう!」


「ああ、知っているよ!お前が密かに叔父上の家を改築し、アメリアを迎え入れる準備をしていた事も、お前がどれほどアメリアを愛しているかも知っている。ただ、お前とアメリアは婚約を解消しているんだ!とにかく婚約を結び直すまでは、あまり過激な事はするな!」


「港に迎えに行く事の、どこが過激なんだよ!」


「とにかく、アメリアとの婚約が結び直されるまでは、大人しくしていろ!分かったな!」


兄上はそう言ったが、じっとなんてしていられない!早速翌朝、アメリアに会いに行ったのだが、長旅で疲れていた様で、まだ寝ているとの事。せっかくなので待たせてもらおうとしたのだが、“婚約者でもない令息を屋敷には入れられません!と、断られた。


クソ、どいつもこいつも!仕方なく騎士団の稽古場へと向かった。この日も令嬢共が猿の様に「キーキー」騒いでいるのを無視し、黙々と稽古をこなす。


稽古が終わると急いで屋敷に戻り、汗を洗い流す。着替えを済ませると、玄関前に陣取りアメリアの到着を待つ。


「オスカー、玄関でウロウロしていなくても、そのうちアメリアちゃんは来るわよ」


母上に苦笑いされたが、1秒でも早くアメリアに会いたいんだ!放っておいて欲しい!しばらく待っていると、アメリアがやって来た。嬉しくて、ついギューッと抱きしめてしまう。


そんな僕に、アメリアは


「オスカー様、昨日も申しましたが、私たちはもう婚約者同士ではございません。気安く令嬢に触るのはお止めください。それとも、オスカー様は婚約者でもない令嬢を抱きしめる事に抵抗がないという事でしょうか?」


そう言って首をこてんと傾けた。その姿が可愛くて、ついまた抱きしめそうになるのを必死に抑え、誰にでも抱き着く訳ではないとしっかり説明した。


そして、いざ話し合いの場へ。もちろん今回の話し合いでは、何が何でも婚約を結び直すつもりでいた。それなのに、アメリアがしばらく様子を見たいと言ったせいで、婚約を結び直す事が出来なかった。




そしていよいよ貴族学院が始まった。

令息共がアメリアに近づく事を何とか阻止したい!そんな思いから校門でアメリアが来るのを待つ。


やっと来たと思ったら、ウォルトの野郎に阻止され、アメリアに近づく事すら出来なかった。クソ!ウォルトの奴!


仕方なく1人で教室に向かうと、既にアメリアが令息共に囲まれていた。慌てて令息共をかき分け、アメリアの元へ向かい、腕の中に閉じ込めた。だから昨日のうちに、婚約を結び直しておきたかったのに!アメリアが、時間が欲しいなんて言うからだ!


とにかくアメリアは僕のものだ!そう宣言したのだが、ファビアナ嬢に“アメリアが婚約を結び直すと言っていない以上、あなたのものでも何でもないわ!”そうはっきりと告げられ、アメリアまで奪われた。


クソ、この女、無駄に賢いから腹が立つ!


今日は2学期初日という事もあり、午前中で終了だ。急いでアメリアの元に向かったのだが、ファビアナ嬢に阻止されてしまった。


この日を境に、ファビアナ嬢の徹底的な防御にあい、全くアメリアと話せない。そう言えば、この女は弱っている人間に弱かったな。


早速僕は友人にお願いして、演技をする事にした。


「なんだか最近食欲が無いんだ。僕なんて、やっぱりアメリアには相応しくないよね。このまま消えてしまいたい…」


「おい、大丈夫か?しっかりしろよ!お前の誠意を見せれば、きっとアメリア嬢もお前と婚約を結び直してくれるよ!」


「でも、話す事すら出来ないんだ…どうやってアメリアに好きになって貰えばいいんだよ。やっぱり、僕なんてダメな人間なんだ…」


そう言うと、頭を抱えた。もちろん、これも演技だ。よしよし、ファビアナ嬢、こっちを見ているぞ。きっとこれで、ファビアナ嬢は僕の為に動くはずだ。



そして、次の日の昼休み。すかさずアメリアの元へと向かう。もちろん、一緒に昼ごはんを食べる為だ。ただ、2人きりで食べようと言うと断られる可能性があるので、ファビアナ嬢も誘った。


すると、他の令嬢や令息たちも呼んできたファビアナ嬢。せっかく大勢で食べるんだ。この機会に、僕がどれだけアメリアを愛しているか、皆に見せつけよう。


そう思い、アメリアの横をしっかりキープし、アメリアの大好物のサンドウィッチを食べさせる。そして、パンのカスが付いていると言って、アメリアの唇をペロリと舐めた。あぁ~、初めて触れるアメリアの唇。今までは紳士のふりをしていたから、唇に直接触れる事は我慢していた。でも、もう我慢なんてしないぞ!


僕の行動が功を奏したようで、周りからも


「オスカー様の溺愛ぶりは凄まじいわね。このままいけば、近いうちに婚約を結び直すのではなくって?」


「オスカーにはさすがに敵わないな…クソ、どうせオスカーのものになるなら、最初から婚約解消なんてするなよ。無駄に期待しただろう」


そんな声が聞こえる様になった。よしよし、いい感じだぞ。アメリアは周りに流されやすい。やっぱり、周りから固めて行く方がよさそうだ!


そして放課後、アメリアに

「馬車まで送らせてほしい」

と伝えた。


僕が弱っている姿を昨日見ていたファビアナ嬢は

「アメリア、せっかくだから馬車まで一緒に行ったら?」

そう言ってくれた。やっぱり、この女は弱っている人間に弱い様だ!


人の意見に流されやすいアメリアは、案の定

「それじゃあ、お願いしますわ」

そう言って、にっこり笑った。


久しぶりにアメリアと2人きりだ。もっと一緒に居たい!でも、すぐに校門に着いてしまった。

「それではオスカー様。ごきげんよう」


そう言って伯爵家の馬車へと乗り込もうとするアメリア。そうはさせるか!アメリアを抱きかかえると、そのまま侯爵家の馬車へと乗せる。もちろんアメリアは必死に抵抗するが、普段から騎士団で鍛えているんだ。アメリアの抵抗なんて、子猫が暴れている様なものだ。


アメリアを拉致し、向かった先は騎士団の稽古場だ。正直ここにはあまり連れて来たくないが、背に腹は代えられない。とにかく今は、アメリアと離れない事を最優先させたのだ。


馬車から降りると、しっかりアメリアの腰に手を回した。ここは騎士団の正面入口だ。沢山の騎士や見学に来た令嬢たちもいる。ここで僕たちが、いかにラブラブかを見せつけてやろう。


そんな僕に対し、またしても“婚約者同士ではない”と言おうとするアメリア。腹が立ったので、唇を塞いでやった。初めて感じるアメリアの温もりに、柔らかい感触!これはたまらないな。つい調子に乗って、アメリアの口の中に舌を入れた。やっぱりアメリアは最高だ!口の中で逃げようとするアメリアの舌を、僕の舌が絡める。


もっと!もっと!そう思っていたのだが、アメリアが泣き出してしまったので、仕方なく解放した。ただし、もしまた婚約解消の話をしたら、唇を塞ぐと言っておいた。これでアメリアはもう婚約解消の話をする事はないだろう。


それに、僕達の口付けを沢山の人が見ていた。これでまた一気に噂になるはずだ。そもそも、婚約者でもない男女が口付けをするなんてふしだらだ。そんな噂が立ったら、それこそ社交界で笑いものにされる。


そうならない為にも、アメリアはもう僕と婚約するしか方法はない!よし、順調に進んでいるな!


騎士団の稽古場に着くと、アメリアを見学席に連れて行った。絶対にここから動いてはいけないと、強く言い聞かせたから、素直なアメリアはきっと僕の言う通り動かないだろう。


去り際にアメリアの頬に口付けを落としたが、特に抵抗する素振りもない。もう完全にアメリアは僕のものだ!

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